第3話 模擬戦闘
昼休みが終わり、5時間目、普通の学校とは違い、魔法学校では基本的に午後は全て魔法的な授業、及び実戦形式の訓練になる。
「おい、勧めておいてなんだが大丈夫か?顔色が悪いが...」
珍しく、本気で心配した顔でシルヴが聞いてくる。それに続きストレアも、
「ごめん、今度からもう少しまともな料理を作るように言い聞かせておくから」
茶化すことなく謝ってくる。それに対しグランは
「ウン、ダイジョーブダイジョーブ、チョットヘンナヤーツタベタダケヨー」
非常に青ざめた顔で機械的に答えるだけであった。
「あいつ、何入れたんだろ?そんなやばいのなんてうちにあったっけ?」
「ティアは錬金術師の適性があっただろう?多分それじゃないか?」
「ああ、それかぁ」
ストレアが納得したところで、
「よし、お前ら!今日は召喚獣を使用した戦闘訓練だ!」
先生の声が聞こえてくる。
「よし、始まるよ?行こうか」
「ほら!お前もさっさと元に戻れ!」
「はっ!おれは今まで何を!」
「そんなにひどいものをよくもまあ食い切ったものだな...」
「後で感想求められるからな...」
げんなりとした表情でグランは答える。すると、先生が近寄ってきて、
「グランよ、今日もお前は参加するんだな?」
聞いてくる
「参加しますよ〜、だってこれ取らないと魔獣討伐には入れないじゃないっすか」
「はぁ....まだ授業は4回目だ、まだ抜けれるからな?お前の適正なら他のところならトップクラスなんだ、あんまりこれに固執するなよ?」
「固執しますよ....先生もわかってるでしょう」
「わかった....」
先生が立ち去って行き、その姿が遠くなったところで、
「本当にいいのか?」
シルヴが聞いてくる。
「お前までそんなこというのか?」
グランが聞き返す。
「いや、これ以上は言うまい」
「そうしてもらえると助かる。」
「グラン....」
彼らがいる位置から、少し離れた位置で先生が声を上げる。
「お前らの戦う組み合わせはこちらで決めておいた!1人2試合ずつやるようになってるから確認してくれ!10分後に行う!」
それを聞いたグランたちは、
「さて、確認しに行こうか」
グランが歩きだす。その後ろ姿を見ながら、自分もついて行こうと、シルヴが歩きだそうとしたら、
「ねえねえ、なんで先生はグランにあんなことを聞いたの?」
ストレアが聞いてくる。
「ああ、そうかお前は4月の最初の授業休んでいたんだったな。.....召喚獣を召喚するとそれらの加護を受けられるのはわかるよな?」
「うん、身体能力が上がったり召喚獣特有の能力や耐性を得られるんだよね?」
「それならば、グランの試合を見ていればわかる。」
「ふーん?まあ、楽しみにさせてもらうね。」
2人の会話が終わったところで前方のグランが、
「おーい、何話してんだ?早くこいよー」
と、声をかけてくる。シルヴたちはそれに返事をしながら、グランへと駆け寄った。
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「おれは3回戦目ね、意外と早いな。」
グランは1人呟く、今現在グランはシルヴたちと一旦離れ、ある人物を探していた。
「んー、いねえな。トイレにでも行ってのんかな?だとしたら探しても仕方ないし、一旦戻るか。」
と、グランが戻ろうとしたところで声をかけられる。
「ふっふっふ、我をお探しのようじゃのう、グラン。」
そこにいたのはどう見ても高校生には見えぬ小さな体だが、圧倒的な存在感を持つ少女だった。
「ん?今どこから現れたんだ?全然気配も何も感じなかったんだけど?」
「簡単な話じゃ、こいつの力を借りたんじゃよ。」
と言って、少女は足を軽くふみ鳴らす。すると、少女の後ろに突然現れたかのように、巨大な銀狼が出現した。
「銀よ、ご苦労じゃったな。一旦戻って良いぞ。」
「ワフ!」
その巨大な銀狼の足元に巨大な魔法陣が現れ、銀狼が光の粒となって消えてゆき、完全に消えたところで、
「というわけじゃ」
「白銀狼か、それも名付けが終わってる状態の」
「クックッ、まあ我の才能があればあの程度、当たり前じゃ」
「しかし隠密の恩恵か、すげえな、おれが全く反応できなかった。」
「召喚獣の加護を受けれない主は、これを素で見破る必要があるわけじゃがのう?」
「全くだな....、そうだ、本題を忘れるところだった。おれとあんたは今日の2回目の試合で当たる。」
「ああ、そうじゃのう。して?私に手加減でもしてほしいのか?」
「ざんねーん、逆でしたー。.....お前の全てをぶつけてくれ。あの技も含めて。」
グランの言葉に少女は眉を細める
「一体どこでそれを知った?まだ生み出してから5日もたってない上に誰にも話した覚えがないんじゃが?」
まるで今すぐにもグランを殺さんとばかりに威圧を強めてくる少女にグランは、
「風の精霊が教えてくれたんだよ、まあ誰にも話すつもりはないから安心してくれ。たとえ今日の試合でお前が使わなかったとしてもだ。」
と返す、すると、今までの殺気が嘘のように消えて、
「ふん、お主のそれは本当に便利なものじゃのう?空気の流れがある場所の情報はある程度、わかるというんじゃから、まあよい、どっちにしろこの技はそこまで隠そうとも思っておらなんだ、使ってやろう。」
「ありがとな!」
グランは礼を告げると走って去っていく。残された少女は
「加護も何もないのによくやるもんじゃのう。」
呆れたように口にするだけであった。
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「遅いぞ!どこに行ってたんだ?」
シルヴが問いかけてくる。
「いや、すまん。ちょっと話をだな」
「もうストレアの勝負が始まるぞ?」
と、シルヴの指の先を見ると確かに勝負が始まりそうであった。
「両者、準備はいいか?」
「「大丈夫です」」
ストレアと対戦相手の両方の返事が重なる。
「ではスタートラインに」
2人がラインに立ち、構えると
アナウンスの声が聞こえてくる。
『制限無しのデスマッチでよろしいですね?』
アナウンスの問いに2人が頷き、
『ではカウントダウン開始します』
2人の間に10という文字が浮かび上がる。そして、そのカウントが終わった瞬間、
「おいで!黒灰龍!」
「こい!星光狼!」
ストレアの背後に巨大な黒に近い灰色の鱗を持ち、二本の足で立ち、人間に近い形をしているがその背に巨大な黒い翼をもつ龍が、その目の前の相手の背後には全身が夜空のような色の毛に包まれた狼が現れる。
まず先に仕掛けたのはストレアだった、
「はぁっ!」
人間では考えられないほどのスピードで踏み込むと同時に、殴りかかる!それを相手は掌で受け止め、足払いをかける。それと同時にストレアは後ろへ飛び、魔法を唱える!
「氷雪弾!」
ストレアの周りに5つの魔法陣が浮かび上がり、それら一つ一つから人の頭の2倍ほどの大きさの氷の塊が相手に向かって飛んでいく。
しかし、相手の背後にいた狼が黒いオーラを纏った咆哮を放ち、それらを打ち砕く!
それと同時に相手の手の中に拳銃が現れ、そこから光弾が放たれる。それがストレアに向かっていくが、ストレアの目の前で光が散り、搔き消える。
「ぐっ!竜種の絶対防御か!」
「これがあると、ある程度の攻撃力のある相手じゃないと勝負にならないから嫌なんだけどね。」
ストレアが言うと同時に、ストレアの手の中にレイピアが現れる。さらに、それを指揮者の棒のように振ると、ストレアの周りにいくつもの魔法陣が現れる。
「なめんじゃねえ!いくぞ!星光狼!」
「アオオオォォォォォ!」
狼が吠えると同時に相手の拳銃が真っ黒に染まり、黒いオーラを纏い始める。
「黒纏弾!」
言うと同時に、拳銃から直径50cmほどの黒い光のレーザーが放たれる!
「これは受けるとまずいかな?」
ストレアはレイピアを振ることによって、浮いていたいくつもの魔法陣を3つほど自分の目の前に持ってきて、そのレーザーを受け止める。そうすると、黒い光が一瞬で打ち消される。
「三重だと強すぎだったかな?」
「クソ!なら次は.....」
相手が次の技を撃とうとした時に、
「やっちゃっていいよ」
ストレアが一言、龍に向かって声をかけると龍が咆哮をあげる!すると、
「う....うあ....」
「グルル....」
狼と相手が気圧される。それと同時に龍が空に飛び上がり、地面に向かって降下し、尻尾を打ちつける!それにより、盛大に土煙が上がり、地面が放射状に砕け散り、そしてアナウンスが流れた。
『片方の死亡が確認されました。時空魔術を使用します。』
地面の後も何もかもが試合開始前に戻り、相手の姿と狼の姿が、スタートラインの位置に戻る。そして教師が
「勝負あり!ストレアの勝ちだ!さあ、次のやつ!入れ!」
また、2人の生徒がアリーナの中央に入っていく。そしてストレアがグランとシルヴの元へと戻ってくる。
「お疲れだ!ストレア!あのドラゴンの威圧、流石だな!」
グランが言い、シルヴも、
「貴様と戦うのは俺もできれば避けたいな」
ストレアを賞賛する。
「とか言っちゃってシルヴは別に僕に勝つぐらい簡単でしょ?」
「いや、そうでもないさ。」
2人が会話をする傍らでグランは、
「さて、この次は俺だな」
と独り言を呟いた。