57話 酒場
王都の町に戻って来た俺は、何をするでもなく日が沈みかける街中をぶらぶらしていた。
雑貨屋に行こうとしたものの――。
少し時間が遅くなってしまったので、それは明日へ回すことに。
ふむ。
そろそろ暗くなるだろうに。
それでも、街中を歩く人の数はそれなりにいた。
特に行く当てもない俺は、ギルドへとやってきて。
依頼の報告と素材の売却を済ませてしまう。
すると俺と同じ様に報告に来ているパーティも多く、ワイワイと楽しそうに会話しているではないか。
――。
職員がギルドカードを確認している間――。
俺はなんとなくその会話に耳を傾けていると、どうやらこれから一杯飲みにいく所らしい。
「――酒か。」
「はい?」
ふと俺が呟いたのを聞いた職員が聞き返す。
「あ、いや・・・。」
「この辺りで、静かに飲めるような場所はあるのか?」
なんとなく気が向いた俺は聞いてみて。
酒場、ですか。そうですねぇ・・・なんて思案を始める。
そして思い当たったのか、一件の店の名前と場所を紹介してくれた。
なんでも、飯も美味しく。
隠れ家的なお店で、騒ぐような客も少ないのだとか――。
異世界で、隠れ家ね・・・。
日本じゃあるまいし。
だがここは王都だ。それほど治安は悪くはないだろう。
そのまま誘拐されるとかは――、ないはずだ。うん。
まあ。
折角勧めてくれたし、行ってみるか。
それなりに客やら店員もいるはず。
このままマイルームに戻って、一人の夕食よりはいいだろう。
情報収集もできそうだしな。
一応、この世界の成人は16歳だから行っても俺は平気だ。
ま、あまり酒に口をつけるつもりはないがな。
☆日本在住の異世界転移前の皆は、お酒は20歳になってから。☆
☆ ☆ ☆
ここがそうか――。
俺が店に着くと辺りは大分暗くなっていた。
一応、念の為の護身と舐められない様に。
俺はその腰に剣を差して店内へと入って行った。
一人だし、若いしな。
「よう。隣いいか。」
店に入った俺はカウンターで1人飲む男に声をかけた。
中年の男で、見るからに前衛ですって格好だ。
そして、剣を腰に差している。
なぜだか知らないが、剣士の職業を持つ奴はストレージに仕舞わず身に着けることが多い。
俺が剣士ギルドに行ったときに気づいた特徴だ。
そして――。
俺もそのお仲間、こうして剣を身に着けた剣士職ということになる。
寂しい男一人の、似た者同士でもあるがな・・・。
そんな共通点を互いに持つことで、話が合うだろうと思い声をかけたのだ。
それにこう言っちゃ悪いが。
この男、多分そんなに強くない。
見かけはかなりヤレそうだがな・・・。
この世界に来てひたすら魔物を狩ってきたせいか。
俺はなんとなく相手の強さが分かる様になっていた。
――。
カウンターの男はこっちを振り返ると。
少し出来上がった様子で、俺を一目見て。
――若いな、なんて呟いている。
俺に興味が沸いたのだろうか、男は軽く頷いた。
俺は注文したエールを飲みながら、男といくつか話をしていた。
まず、この男は6級で職業は剣士。
普段は他に3人の仲間とPTを組んでいるらしい。
メンバーは剣士、戦士、僧侶、魔法使いとのことで。
なんだか、芋虫のように列で移動する4人が俺の頭に思い浮かんだ。
しかし6級ということは俺よりも上ということになるな。
そして、ギルドランクが中級。
これは俺の読みが外れたのかもしれない。
「それで、あんたの職業はなんなんだ。」
「見ての通り剣士だ。」
俺が7級でソロだと伝えると、男は驚いた様子を見せた。
やっぱり1人は珍しいのか――。
そしてなぜか話は、お互いに9級になった時の話へ。
そう。
職業適性の確認だな――。
うーん。
俺は困っていた。
なぜなら、俺の適性職について聞かれたからだ。
こういうことは安易に話さない方がいいんだろうな。
平和で安全とはいえない世界なのだ。
手札は隠しておきたい。
ちなみに、この男は剣士と戦士の適性があるらしい。
それが本当かどうかはともかく――。
まあ。俺はスキル取得で魔法も使うことができる。
誰かに戦闘を見られれば、いずれ魔法使いの適性があることは分かるだろう。
そのときは魔法使いに転職したと言い逃れもできる。
ここは嘘をつかない方が無難だ。
「俺の適性職は3つだ。」
「ほお。なかなか良いじゃねーか!」
やっぱり3つは良いらしい。
「だが、主に伸ばすのは1つだからな。選択できるのはいいが―。」
「おう、若いのに分かってるな。」
分かっていたらしい。
「確かに3つは珍しい方だが。中には、結果的に1つで良かったなんていう奴もいるしな。」
ふむ。その心は――。
「そうなのか――。」
「3つあっても他の職に浮気してれば器用貧乏になる。」
「あるいは壁にぶつかった時。選択肢があった分、他の職が頭をよぎることもあんだとよ。」
そういうものか・・・。
「なるほどな。」
「3つあっても、あくまで下級職。平凡ということか。」
「その通りだ。ランク1職なんて言い方もするぜ。」
ちなみに他の職業についていくつか聞いてみた所。
俺の持つ敵性職以外では、3つほど新たに知ることができた。
それは、戦士、拳士、軽戦士と呼ばれる職業で。
それぞれの特徴は読んで字の如くといった所だろうか――。
そういえば、最初の2つは剣士ギルドの募集で見た気がするな。
――ふむ。
とすると、今後俺が仲間にするならこの辺りの職業から選ぶべきだろうか。
俺はいざとなれば職業変更が戦闘中にも可能だしな。
まあ、それでも一番重要な要素は信用なんだがな。
折角なので、俺は上級職についても聞いてみることにした。
剣士ギルドで得られた情報はなかったしな・・・。
――と思って聞いたのだが。
やはりこの男――、ダドリーも知らなかった。
どうも情報を得るときに、ギルドと何らかの約束をしている可能性がある。
ダドリーはそう睨んでいるらしい。
ふむ。なるほどな。
そうだとすると情報が手に入る可能性は低いか。
真面目にLvを上げていくしかなさそうだ。
話を重ねるごとに、俺は段々とこの男が心を開くのを感じていた。
と言っても、おっさんなんだけどな・・・。
そんなことを考えていると、男は驚くべきことを口にした――。




