青田刈り
研究所は、ホントに畑と田んぼと山と僅かな民家以外なにもないような場所にある。土地が安いせいか、はたまた静かな場所が必要なのか、よくわからないけどなんとなく前者と予想。
それはともかく、そんなんだから、駅からも結構歩く事になるわけで。私と隣を歩く少年は、このご時世にあっていまだアスファルトではなく、土の道である場所を黙々と歩いていた。訂正。黙々と歩いているのは隣の少年だけで、私は結構放しかけてるんですけど。
話しかけてもそっぽを向いてああとかふうんとか、気のない返事か、それとも無視かだから、さっきの事をまだ根に持ってるんだ。真面目少年はこれだから扱いづらいなぁ。特別な力なんて、あるなら使わなきゃ損だし。今だって、変な意地を張ってないでその特殊な力でシュッと研究所までひとっとびに連れて行ってくれればいいのに、とか考えてるなんてバレたらきっと鬼の形相、だ。
ひときわ強い風が吹いて、顔とか足とか、素肌を出した場所にぴりぴりと吹きつけた。髪が吹き上げられて顔にかかるけれど、それよりもまず、寒さに気を取られる。
晩秋の最後の最後のほうであるこの季節、まだ服装はちょっと薄着に近いのに今日はひどく冷え込んで、マフラーを巻いた首をぎゅ、と強くすくめた。少しでも風が入らなければ、その分寒さは防げるような気がして。
―――これがこの時期特有の、照れ隠しとかなら、可愛げもあるってもんだけど。
私は仏頂面で隣を歩く少年の横顔を盗み見てため息。
あーあ、残念。せっかく青田刈りしにわざわざ15年前から幼くて、まだ人生経験の豊富じゃない君に会いに来たのに、幼くても大人でも、私に振り向かないのは同じなのね。
私よりも年上であろうと、年下であろうと、君の反応は同じ。
仏頂面で、私の事を煙たそうに見て、呆れたようにため息をつく。迷惑そうな顔をする。アウトオブ眼中。
「知君、好きなタイプは?」
「……果乃子と正反対のタイプ」
「なに即答してんのよー」
「照れる演技をするのも面倒くさい。果乃子相手じゃ」
「でもそういうのに限って、私に惚れてたりするんじゃないの?」
へっ、って、本当に馬鹿にしたように笑う。小学生らしくない。
「果乃子こそ、僕に惚れてたりすんじゃないの?」
って、知君的には絶対絶対、誓ってもいいけどそんな事思ってなかったんだろうけど、面倒くさいけど私の相手してなきゃもっと私が騒いで面倒くさいから、そういう適当な相槌打ってすましてたうちの会話のひとつのハズだったんだろうけど。
私は知君からそんな台詞が出るのは想定外で、思いっきり動揺してしまって「えぇ!?」って素っ頓狂な声を上げてしまった。やっばい、顔赤くなった。
そんな私を見て、知君がまた、なんか鳩が豆鉄砲食らったようなびっくりした顔するから。
「ぎゃー! もーやだー」
って、逃げ出した。
どこに、って、咄嗟だったから、私が本来いるべき場所に。小学生の知君がいる時間から、15年後に。
「おかえりなさいませ」
って声が聞こえて顔を上げたら、相変わらず畑と田んぼと山しかない、相変わらず研究所の側の道なんだけど、目の前には怒れる顔の知君大人バージョンが立っていた。うわ、目が据わってるよ……。
「この馬鹿女がどこ行ってたんだか聞こうか? 聞いとこうか? え? 馬鹿女。研究ほっぽりだして?」
ドスの聞いた低い声に、甲高い、声変わり前の知君の声が懐かしくなる。
「……すいません」
「お前の謝罪の言葉が一度たりとも本心から出たと思った事はない。ペナルティ50ポイントと、2週間一人で研究所の後片付けだな」
「うっそー! ちょっと、勘弁してよ。知先生!」
「じゃあ、上に報告しようか?」
「……すいません」
本当に。
幼くても大人でも、容赦なく真面目で厳しい人。それが、私の好きな人。




