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脱・無職(ニート)宣言~25歳童貞アイドルになる~  作者: 七星てんとう
プロローグ~脱・無職(ニート)宣言~
1/21

01

 

 ―俺は今、生命の危機に面している。



園原涼太(そのはらりょうた)、25歳高卒ニート。

今まで一度も働いたことはない。アルバイト経験すらない。

当然だが年齢=彼女いない暦の童貞だ。


が、今はそんなことはどうでもいい。

むしろ、このスペックは俺の誇りだ。


が、そんなニート生活に終止符を打たねばならないかもしれないのだ。

それはにわかには信じがたいが今朝の出来事である。


今日は神アニメ『プリドル★』の店頭販売限定パッケージBDが500本限定で販売される日なのである。

もちろん俺はそれを手に入れるために今日はいつもより早く起きたのだ。


眠い目を擦りながらリビングへ向かう。


「…母さん、飯。多めで。」

食卓につくとまた大きく欠伸をする。


「おー。兄貴、久しぶりじゃん!珍しく早起きなんだね。」

目の前にスーツなんて着て優雅に飯を食っているのは俺の二つ下の弟の啓太(けいた)だ。


こいつはまさに俺と真逆の人種と言ってもいい奴である。

昔から要領が良く、容姿も良い、更に高いコミュ力を持ち合わせて居る。

中学時代から彼女がいない時間がなかったほどにモテまくっているハーレム系ラノベの主人公のような実に腹立たしい奴なのだ。

現在は大学を卒業し大手芸能プロダクションへ就職し、営業からタレントのマネージメントまで幅広く行っているらしく朝早く出て行き、夜は遅く帰ってくるため俺と会うのは久々なのである。


「涼にぃ、どうせ、アニメのグッズ買うために早起きしたんでしょ?きもちわるぅ…。」

洗面所からひょっこり顔だけだしたゲバい顔した女は俺の7つ下の妹の(かえで)だ。


昔は非常に可愛かった。

『大きくなったら、涼にぃと結婚する!』とか言ってくれる天使だったはずなのにどこで間違えたか今はただのケバケバしいクソギャルに成り下がってしまった。

こんな容姿だが、学校でアイドル部なるものに所属しアイドルの真似事をしているらしい。

将来は啓太の勤めている会社に所属しているアイドル『Darling's(ダーリンズ)』に入るのが夢なんだとか…。


ちなみに、『Darling's』は今、芸能界で覇権を握っているアイドルグループである。


まぁ、そんな事はどうでも良いが、俺はこいつらと一緒に居ると非常に気分が悪くなる。

まるで自分自身の出来の悪さを見せ付けられているようでイライラとしてくるのだ。


「母さん、飯…早く。」

「はいはい、ごめんね。お待たせ。…あ、涼太、あのね…」


母親は俺の前に朝食を持ってくると、少し遠慮がちにモゴモゴと言い始めた。


「…なんだよ?」

「えぇと、もう啓太と楓は知ってるんだけど…その…」


母親は煮え切らない様子で相変わらずモジモジとする。

いつもそうである。何か俺に言いにくいことを言う時はこう言う動きをするのである。


「もぉ!お母さん!涼にぃにも言わないと、涼にぃが可哀想だよ!どうせ気付いてないんだから!」

「そうだよ。母さん、兄貴、ニートなんだから早く言ってやらないと下手したら死ぬよ。」


一体、こいつ等は何を言っているんだ。

俺が死ぬって何事だよ。また大げさな。


俺は味噌汁を口に運んだ。美味い。やっぱり日本の朝は味噌汁に限るのである。


「あのね、涼太…明日、お父さんが帰ってくることになったの。」

「…う゛え゛ぇ゛!?」


俺の口から味噌汁が流れ落ちた。

と同時に俺は戦慄した。父親が帰って来る…だと…!?


うちの父親は外資系の会社で働いており、俺が高校生の頃からニューヨークに単身赴任へ行っており、今はこの家にいないのである。

俺が赤ん坊の頃から非常に厳格な父親で何事も一番でなければ"鉄拳!!!"という本当に恐ろしい父親であった。

おかげで、父親が居なくなるまでの間、俺は常に学年トップをひた走るガリ勉くんであった。

が、そんな父がこの家から居なくなった高校2年生の春、俺の中で我慢していた何かが弾けた。

それをきっかけに非常に堕落した生活をはじめ、今ではこんなにも立派なニートになったのである。

だが、それを知られると父親に殺されかねなかったため、ずっと父親には嘘をついて生きてきた。


「は!?何でそんな急に帰って来んだよ!?意味わかんねぇ!?」

俺が机を叩くと母親は"ひぃ"と情けない声を上げて縮こまった。


「…ご、ごめんなさいぃ。お母さんも急でびっくりしてるの…で、でも、お父さんは涼太には伝えたって言ってたわよ!?」

「はぁ!?そんなの知らな…っは!!!」


そういえば、一ヶ月ほど前に父親からエアメールが来ていたのであった。

父親からの手紙がいつも怖くてなかなか封を切ることが出来ず、そのままにしている事が多いのだが、もしかしてそれに…!?

俺は光にも負けぬほどの速度で階段を駆け上ると引き出しから父からの手紙を手に取り封を破った。


「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


思わず雄たけびを上げた。

そこには確かに『1月23日に日本に帰る。』と記されていた。


「兄貴ぃ、どうすんの?まぁ、身から出た錆と言うべきか…父さん、兄貴が働いてると思ってるんでしょ?」

部屋の外で啓太がニヤニヤとこちらを覗き込んでいる。


「つっても、困るのは涼にぃだけじゃないよぉ。うちも、明日からギャル辞めなきゃ…殺されるわ…。」

同じく楓も部屋の外で大きくため息を漏らした。



「とりあえず、今日中に就職しなきゃ…やばいんじゃない?じゃ、僕、仕事いってきまぁーす♪」

「あ、うちも啓にぃと一緒に出る!じゃ!涼にぃガンバ!いってきまぁす!」


俺は扉を閉ざされた部屋で一人燃え尽きた灰のようになりながら絶望していた。

今日中になんとかしないと俺の人生は本当に終了してしまうのだ。


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