05
次の日、目覚めると俺は洗面所へ向かいヒゲを剃り落とすと歯を気合を入れキレイに磨き上げ、髪をワックスで完璧にまとめた。
今日の俺は最高にイケメンなのである。
そして、スーツに着替えるとリビングのドアを開けた。
「はっはっは!おはよう!皆の衆!」
俺がそう爽やかに挨拶をすると、母親、啓太、楓が目を丸くして俺を好奇の眼差しで見つめた。
「って…兄貴どうした!?まるで会社行くみたいな格好して!」
「ん~?啓太くぅん、"まるで会社行くみたいな"なんて失礼だなぁ!お兄様は会社に行くのだぞ!さぁ、共に出勤しようではないか!」
「は!?え?涼にぃ、昨日一日で仕事見つかったの!?やばい!それ、まじやばい!」
「そうであろう?ほら、楓ちゃんのツイッターに"兄出社なう"って書いていいんだぞ!」
「…っは!今日、お洗濯物家の中に干さなきゃ…。」
「残念ながら今日は雨も雪も降らぬぞ!母上!ほら、早く朝食を配給せい!朝食をぉ!はっはっはっは!」
俺は椅子に腰掛けると最高のドヤ顔を家族に晒してやった。
楓は『やばい!まじでやばいよ!』と某リアクション芸人のように連呼しながらスマホを弄り、啓太は何故か自分の頬を何度もつねり『痛い!痛いよ!お母さん!』と叫んでいる。
母親はTVのチャンネルをポチポチと変えながら天気予報を眺めて『おかしいわねぇ、全部晴れだわ。』とか言っている。
ったく、朝から騒がしい奴らだ。
まぁ、それも仕方あるまいな。
今日は記念すべき俺の『初出社日』なのだから。
今日で俺のニート生活は幕を閉じるのである。
寂しくもあるがこの別れは生きていく中で大きな一歩に繋がるのである。
あの後、病院の待合室で俺は最高のキメ顔であの美人人妻秘書にこう言ってやったのだ。
『仕方ありませんね。この私が必ずや、あなたに芸能界の頂を見せてやりましょう!はっはっはっは!!!』
おそらく、あの瞬間彼女は完全に俺に惚れてしまったであろう。
全くなんて罪作りな男だ…俺って…。
それから俺は再びおっさんの眠る病室へと戻るとおっさんの顔を見つめながら雇用契約書等にサインをさせられたわけである。
この時はまるで美人局にでもあったような気分であった。
何故断らなかったかって?
そんなの簡単である。
働いてるって肩書きが丁度ほしかったから都合がいいと思ったのである。
断じて、"はち切れんばかりの巨乳が大好きだから。"という理由でもなく、
"あの巨乳を好きなだけ眺められるのであればどんな苦行だって耐え抜ける気がするから。"という理由でもないのである。
どうせ父親はまた一ヶ月そこらでアメリカに帰るに違いない。
その間だけ働いているふりが出来れば良いのだ。
そこで、ぎりぎり一ヶ月は持ちそうな倒産寸前の会社。
所詮、あんな大口を叩いたが、アイドルで一発逆転なんて無理なのである。
よって、俺はアイドルプロデュースと称して自分好みの女の子達だけを集めてただ眺めてればいい。
そうすれば、父親が帰ったタイミングで丁度俺はニートに戻れるのである。
我ながら完璧な計画なのであった。
俺は己の知将さに思わずほくそ笑みながら朝食を腹一杯食べ、家を後にしたのであった。