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誰に知られることもない物語  作者: 一条 夜月
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第1章 1話-1

目が覚めた。

前日もいつも通りに何一つとして劇的な出来事はなく、ぬるま湯のように心地よくも退屈な日だった。


そのはずなのに。


「ようこそいらっしゃいました、勇者様!」


背中からは建造物の床らしき硬い感触。

見上げた天井には見慣れぬ紋章のステンドグラス。

そして”勇者”の呼称と見知らぬ声。

身体を起こしながら視線を天井から、声がした方へと移すと所謂シスター服と似たものを着た柔らかな雰囲気の女性と、その背後に立つ貫禄があり深い青のローブを着た男性。さらにその横に見るからに高そうな豪奢な椅子に腰を下ろし、これまた絢爛なイギリス中世貴族服のようなものを着たあからさまに”王様”っぽい男性。

これは夢だろうか、なんて現実逃避したくても硬い床の冷たい感触と昨日にたまたま紙で切った指の痛みがそれを否定する。


ああ、これが世に聞く異世界転移か。


なんとなく、直感的に私はそう思った。しかしながら……おかしいな。私は今の生活に特に不満も持たず事故に遭ったわけでも持病で死にかけていたわけでもないはずだが。こういった異世界転生モノを好んで読んでいたわけでもないしRPGゲームも苦手である。どうしてこうなった。


「あの、勇者様?」


女性に視線を固定したまま考え込んでいたせいか不思議そうに女性が首を傾げる。そういえば言葉が日本語に聞こえるのは何故だろう?私も日本語で話して果たして通じるのだろうか。


「すみません、ここは?」


とりあえず困惑している女性に謝罪をし、まず第一に知りたい事を聞いてみた。

すると彼女は嬉々としてこの状況を説明し始める。話が長い上にいちいち感想まで入れてくれるので分かりにくいが要約すると『魔王を倒したいがこの世界の人では力が足りないので古の魔法で異世界から相応しい人物を召喚した』らしい。

私が果たして勇者として相応しいのかどうかはともかくとして、この世界のルールだとかを多少なりとも知っておかねば動きようがない。語り終えた女性から視線を外していかにも”王様”っぽい男性に一度軽く会釈してから声をかける。


「この世界はどのような場所なんですか?」


女性に聞かなかったのは話が長いから。”王様”っぽい人に話しかけてみたのはその人となりを知るため。もちろん後ほど青いローブを着た男性………おそらく女性の上司のような人にも話を振る予定である。

”王様”っぽい人はやはり王であるそうな。

国の名前はケアルムであり、王の名前はドミニク=ケアルムらしい。

彼曰く。


世界は不公平である。

全ての人間は珍しいユニークスキルやレベルで差別され、優劣をつけられるのだ。レベルを上げるには魔物を倒さねばならない。しかし、魔物を倒すには当然の如く自身の命をチップに賭ける。貴族ならば気軽にポーションが買えるだろうが平民はそうもいかない。結果的に、貴族と平民の間には絶望的なまでのレベル差が存在する事となるらしい。

10歳になった時に自身がなりたい”メイン役職”と”サブ役職”を決め、レベルやスキルレベルを上げていくらしい。役職毎に扱えるスキルは決まっている辺りは聞きかじりだがRPGゲームっぽいような気がする。

その他にも”ルール”と呼ばれる世界の法則等を説明して貰えたが正直覚えきれる気がしないのでわからないことがあればその度に聞く方向で行くことにした。ちなみに言語の方は彼らの方では何もしていないそうなのでおそらく私自身がユニークスキル、と呼ばれるモノを保有しているかはたまた偶然言語形態が同じだったかだろう。まぁ十中八九前者だろうが。


さて、次は最後にして最大の質問である。


「全てが終わった後、元の世界にちゃんと戻れるんですか?」


それが私の一番の懸念である。

案の定、質問を投げかけた相手である青いローブ着た男性だけではなく、王や女性まで気まずそうに目を逸らした。しばし瞑目し、私に視線を戻した彼は眉を下げ、禿げた頭の割に長く伸びた白い口髭を撫でて言った。


「確証は、ないのだ………」


素直に真実を告げてくれただけマシとでも思おうか。幸い私は友達が少ない。家族も両親が他界しているため悲しまれる事はそれほどないかもしれないからまだマシ、だろうか。

ローブを着た男性__ネイサンと名乗った彼は、確証はないが希望は存在すると続けた。しかし、まぁ帰れないと考えたほうがいいだろう。

不思議と、絶望はそれほど感じなかった。


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