ヤンキーの在り方(1)
「んじゃ、頼んだよ、沢井。法条グループならそんぐらいできるでしょ。」
高校生ぐらいの男は、黒服の高身長の若い男に対して笑いながら言う。
「うーん…分かりました。でももう悪ふざけはもうこれでやめてくださいよ。」
「それはどうかな…、じゃーねー。」
「はー、困りましたねー。」
「よー、お前一ら、今日もいかしてるかー、やんちゃやってるかーい?!」
男は、モヒカン頭に、チョビ髭をはやし、サングラスをかけ、タバコ(火をつけていない)をくわえながら歩いてくる。うっわっ、だっさ、趣味悪っ!おっと他のインパクトが強すぎて忘れていたが、おそらく学校指定のものであろう、鞄を手にしている。
「こんにちは、大将、今日もお疲れさまです。」
「うっす、今日もばっちり決まってますぜ、兄貴!」
それに応えるは、2人の男。一方は長い金髪、火をつけたタバコをくわえ、もう一方は、坊主頭で首に大量のジャラジャラとしたネックレスを何重にもかけている。そして両人とも鞄を下ろし、敬礼をしている。
「おいこら田中、タバコに火をかけてるって、どういうこっちゃー、あん!?おのれにゃー、俺、いや、人様の健康を蝕む権利があんのかー、あー!」
男は、田中とやらの胸ぐらをつかむ。その顔には怒りがこみ上げている。
「す、すんませんっす。すぐ消します!田中邦男、一生の不覚っす!」
「分かればOK-! タバコやめて長生きしろよ!」
「え…、そうか…、そういうことか…、大将~!俺のことを気遣ってくれて…、それで、あんたもタバコに火をつけずに…、あんた、漢だよ!」
男は胸ぐらをつかむのをやめて片手でグッドマークを示している。それに対し、田中は泣きながら袖で涙を拭っている。
…何だこの茶番。明らかに俺様の健康って言おうとしてたじゃねーか、どこに感動してんだよ、田中。ってか健康気にしてタバコを火をつけずにくわえているヤンキーがどこにいんだよ。
「おい、丸尾!」
「うっす、何でしょう、兄責!」
「お前…、そのネックレス、最高にいかしてるぜ!」
「兄貴一! 我らごときにもしっかりとした心配りを…さすがっす!」
茶番やめろ。
「よーし、お前ら、今日は万引きしに行こうか!」
挙をふり上げ、リーダ一格の男は言い出す。…頭おかしいな、こいつ…。
「え、でもそれじゃー、店の人、他人に迷惑かけちゃいますよー?やっぱりそれはやるべきじゃ…」
そうだ、丸尾、やめさせとけ。お前が正しい。さっきこいつ、人様に迷惑かけんなみたいなこと言ってたもんな。
「丸尾一!」
「は、はい!」
男は突然大声で丸尾の名前を呼ぶ。そして…、
「いいか、万引き、なんて言葉に紛らわされてんじゃねー。それをするってことは、店員に店の警備を再確認させることにつながるんだ。つまり、俺たちがやろうとしてんのは…、ボランティアだ。」
…どや顔…そして、すごい言い訳…
「おおー、そういう事か、さすが兄貴だ。俺らなんかよりも世界を広く見渡せている!」
…なんだ、この異常なまでの「兄貴」、「大将」の持ち上げは…?! あ、そうか、こいつらただのバカだったのか。