06
にしても、朝9時出勤は早すぎるのである。
もろに通勤ラッシュに被ってしまうのである。
あの、大量の人間がギュウギュウに押し込まれている電車を見ると吐き気がするようだったので、俺はタクシーに乗り込んだ。
「すみません、ここまで千円以内でお願いします。」
俺はスマホの地図を見せるとタクシーの運転手は物凄く嫌そうな顔をした。
「あの、お客さん、ここまで千円じゃ行けませんよ。」
「いえ、行って頂かないと困ります。俺の財布、千五百円くらいしか入ってないし。」
「はぁ、だったら電車で行かれたらどうなんですか?ここの最寄り駅まで一本で行ける電車出てますよ。」
「あんな人で密集した箱なんかに乗れると思うか?不細工な女に痴漢冤罪ふっかけられたらどうしてくれるんだ、コノヤロウ。それに今日は俺の記念すべき初出社日ですよ。お祝いとして運賃無料にするぐらいが筋じゃないのか?オォン!?」
俺がそこまで言うとタクシーの運転手は仕方なさそうにため息を一つつき、俺を車から引きずり降ろすと車を発車させた。
俺はスーツについた砂を手で払うと大きくため息を漏らし現実へと戻ったのであった。
俺は一体何を言っていたのだろうか。一体何にそんなにはしゃいでいたのであろうか…。
しかし、少々調子に乗りすぎてしまったかと反省するも、やはりあの電車に乗る気にはなれず帰ろうかと思っていたのである。
「うわぁ…兄貴、まだ電車乗ってなかったの?兄貴に会いたくないからわざと遅く出たのに…。」
が、やはり神は俺を見捨ててはいなかったのである。
振り返るとそこには自転車に乗った啓太が居た。
「あれ?啓太、お前自転車で会社通ってんのか?」
「あぁ、電車は人多すぎてちょっと乗る気になれなくてさぁ。自転車で行けば運動にもなるしね。」
「そうか。ならば兄として手伝ってやらねばなるまい!行け!さぁ、漕ぎ出すのだ!我が弟よ!」
俺は啓太の自転車の後ろに乗るとそう叫んだ。
「…あのさ、さすがに20歳越した男が二人でチャリは気持ち悪くない…?」
「であれば、今すぐタクシー代3千円を寄越せ。」
「あ…うん。」
俺は結局啓太に貰ったお金でタクシーに乗り込み無事に9時までに事務所に着くことが出来たのである。
やはり持つべきは優秀な弟なのである。
あの狭い階段を登りきると朝だというのに暗い廊下へと足を踏み入れる。
このドアをあければ、そこには百恵さんが居るのであろう。
そう思うだけでテンションは鰻登りに上がっていった。
コンコンと陽気にドアをノックし、精一杯のイケボで『失礼します!』と挨拶をすると俺は勢い良くドアを開けた。
昨日同様光が一気に差し込んできて目が眩むようであった。
この瞬間から俺の『社畜生活』が幕をあけるのである。