02
と、絶望していても仕方がないので俺はすぐに洗面台に向かい、無精ひげを剃り落とした。
歯を磨くと部屋に戻り、急いでスーツに腕を通してみる。
…いける!数年前に1回着ただけだったがまだ余裕で全然着れる!
履歴書…最近は電子履歴書とかいうパソコンで作るのが主流なんだろ!?
俺はすぐにテンプレートをダウンロードすると一気に書き込んでいく。
…と言っても経歴はほぼ真っ白であったが気にしない。
俺の社畜童貞を狙ってる企業はきっと多いはずである。
志望動機等は出来るだけどの職種でも通用するようにはっきりと書き込まない。
これが賢い俺のやり方なのである。
5分で書き上げた履歴書を10枚ほど印刷し終わると俺はそれをかばんに詰め込み家を飛び出した。
途中で証明写真を撮る。
最高のキメ顔で撮ってやった。
俺って結構イケメンな気がしてきた。
…と、ここまでは良かったのだが、
俺はどこの企業を受ければいいのだろうか…?
とりあえず、ネットの知識を参考に、一番最寄にあるヘローワークって所に行ってみることにした。
午前中にも関わらず案外混んでいた。
しばらく待ち時間でタイムロスを取られたがついに俺の順番がやって来た。
相談員らしき、バーコドハゲのおっさん前に案内されると俺は履歴書を机に叩きつけ力いっぱいこう言った。
『今日中に正社員にしてください!!!!!!!』
「…はぁ?」
バーコードは眼鏡をクイっと上げると、まるで鳩が豆鉄砲食らったようなマヌケな顔をした。
ちょっと声がでかすぎたのであろうか。
「いやいや、だから、正社員になりたいんです。今日中に。」
俺は少し声のボリュームを下げてもう一度言った。
「あ、いや、正社員のお仕事は紹介は出来ますけど、今日中にはちょっと…」
バーコードが困ったようにその髪の薄い頭をボリボリと掻いた。
人が真剣な話をしている時に頭を触るなどなんて失礼な奴だ。
いい仕事を紹介してもらえなかったら、後で匿名でクレームを入れようと心に決めた。
「いや、今日中じゃなきゃ困るんですよ!今日から働きたいんです!」
「えーっと、とりあえず落ち着いてください。ちょっと履歴書拝見してもよろしいですか?」
バーコードは俺に椅子に座るように促すと、机に置かれた履歴書を手取り眺めはじめた。
が、すぐに困ったような顔で俺の方へ視線を戻した。
「あの…職歴が書いてないのですが…。」
「え?職歴?そんなのありませんけど!!!」
バーコードはまた困ったような顔をして頭をボリボリと掻いた。
「あと、証明写真は出来れば変な顔はせず、真顔で…」
「それが俺の真顔です。」
バーコードは更に困ったような顔をして頭をボリボリと掻いた。
「えぇーと…希望職種は…?」
「なんでもいいです。」
「…そうですか。未経験歓迎で即日勤務可能な求人は確かにあるのですが…」
「それでいいです。今すぐ面接受けに行くので約束取り付けてください。」
「…はぁ。一応求人票には目を通してください。」
バーコードは求人票を俺の前に差し出した。
俺はその求人票を一目見るとすぐにバーコードに返した。
「あ、俺、老人嫌いなんで介護無理です。あと、体力ないんで建設業も無理っす。あ!パソコン得意なんでオフィスワークとかいいですねぇ。まぁ、最低限の希望としては、出来るだけ人と関わらなくてよくて、朝10時出勤ぐらいで残業なしの17時退社。月給は45万円以上はほしいですよね。」
そこまで俺が言うとバーコードが小さく震え始めた。
髪が薄すぎて頭が寒いのだろうか。
「…ません。」
「は?」
バーコードが何かを言ったが声が小さすぎて聞こえない。
俺が聞き返すとバーコードは顔を上げ、俺を睨みつけた。
「あなたのような方に紹介出来るお仕事はございません!!!!!お引取り下さい!!!はい、次の方ー!」
「は!?おい、ちょ、バーコ…おじさん!そんな事言わずに…は!?おい、やめ…」
俺は騒ぎを聞きつけた警備員によって何故か強制退館させられたのであった。
ふざけた所だ全く。奴らは仕事を紹介するのが仕事だろうに。
俺は匿名でホームページよりクレームを入れておいた。
それから何件もヘローワークを梯子したが、結局どこも同じ反応で仕事を紹介して貰える事はなかった。
そして、気がつけばもう夕方になっていた。
俺は夕方の公園でブランコに乗りながら刻々と迫るタイムリミットに絶望していた。
そういえば、今日は『プリドル★』の店頭販売限定パッケージBDの発売日だった。
もう売り切れているだろうなぁ。本当に今日は最悪だ。
俺はブランコから飛び降りると公園のトイレで用を足した。
にしても、公園のトイレと言うのは非常に汚いものでラクガキだらけである。
何者かを罵倒するような暴言や、何者かの電話番号、名前、よく分からん会社の求人。
ん…?求人?
『芸能プロダクション ウォルズ スタッフ急募 やる気があれば絶対に採用します!』
これだ…!!!これは神の啓示に違いない!!!!!
俺はスマホですぐにその住所を地図を出すとそこに向かって走り出した。