4話 今後の方針と初戦闘
その後も俺は何かを出しては消して――と。
部屋で色々と試してみたが、結局残したものはなかった。
気になったのは、いくつか生み出せない物があったこと。
部屋を拡張するような物は無理として―。
俺が直接見たことのない、
聞いたことがあるだけの物は無理だった。
いくつか条件があるようだな――。
その辺は、追々調べていこう。
さてと、村に向かおうか。
ソファから立ち上がり、
この空間から出たいと念じると周囲の景色は外に変わった。
ふむ。
視界の左上に注目すると―。
ここは『アーレの村周辺』となっている。
ならば近くに村があるのだろう。
適当に探せば見つかるかな。
――。
20分ほど歩いただろうか。
柵に囲まれた畑が見えてくる。
村のものだろうな―。
よし。
この柵に沿っていけば村の入り口が見つかるだろう。
――うん。
しばらくして、入り口らしき門は見つかった。
見つかったが――、門番らしき人が立っている。
これは参ったな。
木の陰に立ち、そっと様子を伺う。
するとどうやら女性のようだ。
軽装だが、それなりに武装をしている――か。
顔はよく見えない。
身長は門の高さがあれくらいとすると。
自分と同じくらいだろうか。
女性にしては大きい方だな。
だが、なんとなく俺より強そうだ。
立ち方がただの素人や女の子のそれではない。
あの腰に差した剣は飾りではないだろう。
うーん。
どうしたものか。
俺の勘は大丈夫だと告げている。
しかし全く根拠はない。
これを信じていいものか。いやいや。
冷静にいこう―。
正直、第一異世界人との遭遇に不安を感じる。
言葉は通じるだろうか。
地球でも、国によってその人柄に差がある。
言ってみれば俺は身元不詳の不審人物だ。
そんな人間を快く受け入れてくれるだろうか。
コミュニケーションをとれる自信は――ない。
俺は見た目も弱そうだし、顔も平凡だ。
さらにこの世界では人とのつながりもない。
☆ ☆ ☆
あれこれと考えて、今後の方針をまとめることに――。
このまま様子をみるか。
いや。今の俺はどうみても怪しい。
見つかって言葉が通じなければ、最悪捕まるかもしれん。
それなら――。
ふむ。
別に今すぐ村に入る必要はないか。
俺には特殊空間があるしな。
食料にも寝る場所にも困らない。
魔物を狩り強くなってから門番と対峙しよう。
それでスムーズに入れるなら良し、捕まりそうになったら逃げればいい。
今でも特殊空間に逃げればいいが、発動までにタイムラグがある。
なにより人前で使うのは避けた方がいいだろう。
そう結論づけると、俺はこっそりと来た道を引き返した。
そして戻る道中――。
「そういえば、魔物が全然いないな。」
ふと、俺は気がついたことを口に出す。
村に向かう間も――、うん。見かけなかった。
そうだな――。
あの辺の森に入ってみようか。
俺が歩いているその道脇には、
それに沿うようにして広がる森が存在していた―。
ちょっと怖いけれど。
なんとなく、いる気がするんだよね・・・。
開けた道から逸れて。
10分ほど歩いていくと――。
「ここか―。」
森の傍にまで着いた俺は、その中を覗く様にして伺う。
特に何も――、ないかな。
だが。
これはなんだ・・・。
森の方へ手を伸ばすと、何か違和感を感じた。
――。
うん。ちょっとだけ。
ちょっとだけ入ってみよう。
興味が沸いた俺は、恐る恐る森へと入っていくのだった。
☆ ☆ ☆
視界が悪いため慎重に入っていく――。
位置を示すウィンドウは、
『アーレの村周辺の森』と情報が変わった。
頼むから、強い奴といきなりエンカウントはやめてくれよ。
森の中に入ると、むっと植物独特の匂いにつつまれる。
こういったものはあまり馴染みがない。
新鮮さと物珍しさに、俺のテンションは少し上がる。
道はなだらかな坂になっていたり、
落ち葉や枝が落ちていたりと歩きにくい。
「あまり奥まで行かない方がいいな。」
森の外が見える範囲で目的の魔物を探す。
――。
――いた。
木の陰でわかりにくいが確かに動いた。
あれは――。
その大きさはバスケットボールより大きいくらい。
形もそんな感じで丸く、兎に見えなくもない。
15mくらいの距離までゆっくり近づき、
剣をストレージから取り出す。
村に向かう前に何度か素振りしたが、とても戦闘で使えるとは思えなかった。
技術とか以前に圧倒的に筋力が足りてない。
そこで剣を前に構え、脇を閉めて、
突き刺す攻撃をすることにした。
格好悪いが、これが今の最善手だ。
そして戦闘以外ではなるべくストレージにいれておく。
重い剣を長く持ち、いざ戦闘で手が痺れましたでは笑えない。
ゆっくりと気配を殺し、残りの距離を詰める――。
いまだ!
駆け出した勢いそのままに、兎の背中へ渾身の突きをいれる。
すると、大兎はグギィーと野太い悲鳴をあげ、
刺さった剣から逃れようともがく。
こええ。それほど大きくないのに力強く逃れようとする相手に恐怖する。
俺の腰はかなり引けてるが、
懸命に自分を奮い立たせ、剣を押し込む。
「ああああー!」
俺は声にならない声をあげながら押さえつける。
相手とやり取りすること数分―。
兎の抵抗がぱたりとやんだ。勝ったようだ。
剣を刺したまま、つんつんと足で触り確認する。
うん。終わったな。
よく見ると兎とハムスターを合わせたような魔物だ。
毛に覆われており前歯が発達している。
「はあはあ・・・。」
魔物が光となって消えていく。後にはなにも残らなかった。
なんとかやったが、しんどかった。
命のやりとりをしたのだ。
それほど大きくないとはいえ、攻撃されれば怪我をするかもしれない。
俺は魔物との初戦闘に、一つの達成感を得た。
「少し休んでまた魔物を探そう。」
特殊空間と念じた俺の周囲は、
物だらけの狭い部屋へと一変した――。
【3話終了時マイルームに設置したもの】
・ソファー ・テーブル ・テレビ
・冷蔵庫 ・窓 ・簡易トイレ
・簡易シャワールーム ・簡易ベッド
※3話に間取りの画像追加しました。