03
人間、何事も第一印象が肝心なのである。
ここで失敗すれば立て直すのは難しく、成功すれば上手くやっていけるのである。
もちろん、俺にとってはこの程度のミッションなど造作もないのである。
間違いなく彼女達に気に入ってもらえるパーフェクトな印象を与えることが出来る…はず。
べ、別に緊張してなんかないんだからねっ!
た、ただ、家族以外の人前で話したりするの久々だからちょっと感覚取り戻せないだけなんだからっ!
などと考えていると早速、乳袋さんから"入ってください"と呼ばれたのである。
「えと、新しく入ってきた社員の園原さんです。どうぞ。」
俺は髪型やスーツを整え、最高のキメ顔で堂々とそのレッスンルームに足を踏み入れた。
「はい、どうもー!俺の名前は園原涼太!4月17日生まれの25歳!牡羊座のA型!好きなタイプはきょにゅ…いや、心の大きい人だ!ちなみに彼女はいません!なんつってぇ!はっはっは!よろしくね、可愛い子羊ちゃん達☆バァン!」
どうだ、このチャーミングな挨拶と笑顔とポーズ…そしてさり気無い彼女なしアピール!!!
これで女共の心はがっつり掴んだに違いない!!!!
"シーン"
皆さん、ご覧になりましたか?
これが自己紹介で壮大にスベる25歳童貞です。
しかし、驚いたのは、そこに居た人数はたったの5人だったのであった。
乳袋さんを含めてたったの6人。これが所属タレント全員…!?
「池袋さん、この方が社長の言っていた今回アイドルプロジェクトを新しく任された責任者ですか?」
一番前に座っていた、黒髪ロングストレートの"如何にも私はツンデレですが何か?"と言い出しそうな顔をした女が俺に冷ややかな目線を送りながらそう乳袋さんに尋ねた。
「へぇ!?あ、は、はい!そ、そうです。」
「なぁんかぁ、思ってたのと違うよねぇ?バカそうっていうかさぁ。もっと仕事出来そうな長身イケメンかと思ってたのにぃ。」
その隣に座って居た茶髪のパーマの女は髪をくるくると人差し指に絡ませながらこちらを見ると鼻で笑った。
「ぶはぁ!ちょぉ、結衣ちゃん本当の事言っちゃダメだってぇー!社員さん、傷ついてるぅー!」
スマホに大量のキャラクターのストラップをぶら下げた女はヘラヘラと笑いながら俺を指差し笑った。
その後ろでは金髪の外国人女子がノリノリで音楽聴いて『HEY!HEY!』とか言っているし、その隣の女の子はまるで人形のように微動だにせず俺をじっと見つめるだけでなんだかホラーだしで、俺は思わず固まってしまった。
「うあぁ、えぇっと…と、とりあえず。自己紹介しましょう!そ、園原さんも、は、入ったばっかりで、多分緊張してて…えぇっと…それで…」
必死でフォローしてくれる乳袋さんが天使に見えた。
「そうですね。失礼しました。では、私から…。」
先ほどのツンデレ女がスっと立ち上がると俺を真っ直ぐと見つめた。
「風祭夜宵、16歳です。所属部門は女優。現在、高校に通いながらの活動のため女優業以外の活動は学校が終わった放課後のみしかするつもりはございません。また、もし女優業の仕事が来た場合そちらを優先させて頂きますので。ご理解よろしくお願いします。」
風祭夜宵。社長の言っていたポテンシャルとプライドが高い奴か。
なるほど…確かにすごい美人だが…プライドがめちゃくちゃ高そうだ…。
顔はSランク、体はAランク所か…もっと胸があったらよかった…いや、これは俺が巨乳好きだからこう思ってしまうのであろうか。
「ちょ!オイィィィ!!!夜宵ちゃんのおっぱいばっか見ちゃダメヨぉ、ダメダメ♪んじゃ、次、あたしいいかにゃーん?藤堂文子、同じく学生で16歳!アイドル目指してまぁす♪大好物はBLでぇーす!にゃっは!カミングアウトしちゃったぁ♪そのちゃんよろしくにぃーん☆」
「そ、そのちゃん…って俺の事か!?」
「如何にもぉ!ほらほらぁ、質問受け付けるにぃーん♪」
先ほど俺を指差して笑ったスマホに大量のキャラストラップを付けた女だ。
体も小さく、小動物のような可愛らしいルックス…髪型も黒髪ぱっつん清純系という王道アイドルっぽい雰囲気だが…。
言動がかなり痛々しい。大好物がBL…つまり、ボーイズラブだろ…?
こいつ…腐女子ってやつか…。うわぁ、関わりたくねぇ。
俺は適当に愛想笑いすると特に質問等はせず、前列居る俺を鼻で笑った茶髪の方を見た。
「ん?あぁ、私ですかぁ?モデルやってる八木結衣菜でぇす。二十歳でぇす。正直アイドルとかやる気ないんでぇ、ごめんねぇ。」
確かに、アイドルという雰囲気の似合わないお姉さんギャル…というか。
にしてもやっぱりモデルって足長いしスタイルいいんだなぁ。
あとは後ろの二人なのだが…。
チラっと二人を見ると一人は相変わらず音楽をノリノリで聴いており、もう一人は俺を微動だにせず睨んでいる。
俺は助けを求めるように乳袋さんに視線を送った。