ヤンキーの在り方(完)
モヒカンが店内に入っておよそ2分後
「おい、何か言ったか。俺が何だって。」
その男は腕に大量の「バイチュー」をかかえて、店から出てきた。
「そ、そんなに。さすがっす!」
田中はさすがとばかりに手をたたいている。さすがにこれはすごいぞ。どうやったんだ?
「じゃあ、次はお前ら行ってこい!」
「はい!」
「うっす!」
2人の男は同時に店の中に入って行った。
「おっせーなー。あいつら、しくじっちまったか。全く、世話がやけるぜ。」
しばらくするもあの2人は戻ってこない。
男は再び店の中に入って行った。
店内にに店長と思われる人が1人しかいない。そしてその人は、万引きにしくじったのであろう2人と対面している。
「うっせーな、俺らはお前らの警備意識を確かめようとあえてこんなことをしてやったんだろ?むしろ感謝してくれよ。これは、ボランティアだぜ。そのおかげで、お前らも次の本当の万引きや強盗に対してしっかり対応できるようになるんじゃーねーのか?」
「そうです、我らはそちらのためになることをしたのです。」
店主は「ふっ」と笑った。そりゃーそーだろー。そんな屁理屈、外の人間には通用しねーよ。
「そんなこと本気で思ってるの?おめでたい奴だねー。いいよ、警察につき出すから。」
「ちっ、上等だ。話の通じね一野郎だぜ!」
「まあまあ、ちょっと待ってくださいよ。店長さん。少し話し合おうじゃないですか。」
リーダ一格の男は余裕そうな笑みを浮かべ、店長の方に向かう。
「お前ら、ここは俺に任せろ。お前らは…先に行けー!」
「大将…。でも…」
「兄貴…っ」
「いいから、はやく行けーー!」
「く、すまねえ…恩に着ます…。」
男2人、田中と丸尾は、同時に、目に涙をうかべながら、コンビニを後にした。
「ふー、行ったかー。やれやれ…。」
男はモヒカンに手をやると、それをひっぱる。するとモヒカンが外れ、ごくふつうの、いや、お坊っちゃんヘアーというか、そんなモヒカンよりもはるかに落ちついた感じのヘアースタイルが見えた。え、それカツラだったのー!
「全く、学校を休んで何をなさっているのですか、利紀様。」
店長は、店員の服を脱いで、黒服姿になる。
「うるせーなー、もー、ちょっとヤンキーに慕われるヤンキーってのになってみたかったんだよー。」
「はあ…、万引きしたとするバイチューもご自宅であらかじめ鞄につめこんでいたものじゃないですか。全然ヤンキーやってないじゃないですか。」
利紀の執事と思われるその男はあきれたふうに言った。
「あ、あれは、ほらっ、俺の揺るぎない正義感のせいだよ! 俺は由緒正しい人間だからな。」
おーい、さすがにそのどや顔には無理があるぞー。無理やり言った感が否めないぞー。
「学校を休んでヤンキーごっこして…何が由緒正しい人間ですか!お父様の法条グループをいいように使うんじゃありません!いいですか、明日からはちゃんと学校に行ってくださいよ。幸い、だれもあのモヒカンがあなただとは気付いていないんですから。」
沢井の発する正論の数々で耳が痛かったのだろう、利紀は鬱陶しそうな顔をしている。
「あーもー、うるせーなー、分かったよ。もうヤンキーのふりはあきたよ。明日からちゃんと学校行けばいーんでしょー。」
「分かってくださればよろしいのです。利紀様。」
静かに笑ってこたえる沢井。
「あと、協力ありがとな、沢井。また今度もよろしくー!じゃ、家に帰るか。」
利紀はにっこりと笑顔で執事に向かって挙でグッドマークをつくり、コンビニを後にする。
「今度って何でしょうかねー。全く、小さいころからですが、世話がやけますねー。」
沢井は苦笑いしたまま、利紀を追いかけて行く。いやー、よかったよかった。本当に万引きしてなくて(笑)