習作3
君は言ったね、君の瞳が好きだ、その宝石のような瞳にずっと僕を写していたいと。
君は言ったね、君の艶やかな肌が好きだ、その吸い付くような肌にずっと触れていたいと。
君は言ったね、君の髪が好きだ、その吸い込まれるような黒に目を奪われると。
これ以外にも、君は数え切れないほど私のことを褒めてくれたね。だが済まない、その中のどれひとつとして私のものはないんだ。
この瞳は最初に好きになった男のもの、この肌は三番目と八番目に好きになった男の、この髪は二番目と十四番目と十七番目に好きになった男のもの。
私は今まで好きになった男の体の一部を貰ってきた。この医学の進んだ時代、たいていの臓器や器官は金さえあれば作り直し、移植する事が出来る。適当な金額の金さえ積めば首を横に振る男はいなかったよ。
君が好きだと言ってくれた私はツギハギだらけの紛い物だ。私のこの目も肌も髪も舌も歯も肺も脾臓も骨も血も胃も小腸も大腸も食道も肝臓も膵臓も胆嚢も腎臓も筋肉も爪も心臓も、何から何まで全てが他人から貰い受けたものだ。
だけどそれでもひとつだけ、私が私のままである場所がある。脳だ。こいつばかりは今の進んだ医学でも代用品を作る事が出来ない。これを私に渡すというのは死ぬということと同義だからな、流石にこれに首を縦に振る男はいなかった。そこでひとつ相談なのだが、君のそれを私にくれないか?
あぁ、金はないよ。どうせ死んでしまうからね。代わりと言ってはなんだが、私の唯一の"特別"な好きを君に捧げると誓おう。どうだい?悪い条件ではないと思うんだが。
愛してるよ。さぁ、君の命を私にくれ