〜目覚め〜
王が斃されて二日経った。
突如終わりを見出した抵抗運動と、未来への期待でレジスタンスの幹部メンバーはユイの酒場に集まっていた。
「そういえばギルは‥いやギル様か、はどうなった?」
「あー…3日は起きないって言われたからまだ寝てると思うけど」
「そうか。今度はあれが王になられるんだろう?」
「ああ。一度父上の政策に戻してから変えていこうかと思ってる」
「そうか…ん?」
「え?」
あれ、一人言ってることが違う?
「それがいいと思ったんだが…」
声の方を向くと、普通に寛いでいるギルがいた。
「「「?☆○。.:*♪ヽ(*`д´*)!!!」」」
ドンガラガッシャーンっ
その場のほとんど全員が椅子から転げ落ちた。
「え、ぎ、ギル!?‥さま?」
比較的早く立ち直ったジャンは椅子に手をついて起き上がった。
「呼び捨てで構わないんだが」
「そんなことより!なんでいるの!?」
__3日は起きないって…!
「いや、目が醒めたから…」
「だからって…誰かに言って来たのか?」
「いや。誰にも言ってない。会ってないからな」
「身分考えろよ、王様だろ」
こいつといると心臓がいくつあっても足りない。
心臓が一つ、心臓が二つ、心臓が三つ…一つ足りない‥…なんてな。
「会ってないって、どうやって来たんです?」
ガスが訊いた。敬語は迷って結局付けたようだ。
「ミッドナイトに乗せてきてもらった」
「ミッドナイト?」
「あいつ」
ギルが指差した方を見ると、戸口から鷲の頭が覗いていた。
「ミッドナイト、小さくなって入っておいで」
ギルが声をかけると、鷲の頭が引っ込んで、外でポンと音がした。
そして戸が開いて中型犬くらいの生き物が入ってきた。
「ピュイ」
頭から前肢は鷲、胴から下肢は獅子。真っ黒なグリフォンだ。
「ピィイ?」
ミッドナイトの後からもう一匹入ってきた。こちらは黄昏色だ。
「あ、トワイライトも来てたのか」
「ピィイ」
ギルの言葉に黄昏色‥トワイライトが頷く。
周りの皆はただただ呆然としているだけである。
「か、かわいい!!」
沈黙が落ちかけたところに突如響いたのはユイの声だった。
ちょうど二階から降りて来たところ、幻獣が目に入ったようだ。
走ってきてトワイライトに抱きついた。
「ビャッ!?」
抱きつかれたトワイライトは全身の毛を逆立たせた。
逃げようとして暴れるが、がっちりホールドされていて無理そうだ。終いには諦めた。
「ねえギル、この子たち何?」
ユイはトワイライトに抱きついたままギルに訊いた。瞳がキラキラしている。そしてギルがなぜここにいるかはどうでもいいようだ。
「グリフォン…まあ、乗せてくれる」
「…友だち?」
「……多分」
「ピュイ」
「ピィイ」
ユイがニコニコと訊くとギルと二匹は頷いた。なぜかギルだけ自信なさげだが。
「乗れるの?こんな大きさなのに」
「姉貴、そいつさっき馬より大きかった」
「本当?すごい。今度乗せてね」
「ピィイ」
「それで、ギルは身体大丈夫なの?」
ユイはトワイライトを離すとギルに向き直った。
「大丈夫‥だ」
「ひょっとして、皆さんに迷惑かけてない?」
「かけてない」
「現在進行形でかけとるわボケぇ!」
いつからいたのかギルの背後に仁王立ちしていたウォーナが吠えた。
微かに“げ、”という顔をしてギルは腰を浮かせた。
ガッ
そんなギルの頭を鷲掴んでギリギリとやっている。
「痛いです師匠…」
「“痛いです”じゃねえ!せめて誰かに言っていけ!!」
「だって言ったら止められる」
「あったりまえだ!だってじゃねえ!絶対安静って言われてるだろうが!それをっ!ミッドナイトに乗って窓から出るなんて!しかもトワイライトじゃなくてミッドナイト!トワイライトのが穏やかなんだからそっち選べ!なんでわざわざ暴れん坊を選ぶ!?城中大騒ぎだわっ‥……はぁ、とにかく帰るぞ」
途中論点がずれているような気がしないでもないが、一頻り叫んでギルをひっ掴んだまま出ていこうとした。
「え、自分で帰れる」
「てめえ話し聴いてたか?絶・対・安・静!だっ」
「でも」
「でもじゃねえよ!」
なぜかギルは帰るのを渋っている。何か名残惜しいものでもあるのだろうか。
「ギル、私も一緒に行くわ。だからお城に帰りましょう」
皆がなぜ帰りたくないのか考えはじめたとき、ユイが口を開いた。
「………わかった。帰ろう」
その言葉に、ギルは沈黙のあと頷いた。
反応の仕方からなんとなくだが思ったことがある。
__‥もしかしてギル、姉貴に会いにきたんじゃないか?
もしそうなら帰るのを渋るのは当たり前だし、姉貴が一緒に行くって言ったから帰る事にしたのも納得がいく。
__この無自覚カップルが。
知ってるか、こいつら付き合ってないんだぜっていうレベルだ。というかそのまんまだ。早くくっつけよ。
……いやまて、ギル王様だよな?どうすんだろ…まあ、なんとかなるかな。ほっとこう。
酒場の前にいた純白のグリフォン(ムーンライトという名前だそうだ)にウォーナ、トワイライトにユイとギルが乗って城へ帰っていった。
ジャンは小さくなる影を見送りながら思った。これからこの国は明るく幸せな国になる。ギルなら大丈夫だ。
なぜそう思うのか何の根拠も無いが確信している。
あの、これからも世話の焼けそうな二人も幸せになれるだろうことも。
見守っていこうと思っている。(少しだけど)
__まあ、自分の方があの二人より幾分若いわけだし…俺も好きな子に告ってこようかな。