第2話 グランの目標
グラン=レイスは非常に朝に弱い。
9:00には魔法学校の席にはついてはいないといけないのに、彼は基本的に8:00過ぎ頃にようやく眼を覚ます。
「ヤベーヤベー....ま、どう頑張っても遅刻確定だし2時間目くらいまでは諦めよう。頼んだぞ!3時間目あたりのおれよ!言い訳を!」
「アホなこと言っとらんで、早く準備をしろ!」
黒髪の男が急かすように言ってくる。その男の名前はシルヴェストリ=アーキ、グランの通う魔法学校の首席である。
「おいおい、シルヴ、首席様が遅れちゃいかんでしょうよ。おれのことなど気にせずさっさと行きなさい」
「やかましいわ!あーもう、見てられん!貴様の荷物はこれだろう!?おれが持って行ってやるから、服を着替えたらすぐに学校に来い!遅れたら貴様の机の上に飾ってあった。ガン◯ムのプラモデルを吹き飛ばしてやる!」
「先にいけ!10分で追いついてやる!」
「そのやる気を朝起きる時間に使え...全力でくるのはいいが、一般人にみられるなよ?」
「わかってるさ」
シルヴが出て行った後に、グランは急いで学校の準備を終わらせ、学校の制服に着替え、家を出る。
「じゃあ、行ってくるわ」
返事はない。彼の母親は既に他界しており、父親は10年前から行方不明であるからだ。
「さて、じゃあいくか!」
玄関を出るとまず最初に人が周囲にいないかを確認し、魔法を唱える。
「初級隠密、よし、これで大丈夫かな」
グランの周りを光の粒子がしばらく舞い、それが収まってから、ジャンプで屋根の上に着地し、そこでさらに魔法を唱える。
「初級身体強化、初級重力軽減」
また、先ほどと同じようになった後に、グランは隣の家の屋根へ飛び移る、そして、ものすごいスピードでどんどんと屋根をとびうつりながら、進んで行く。
「やっぱ走ると気持ちいいな」
どんどんスピードを上げて行く、すると、
「ん?なんだあれ?まさか....」
グランと同じようにぴょんぴょんと屋根をとびうつりながら移動している人物を発見する。
「おいおい、おれの同類かよ、せっかくだし一緒に行こうかな、おーい!」
と、声をかけるとこちらを振り向く、しかし、
「わっ!?」
振り向いたせいで足の着地地点を外し、屋根から落ちかける
「この移動方法に慣れてなかったのか!ヤベェ!助けてぇけど、この距離じゃ間に合わねぇ!」
すると、屋根から落ちるはずの人影の周りを光が囲んだかと思うと、何もない空間をまるで足場があるかのように飛びながら、屋根の上に登り直した。
「あれは...すげえな、空中歩行とは恐れいったぜ」
落ちなかったことに安堵しつつ、謝りに行こうとグランが声をかけに行くと、
「声をかけてきたのは君か?一般人に声をかけられたと思ってびっくりしたぞ。」
そこには黒髪の少年がいた。
「あ、そうなのか。すまねえな、驚かせちまった。」
「いや、気にしないでくれ。この程度では怪我もないからな、それよりも学校に遅刻しそうだから、私は先に行かせてもらうよ」
少年が走りだしたのでそれについて行きつつ、
「いや、おれも遅刻しそうだからな、多分道のりはほとんど一緒になると思うが」
言いながら、グランも再び移動を開始する。
そして、道中、
「なあ、あんた高等部2年の人だろ?」
「ん?よくわかったな」
「空中歩行なんて2年生じゃなきゃ使えないでしょ。」
「そういう君は1年生のグランだろう?」
「あれ?おれのこと知ってんの?」
「当たり前だ、学校中で君のことを知らない奴の方が珍しいだろう。なんてったって入試の試験で先生を倒したなんて滅多に無い事例を起こした上に、あの召喚獣事件だ。うちの魔導防犯の奴らが欲しい欲しいと嘆いていたよ。」
「おれとしては魔導防犯よりも、魔獣討伐希望なだけどな」
「ほう?珍しいな、あんなリスクのある仕事に就きたいだなんて、まともな召喚獣がいてもダメ元で魔導防犯に就職しようとするやつがいるなかで、魔導防犯適正がありながら、魔獣討伐志望とはな」
「魔獣討伐なら、あらゆる名目で世界の立入禁止区域や、閲覧不可の情報を見ることができるからな。ちょっとしたいことがあるんだ。」
「ほう、まあ何をするかはその人次第だからな、あまり詮索するものでは無いが聞かせてもらっても?」
「いや、ただ親父を探すってことだ。行方不明なんだ。」
「そうなのか...ん?そろそろ学校だな。よし、ではな」
すると、確かに学校が見えてくる。グランも返事を返す、
「ああ、じゃあな!」
「それと一つ注意だ」
「ん?」
「先輩には一応敬語を使っておけ、私は気にしないが、それをよく思わない輩もいるからな」
「ご忠告どうも」
黒髪の少年と別れた後、
「あ!名前聞くの忘れてたわ!」
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「グッモーニン!シルヴ!」
「きたか....良かったな、貴様のプラモは後5分遅れていたら木っ端微塵だったぞ」
「おいおい、挨拶には挨拶返せって〜、一般常識だぜ?」
「.....いまから、ぶっ壊そうか?」
「待ってくれ、態度を改めるから」
二人が会話をしていると、一人の生徒が近づいてくる。
「二人とも朝からやかましいね、低血圧の僕には眩しい光景だよ」
「おう、ストレアか、グッモーニンだ」
「おはよう、ストレア」
近づいてきた少年の名前は、ストレア=イルミ、銀に近い髪の色をした不思議な雰囲気を持つ少年だ。ちなみに初めて会った時、グランはストレアを女と見間違えた。
「うん、おはよう、ところで1時間目ってなんだっけ?」
「日本語のお時間だぜ」
「数学だ」
二人の声がかぶる。
「「え?」」
すると、シルヴが肩を怒らせながら、
「だから、貴様はなぜそういうところでつかなくてもいい嘘を吐くんだ!そういうのが信用に関わってるのだとなぜわからん!」
「あーもううるさいうるさい!別にいいだろ!ちょっとしたお茶目だろ!?」
「あー、数学ねわかったよ。ありがとう二人とも」
「おい、こいつに礼を言う必要はないぞ」
「おいおい、2人の功績を分かち合う気持ちはないのかい?シルヴ?」
「お前と言うやつは本当におれを苛つかせてくれるな....」
「さて、そんなことよりもう時間だ。席につこうぜ」
「お前が言うな!」
「僕は数学の教科書でも取ってこようかな」
三人が散らばり、しばらくしてから、クラスの全員が席に着いた頃に、数学の教科担任が入ってくる。
そのまま授業は滞りなく進んで行き、2、3、4時間目が過ぎて、昼休みの時間へと入る。
「さて、お前が....お前がおれのことを急かすから弁当を持ってこれなかったんだわかるな?おれの言いたいことがわかるな?」
「全くわからんな、なんだったら貴様が何語を話しているのかも理解しがたい。」
「おいおい、3時間目に授業していただろう?日本語だよ、ジャパニーズだよ、君はそんなことも覚えてないのかい?」
「やかましいわ!そもそも貴様が朝起きるのが遅かったのが悪かったんだろう!」
教室の一角では昼飯を忘れたグランが昼飯をシルヴにたかろうとしていた。
「頼む!この後模擬戦じゃん!このままだとおれは生き残れない!」
「勝手に死んでいろ、おれはそこまで面倒を見きれん。」
グランが水を飲んで空腹を誤魔化そうかと考えていた時に、
「グラン、これ食べるかい?」
天使がいた。
「ありがとうストレア!お前、本当天使だよ!シルヴなんかと全然違う!愛してる!」
「大げさだね、それと、とりあえず僕はホモじゃないから告白はお断りするね」
「別に告白したわけじゃないのに振られた!?...で、これ何?」
「僕の妹が作ったやつだよ、と言うか元々グランに渡してくれて言われたものだしね。遠慮しなくていいよ」
「.....え?今、お前の妹が作ったって言った?」
「うん」
ストレアが答え、ついでにシルヴが伝えてくる。
「それとお前向けに作られたものだとも言っていたな。ありがたく頂くんだな」
ちなみに、ストレアの妹の名前はティアラ=イルミ、料理は下手ではないが、チャレンジ精神が悪い方向に振り切れている少女である。
「なんで毎度毎度おれは実験台なんですかね?」
「君のことが大好きだって言ってたよ?よかったね、身内が言うのもなんだけど、うちの妹かわいいし、料理もできるし成績も優秀だし、優良物件だよ?」
「よかったじゃないか、お前には勿体無いくらいの優良物件だ、そのまま付き合ってゴールインしてしまえ」
「うん、とっても嬉しいけどあちらの普段の態度を見るに大好きってさ、多分実験動物的な意味合いが大きいと思うんだよね」
「ほら、もう昼休みも終わっちゃうし、グランも早く食べよう」
「あ、ああ...」
グランの表情は暗かった.....
ちなみにご飯は名状しがたい何かだったとここに記しておく。