プロローグ
少年は何もない部屋に立っている。何処までも白く窓もなければドアもない、そこにあるのは赤い炎と少年のみ
『く・・・を・・・ては・・・メ・・・』
少年は炎へ一歩近づく。
すると、白かった部屋が一瞬で黒へと変わり、その黒の中から少年目掛けて何かが襲いかかる・・・すると少年の茶色い髪が黒に染まりいきなり笑いはじめる。
それを少年は上から見ていた。
========================
ピピピピピピピ・・・・・
聞きなれた目覚まし時計の音が沈んでいた意識を浮上させる。
「・・・また、あの夢か・・・」
俺は部屋を見渡す、間違いない見慣れた自分の部屋だ
「なんなんだ・・・毎日毎日同じ夢ばかり・・・」
念のため鏡で髪を確認するが髪の色は変わっていない、他にも何処か異常がないか確認しているとドアがノックされる。
「・・・なんだ?」
ドアを開けると妹のミズキが少し疲れた表情で立っていた。
「兄さん・・・学校は・・・」
「・・・行かない。」
それだけ言うとドアを閉めようとするが
「・・・サクラ、今日会いに来るって・・・」
その言葉に一瞬固まるが再び動き出し閉め終わると布団へ寝転がり
「今さら、どんな顔して会えばいいんだよ・・・」
そんなことを呟いてあの時のことを思い出していた。
========================
俺・・・木原 伸の親は妹至上主義で俺はほとんど放置されていた。
サクラはと幼馴染みで小さい頃からよく遊んでいた。
俺は外で遊ぶのが苦手で毎日本ばかり読んでいた。サクラは最初は時々見にくる程度だったが、俺が父親に貰った勉強ドリルをやるようになってからほぼ毎日一緒に勉強していた。
ミズキは小さい頃から芸能事務所に所属しており、小学生の頃は余り学校へ行けず俺とサクラで勉強を教えて、
みんなで同じ中学に入った。
俺は友達を作るのが苦手だったが、ミズキとサクラのおかげで何人かは友達ができた・・・全員男だったが。
だがに中学二年になり、例の夢を見始めた時期に今までより比べ物にならないほど記憶力が上がった。それにより、勉強をしなくなりゲームにハマり人との関わりを絶ってしまった。
それによりクラスからは孤立、俺と話すのはミズキとサクラだけになってしまった。そのくせテストでは何時もAll100点を取っていたのでそれを良しとしないクラスの上位グループのイケメン男子達によるストレス発散が始まった。
最初こそ、体を鍛えなんとかしようと祖父のやっている剣術を学びに行った・・・そしてそこでも分かったことがあり、筋力が付くのが異常に早かった。
今までの俺は、ハッキリ言って太っていた。腹も出て目立っていたし、デブという言葉が似合っていたが今では筋肉がつき、同年代は圧倒できる程になってしまった。
学校へ行けばクラスのやつが変わらずちょっかいをかけてくると思った俺は引きこもった。
サクラは最初こそ心配してきてくれたが、気付いた時にはサクラが俺を避けるようになっていた。恐らく面倒くさくなったのだろう、しかし俺は何も感じなかった。高校は同じではあったが関係ない。入学式にしか参加せずテストを受けに行く以外は家から出ることをやめた。
勉強自体は高校の範囲を全て覚えてしまっていたので問題なかった。
家ではゲームや筋トレ、剣術などしかしておらず話しをする同年代は妹だけになってしまった。
だが1年の頃の学年末テストの帰りにサクラの声が聞こえた気がして路地裏を見てみるとミズキとサクラが同じ学校の先輩5〜6人に絡まれていた。
俺は2人を助けるべく話し合いで解決すべく努力しようとしたが予想以上に短気で、話し合いをする暇もなく殴ってきた。
俺は気づけば先輩を全滅させていた。
サクラ達を見てみると隅っこで震えていた。俺は気まずくなり逃げた
今思うとなんというヘタレっぷりだろうか、俺は昔の自分が恥ずかしくなり二度寝をして忘れることにした。
========================
私・・・九重 サクラは彼と小さい頃から遊んでいた
最初は本ばかり読んでいる子だと思った、時々遊びに誘ったがことごとく断られ意地になった私は逆に彼の本を一緒に読むようになったのだが私には難しすぎてよくわからなかった。
ある日、彼が勉強の本を持ってきていた。
その日は友達が休んでいて暇だったので勉強を教えてもらった。
分からないところはしっかりと教えてくれて、問題を解くのが楽しくなった。
その日から毎日勉強ばかりしていた気がする、もちろん遊んだりもしていたが勉強が楽しかったので、彼との記憶がより多く残っている。
小学校に入ったが最初の方の授業はもう彼に習った範囲だったのでかなり楽になった。
小学3年生の時、彼の家に始めて行った。
そこで、初めて彼の妹に会った。話には聞いていたがとても可愛く、芸能事務所に入っているのも納得した。
ミズキとはすぐに仲良くなれた。彼女は彼のいい所をたくさん知っていた、聞いていると、すこし良く言い過ぎではないかとも思ったが・・・
中学生になってからはミズキも学業に専念して学校へよく来るようになった。
中学1年の時は、みんなでよく遊びに行っていた・・・だが2年生になると同時に彼は変わった。
いつもやっていた勉強をしなくなった。
最初はすこし飽きてゲームをしているのだと思った。
クラスの男子は大抵ゲームの話をしているので、彼もやってみようとしているだけだ、すぐ勉強に戻って空くる。
そしていつの間にか彼は学校にすら来なくなっていた。
ミズキに聞いても、部屋からほとんど出てこないという。
私は心配になって何度か彼に会いに行ったが、顔をあわせることはなかった。
私が彼を見る目が変わったのは、中学3年の時 男子生徒に告白された時だった。
その人とは友達ではあったが、そんなこと考えてもいなかったので丁重にお断りした。
その後、告白を見られていた友達達と帰っている時、好きな人は誰かという話になり、友達に聞かれたがそんなもの考えたこともなかったので、いないと言った。
家に帰り、好きな人を考えてみると真っ先に彼が浮かんだ。
最初はただ遊ぶ時間が長かったからだと思った。
しかし、会いに行こうとするたびなんだが恥ずかしくなり彼の家に行けなくなっていた。
中学生の最後のテストの帰り彼を見た。
彼の見た目は変わっていた・・・以前まではデブなどと陰口を叩かれていた面影は欠片もなくとてもスリムで何より顔が凄く引き締まり、・・・だった。
彼と目が合い恥ずかしくなった私は、逃げ出してしまった。
一瞬だったが逃げる時彼の目は赤く光っていた気がした。
高校に入り彼と同じクラスになった。
他にも中学の頃から仲の良かった男友達やミズキも同じクラスだった。
彼はやはりテストにしか受けに来ず、しかもクラスにすら来ない。
授業を受けていないのに、テストの順位は常にトップ。
謎の生徒としてうちのクラスで羨望の眼差しを受けていたが、中学の頃の友達がデブで鈍臭いと言うと、皆が皆彼を侮辱するような事を言い始めた。
私は心が痛くなった。
そして高校1年の学年末テストの帰りに、私はミズキと一緒に帰っている所を同じ学校の先輩達数人に取り囲まれ「用事がある」と言って裏路地へ連れて行かれた。
最初こそ言い争いをしていたが、ミズキが「兄の方が数百倍かっこいい」と言い始めた所で、彼に対する侮辱が始まった。
ミズキは愚か私まで殴りかかろうとしていたが後ろから声を掛けられて振り向くと彼がいた。
先輩達は彼の話も聞かず殴りかかったが、彼は逆にボコボコにしてしまっていた。
彼の顔が一瞬だったが不気味な笑みを浮かべていた気がする。
全て終わると、私は震えが止まらなくなった。
彼はそれを察したのか、何も言わずに去って行ってしまった。
後日、先生から呼び出しがかかった。
どうやらあの時襲ってきた先輩は学校では優等生で通っているらしい。
「彼が私たちを襲ってきたのを庇った」と言っていたらしい。
私は本当の事を話そうとしたが、彼の姿を思い出した瞬間震えが止まらなくなりまともに喋れなかった。
先生はその震えを見て勘違いしたのか、先輩の話を信じてしまった。
それが今では学校中に知れ渡り、彼・・・木原 伸は最悪の生徒として全生徒から蔑まれている。
そして、噂にも尾ひれがついてテストで満点なのは教師に賄賂を渡しているだとか、妹の体を毎日のように貪っているとか、気づけば彼は最低最悪の人間として他校の人間にも知られていた。
私は2年生になり、後輩もできた。
しかし彼の噂は一向に消える事なく毎日のように噂されていた。
そして私は彼とちゃんと話してみる事にした。
なぜ学校に来なくなったのか、それだけが聞きたい。
そしてその日の放課後、私達2−A組はクラス全員失踪した。
========================
「またか・・・」
俺はまた白い部屋にいた。
この後はいつも通りの展開になるはず・・・ではなかった。
『やあ、やっと話す事ができるね。』
俺の目の前には炎ではなく、深紅の髪の少女が立っていた。
「お前は、誰だ?」
夢の中だからだろうか、特に驚く理由もない。
「そうだね・・・私は君の中にずっといる存在・・・かな?」
「よく意味がわからないんだが・・・」
「うーん、詳しい話しはあっちに行ってからでいいかな?」
少女はそう言い終えるとまた炎に戻り始める。
「ちょっと待て!!意味がわからない。」
『取り敢えず今言える事はね、彼女・・・黒だけは使わないでね。君には荷が重すぎるよ』
その言葉とともに視界が黒く染まり意識が失われていく。
目が覚めた時、俺はベッドで寝ていた。
「結局さっきのはなんだったんだよ・・・」
起き上がったらすでに午後3時を回っていた。
部屋から出て少し遅めの昼食を食べた俺は、飲み物を買うためコンビニへ行こうと玄関のドアを開ける。
その瞬間足元が光りだし、俺は意識を失った。