陰鬱な学校事情
「で、お前はどうするんだ?」
「へ?」
突然のアキラの言葉に、僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「喜中だよ。本音を聞きたいんだろ? チャンスなんじゃないのか?」
「どういう?」
アキラの意図がイマイチ理解できずに、僕は聞き返す。
「危機的状況からあいつ救ったら、本音がポロリと溢れるんじゃねーの?」
「あー……」
お嬢様方の作戦を利用して、喜中さんと一気に距離を詰めてしまおうと。そういうことを言いたいんだって分かった。
「先にそういう考え方に至るアキラってゲスイよね」
「まあな」
認めるんだ。
「でも、助けるってどうするの? お嬢様軍団が喜中さん攻めたって、僕らには何も分からないわけだし」
「素敵な医薬品があるだろうが」
「……」
自信満々で即答された。はぁと一つ、ため息を吐く。
「医薬品って人を救うためのものだよ。人を困らせるためのものじゃないよ」
「人が一人でも救われればそれは医薬品になるんだよ」
「その発送は治したほうがいいと思うな」
どこからかやってきた蝶々が、僕の頭の上で止まった。
「大したことはしないさ。奴らの情報を奪い取って、あの手この手で嬲るだけだ。悪いことしたら償わないとな」
「やっぱ性格悪いよ……」
ストレスでも溜まってるんだろうか。
「最終的にはお前に丸投げするから、適当にやってくれ」
「そうなると思った」
止まっていた蝶々がどこかに飛んでいった。
気が滅入りながら、寝ている時雨の髪を撫でる。時雨だけが僕の気休め。
「そういえば、時雨に僕の名前教えたの? 普通に僕の名前呼んでるんだけど」
この件はもう聞きたくなかったので、別の話題を振る。
「俺が呼んだ時の真似てるんじゃないのか?」
「へー、それだけで覚えたんだ」
数回聞いただけで覚えられるものか、さすがは時雨。可愛いだけじゃなく賢いみたいだ。
「じゃ、俺はそろそろ帰るぞ。色々やることが増えた」
「はいはい、頑張ってね」
アキラが帰ってから、ちょっとだけ考えてみた。どうしたら、喜中さんの役に立てるか。
あまり人と関わらない僕からしたら、気遣いっていうのがとても難しく感じた。
そもそもが、辛い時はそっとしておくのがいいと思っていたから、慰め方なんて分からない。
「……コウ?」
「ん、どうしたの?」
目尻に涙を溜めながら、僕のほうに寄ってきて、お腹に抱きついてきた。
「怖い夢でも見たの?」
時雨は何も言わず、黙って顔を擦りつけてくる。
背中を支えてゆっくり撫でてあげると、すぐに動かなくなった。
「時雨?」
今度も返事はない。顔は見えないけれど、また眠ってしまったらしい。
「ほんと、癒してくれるのは君だけだよ」
そんな時雨を抱きながら、僕もいつの間にか眠ってしまっていた。
*
『今までありがとう。短い間だったけど、私は楽しかったよ。もう友達もいっぱいできたし、あなたがいなくても、私は大丈夫。だから学校で私を見かけても、声をかけないで。でも困ったことがあったら、いつでも頼ってね、私も頼るから
喜中柚子より』
僕の部屋の上に置かれてあった手紙。あまりに一方的で、わけがわからないものだった。




