ボランティア(1)
「それではボランティアの皆さん、この地域一帯の清掃活動を始めてくださーい。」
帽子とタオルを身につけて、笑顔で指示を出している男。それに対して、動きやすそうな格好をし、男の指示を座って聞いているその他大勢。
「さーて、やるかっ」
やる気に満ちあふれているスーツ姿の少年。
「お、いい具合にいるねー。」
辺りを見渡すスーツ姿の少年。
「す、すみません…、あの…、これ終わったら…、お茶…、しま、せんか…?」
緊張気味にとある少女に話しかけるスーツ姿の少年。
「またの機会に。」
それを笑いながら受けながす少女。
「そ、そうですねー。」
がっかりした素振りを一瞬見せるもすぐに笑顔で返すスーツ姿の少年。そして、笑顔のまま、その場を後にする少女。
「何あいつ、ナンパとかきもいんですけどー、っていうかボランティアにスーツとかありえなくなーい、もしかして、あれかっこいいとか思ってんのかなー。頭おかしいでしょー。」
「確かに、笑えるー。」
歩いた先で友人と思われる少女と合流し、楽しそうに会話を始める少女。
「……」
「うわー、もう帰る!」
走り出していこうとするスーツ姿の少年。しかし、その瞬間、手袋をつけた手が、少年の後ろの襟を鷲掴みにする。
「ぐへっ。」
首が圧迫されたようで咄嗟に声をもらしてしまうスーツ姿の少年。
「何をおっしゃっているのですか!何のためにボランティアに参加したのですか!」
そう言い、黒服姿の男は襟から手を離す。
「そりゃー、お前、法条家長男として、法条家の跡継ぎをつくらないといけないだろ。そのためだよ!だが…もう帰る!ここに後継ぎを任せられる人材はいない!」
はじめ、白々しい口調で話していたスーツ姿の少年は、途中かう何かを思いだしたのか語調が荒々しくなっていった。
「はあー、何をまた馬鹿なことを…。ボランティアにスーツ姿で赴くなんておかしいと思っておりましたが…。いいですか、利紀様はまだ高校一年生です、まだそんなこと考えなくてもよろしいのです。全く、今回ボランティアに参加すると聞いたときは…。」
法条家リビングにて、
「おれは、法条家長男として、この清掃ボランティアに参加して、立派につとめをはたしてくる!」
「などと言って、たくましくなられたなーと感心していましたのに、目的はただのガールズハントとは…。」
片手を顔にあて、あきれたような仕草をする黒服の男。
「分かった、分かった、ちゃんとボランティアやりゃーいーんでしょ。ったくもー、さっきので精神的に傷ついたんだから…、もう少し遠慮してものを言ってくれよなー。」
やれやれといった具合に両手の掌を上に向けているスーツ姿の男
「お、ここにもゴミがあるぞ、丸尾。」
「本当ですね、拾いましょーか。それにしても田中さん、大将はどこに行ってしまったんでしょうかねー。一緒にこのボランティアに参加しようと思ったのに。」
金髪ロンゲ、そして坊主頭の二人が、半袖半ズボンの格好でゴミを探し、拾ってゴミ袋にせっせと入れていた。
「……。」
「ほう、あのお方たちは…、確か先日のコンビニの件の…。」
「かくれるぞー、沢井一。」
スーツ姿のその少年はその二人を見て一瞬硬直したものの、すぐに黒服の男の腕をひっぱり木を盾にかくれ、二人の男をじって見つめている。
「何であのヤンキーどもがボランティアに…!?」
汗をだらだら流しながら驚きのせいか、口を大きく聞けている。
「彼らはヤンキーとはいえ、根はいい奴のようですねー。まあ、誰・か・に!万引きを本気で正しいと信じ込まされるほど馬鹿ではありましたけど…。」
ちらっとスーツ姿のその少年に視線を当てる。
「さあー、誰だろーな~…。(こいつ、俺が洗脳したと知ってやがるー!)」
一方、その視線に対し、目をそらすスーツボーイ。
「ここは彼らを正しい方向に導いてさしあげましょう。大丈夫です!こんなこともあろうかと、モヒカン、チョビ髭、サングラス、タバコ、ヤンキーセット全部、持ってきておりましたので。」
「どんな予測力!?うおー、何すんだー、やめろー、おっとっとっとっ…。」
驚くべき早業で少年をあの日のヤンキ一姿にイメチェンさせ、背中を押し出す。その衝撃で、スーツモヒカンは、半袖半ズボンの格好の二人の前に飛び出した。
「お、…兄貴一!無事だったんですかー!よかったー!あの時、俺らをかばってくださったばかりに…。ぐしゅー!じゃじゅじゅー!」
「大将ー!よくぞご無事でー、さびしかったのですよー!ずーー、」
突然現れたモヒカンヤンキーにとびつく金髪ロンゲと坊主頭の頭二人。両人とも目に涙をうかべ、鼻水、ヨダレをだらだらとたらしている。
「……。(うえー!せっかくのスーツがヨダレと鼻水でぐしょぐしょだよー、なにすんだチキショー、この野郎一!)」
「何あれ、モヒカンのスーツ男に、男二人が泣きながら抱きついているわよー、きも!うえっ!」
「ちょっと、怖そうな人たちよ、あんまりじろじろ見るのやめましょ、うえっ!」
先ほどの二人組の少女が、セットになったスリーメンをみて、ケラケラ笑いながら小馬鹿にして言う。
「……。(チキショー!何だあの女ども!人をさんざんゴミみたいに言いやがってー。俺が何したってんだよー!えーいくそ、とにかく、この二人を体から離さないと。)」
モヒカンは二人の男の肩をやさしくたたいて声をかける。
「そんなに泣くなよ、男だろ、みっともないぜ!男なら、自分1人で立って前向いて泣かずに歩いて行くもんだ!」
「うー、はい、すいませんっす!」
抱きついていた二人は同時に言うとモヒカンの体からゆっくりと離れる。
「何あいつ、言うことやること全てナルシなんだけどー、受けるーっ!」
少女たちは男たちが聞こえるぎりぎりの声で笑いあっている。
「……。(あの…、自分で説教しといてなんですが…、泣いてもいいっすか…。」
じゃあ、俺からも一つ、いいかげんスーツ着替えて、いちいちスーツ、スーツ、ナレーションすんの、面倒っす…。