ボランティア(完)
「それにしても兄貴、何で清掃治動にスーツなんすか?」
「うっ…!」
痛いところを突かれたな。
「大将のことだ、きっと何か深い意味があるに決まっています。そうですよね!大将!」
期待に満ちた表情で丸尾が聞いてくる。
「…、あ、おー、そうよー!あたぼーよ!(いえねー!ボランティアそっちのけでナンパするためにスーツ姿で来たなんて死んでも言えねー!)」
何が心の声らしきものが伝わってくるんですが、それは…?
「それでそれで、どんな意図があるんですか!?」
おい、察してやれって。
「そりゃ、まだお前らには早いな!これは、ヤンキーの境地に達することができればおのずと分かってくるぞ! だからお前ら、精進しろよ! 」
苦しいな。
「うっす、分かりました!」
何で素直に納得してんだ?そうか、こいつらアホだったな。
「どんな境地に達すれば分かるのかしらね!?」
再度ナンパされた女が男三人に聞こえるようにわざと、連れの友達の女に言う。
「おい、お前、大将に向かって何てことを!」
「おいおい、いちいち他人の言うことに気をとられてちゃー、だめだぜ!(くそー、またあの女ー!)」
お前も大変だな…。
「…、はいっす…。それにしても、さっきのナンパ野郎は何だったんすかね、ボランティアの場を利用してナンパなんて同じ男として情けなかったっすわ!」
つらいお言葉だな。だが正論だ。
「(俺がそのナンパの男なんだが…、心が痛い…。)ん、んー!んじゃ、掃除すっぞ!…だが、俺はその前にやることあっから、ちょっと行ってくるわ!」
そう言い残し、利紀(ヤンキーver)は木の密集するところへと向かって行った。
「おい、一体何してくれんだよー。」
向かって行った先には黒服に身を包まれた長身の男(執事)。
「何がでございますか?」
「何がじゃねーよ。俺はもーヤンキーごっこなんてとっくに飽きてんだよ!それより今、俺はあの女を見返してやりてーんだよ!」
前の話でヤンキーごっこやめるって言ってたもんな。
「あの女性がよいと…?!」
「いやー、ほら、自分に刃向かってくる相手を服従させるのって燃えるだろー!優越感ってゆうかさー。」
見返すってそっちか…。ってか、あんだけ言われて頭の中はまだナンパで満たされてんのか…。
「まあよいです。ならこうしましょう!私があの女性とあなたの仲を自然とサポートしますから、あなたはヤンキ一道を彼らに教えてやる、というのは!?」
おいおい、お前ら何しにここに来たんだ…?! 清掃活動だろ…?! なんで執事のお前までそれ忘れてんだよ!
「なんで、またヤンキー!?まーいいや、じゃーそれで!」
「はい、分かりました。では、利紀様は彼らと合流して適当に動いていてください。」
利紀(ヤンキーver)は二人の男の元へ走って戻って行く。
「うっす!掃除はやって…るようだな。」
「はいっす!」
お前と違って意外と真面目だな。
「きゃー、ちょっと何すんですか!離してください。」
近くで女の悲鳴がした。
「ふっふっ…、お前、なかなかの美少女じゃないか。気に入った、俺の妻になれ!」
黒服の男が女の腕をつかんで、どこかに連れていこうとしていた。黒服…いろいろ突っ込み所はあるが…まず言えば…、あれお前みたいな奴だな。
「何だあいつ、こんなところでガールズハントなんて。」
だから、それ、お前もだろ。
「嫌ですっ、何するんですか、まわりの人呼びますよ!」
「まわり…、誰もいないじゃん、ほら、選択肢は無いんだよ、行くぞ!」
不思議と周りにはさっきまで大勢いた人間が誰一人おらず、利紀含めた三人の男しかいなかった。
「え、さっきまで大勢いたのに…何で…!誰かー、助けてー!」
「兄貴…!あれ…!」
田中が女を指さして言う。
「あいつ…、はー、行くぞ!」
ヤンキ一三人は現場へと走る。
「何、女に手出しとんじゃー、われー!」
田中と丸尾が二人同時に男に襲いかかって行く。
「ホ~~、アタタタタ!」
黒服の男が両手の人差し指と中指で二人の体を連続で突く。
「うお!動けない…!」
立ったまま硬直する田中と丸尾。まじで動けないのか…!?
「経絡秘孔の一つ、『不動』をついた。お前らはもう俺の合図があるまで動くことはできん!」
やめろ、訴えられるぞ…。
「ふん、お前ごときで俺を倒せると思うなよ!」
利紀(ヤンキーver)は自信満々な表情。
「○斗百裂拳、アタタタタ!」
「ふ、うぬの攻撃はおそいわ!はあっ!」
だからやめろー!
「グハッ!何、この俺が…こんなガキに…。くそっ…、今日のところは撤収してやる、ぐはっ。」
黒服の男はその場を急いで去って行った。
「さあ、もう大丈夫だ、お嬢ちゃん。」
利紀(ヤンキーver)は女のすぐ左側に立ち、彼女の右肩に右腕をかける。おいやめとけ、この女なら痴漢とか言ってくるぞ!
「は、はい!あ、あの助けてくれてありがとうございます。あと、さっきはヤンキーの境地とか馬鹿にしてごめんなさい。」
おっとこれは…。
「いえいえ、気にしないでください。(これ絶対俺に惚れたな。くっくくく、さっきまであんなに馬鹿にしてたくせに頬を真っ赤にして…。よーし、後もう一押しだな。ありがとよ、沢井!まー、この女が惚れたのは本当の俺ではなくヤンキーの俺だが、大した問題ではない。くっくくくー。)」
やっぱあの黒服、執事の沢井か…。
「さすがっす、兄貴一!」
「お見事です、大将ー!」
いつの間に動けるようになったのか知らんが、田中と丸尾の二人が利紀(ヤンキーver)に飛びついてくる。
「おいおい、やめろって…。苦しい苦しい。」
利紀(通常ver)、見参! (飛びつかれた衝撃で、ヤンキセットが取れた。)
「えっ…。」
「えっ…。」
「えっ…。…きゃー!触らないでよ、この変態ナンパ男!」
すごい態度の変わりようだな…。
「おい…、一体いきなりどうしたってんだよ…。」
困惑した表情の利紀(通常ver)。そこにどこかへ行ったはずのさっきの黒服(沢井)が一瞬で戻ってきた。
「申し訳ありません、付けるのがゆるかったようです。利紀様、これでございます。」
沢井は、とれて落ちたヤンキーセットを手に取り、利紀(通常ver)の前に見せる。そしてそれを受けとり、すばやく体のあちこちに付ける利紀(通常ver)
「どうも、大将またの名を兄貴といいます。では、掃除がんばって!」
利紀(ヤンキーver)見参!田中と丸尾の二人の方に向き直りあいさつするとすぐに走り出す。それを後追いする沢井。
一瞬硬直する田中と丸尾、そして…
「おいまてこらー!よくも俺らを」
「よくも私たちを今まで」
「だましてくれたなー!この変態ナンパ野郎ども一!」
追いかけてくる。やはりな。
「何で私まで変態扱い…。ばれないよう、まわりの人間がいなくなるように手配したり、あなたが輝くためにわざと勝負で負けたりといろいろ配慮しましたのに…、泣けてきますぞ、利紀様…。」
お前も大変だな…。何かまわりの人間全員どっか連れてってたしな、何か渡して。何渡してたんだろ?金持ちって大変だなー!(くそ!)
「うるせー、もう素顔もばれちゃったしー!もう心身ともに疲れたよ…。ああー、ちくしょー、も一終わりだー!」
何度も言うことになってしまうが…お前も大変だな…。