第五日
1:19
夕となり、また朝となった。第四日である。
『あの……郷土さん、ちょっとよろしいでしょうか』
『なんですか、第四日が始まろうというときに』
『あの、わたくしですね、色々と細かいところがしっくりこなかったものですから、つい英語の翻訳が併記されているサイトをいくつか見てまわったんです』
『ついにやりましたね、そういうことを』
『すみません今は聞いてください、あのですね、天がヘブンだというお話でしたが、二回目に出てきたときの、つまり神様が大空を天となづけた、というところはですね、ヘブンではなくSkyだとしているサイトがあったんです。そのサイトではちなみに、第一節の天もHeavensと複数形だったんです。これは……その、どういたしましょう』
『サイトとか、もうだからサイトとかあれなんですよ、本当に』
『え……あの』
『ほれ言わんこっちゃない、と言うほかありませんよね、もうね』
『なんか、すみません……でもこれはどうしてもお伝えしなければ、と思いまして……』
『いえ、いいんですよ、怒ってないんですよ。まあでも、もし私が神であろうとなかろうと、絶対に許さない、ということだけは断言できますけどもね。なにしろもう完膚なきまでにしっちゃかめっちゃかですからね。やってくれたものですよね』
『怒り心頭じゃないですか……』
1:20
神はまた言われた、「水は生き物の群れで満ち、鳥は地の上、天の大空を飛べ」。
『さっ、心ない妨害にもめげず、第四日の解説をもりもり進めていきますよ』
『すみません、えっと……』
『あ? なんですか。もしかして外科的な方法をとらないと黙れないのですか』
『わ、こわい。大丈夫です黙れます』
『黙るときは黙って黙りましょうね』
『…………』
『第四日になり、ついに動物たちを造りはじめましたね』
『…………』
『ほら、相づち。仕事してください』
『はい……』
『海には生き物の群れで満ち、空(sky)には鳥が飛び回れ、と、こう言ったわけです』
『スカイ……? しれっと採用していらっしゃいますが』
『さあ、そして次、どうなったか。注目ですよ』
1:21
神は海の大いなる獣と、水に群がるすべての動く生き物とを、種類にしたがって創造し、また翼のあるすべての鳥を、種類にしたがって創造された。神は見て、良しとされた。
『あら残念、スカイは出てきませんでしたね』
『は? まあ無視をしまして、びっくりしましょう』
『わたくし、だいぶ以前から、びくびくならしておりますが』
『外科医を呼んでおいてください。さあ、びっくりしたことに、前節で神様がセリフで指示を出したことを、あろうことか神様がご自身で創造しちゃったんですよね。この順番は、すごいですよね』
『あっ、そうですね。言われてみれば、かなりうっかりというか、なんとなく身近で見たことのあるようなヅッコケ感ですね』
『冷静に考えてみますと、どうでしょう、神様の指示が思ったように実現していかなかった為に、神様自らが手を貸した、という事態になったと。そのようにもとれますでしょうね』
『現場の実行力に不満を覚えた、というわけでしょうか』
『神様の情熱を垣間見れますね』
1:22
神はこれらを祝福して言われた、「生めよ、ふえよ、海たる水に満ちよ、また鳥は地にふえよ」。
『おっと、ここで神様が祝福してくださいました』
『生き物たちに、いっちょ頑張れよ、と励ましの言葉をかけてくださっているようですね』
『動物たちに対する思い入れは、また別格ということなのでしょうか』
『まああれですよね、弱いからこそ応援しちゃう、みたいなパターンも考えられますけどもね』
『それは、信じたくないです』
1:23
夕となり、また朝となった。第五日である。
『あっ、ここで第五日が終わったのですね郷土さん』
『さあここから第五日が始まりますよ』
『いえ、あの……それは本当なんでしょうか。わたくしサイトで見てきましたので……』
『なんですか。あ、あと出来るだけ腕の悪い外科医を呼んでおいてくれますか。無免許だったら、なおいいのですが』
『絶対呼ばないでください。あのですね、これまで何回か出てきた、第なん日という部分なんですけども、これ、その日が終わったあとに、第なん日である、と最後につけていってるみたいなんですね。つまり今回の第五日は、その第五日の終了を示しているんです。でないと、第一節のあたりの天と地の創造は一体第なん日なんだ、っていう混乱をきたしてしまうわけですからね、まあ、考えてみれば当然の破綻だったんです。で、ですね、そのあたり、どうなんでしょうか、とお聞きしたいわけなんですが、ふふっ……ああすみません、ちょっとどうしても笑みがこぼれてしまいますけども、ええ、すみません、愉快なもので』
『はい。ここで第五日までが終了しまして、動物たちが現れはじめましたね、さあいよいよ第六日、クライマックスですね』
『待ってください、わあ、第五日が終了しましたかあ、一体いつ終了したんですか?』
『第六日は、なんと、そう、あのおなじみの生き物が、いよいよ大登場いたしますので、皆さん、どうぞお見逃しなく』
『ちょっと、聞こえてますよね』
『聞こえませんね』
『では耳鼻科医を呼んできます』
『呼ばせません。まあでもそうですね、耳鼻咽喉科医ならいいですよ。貴方の喉を治療していただきますので』
『いえ、そのときは先に郷土さんを、是非』
『いえいえ、私なんて』
『まあ聞こえてますもんね、で、いつ第五日が終わったのでしょうかそしてなぜいつの間にか採用するなどという気色悪いことを繰り返しなさるのでしょうか是非ともここで直ちにお聞かせいただきませんと』
『あはーいはい、ごめんごめんご』
『はあ?』
『聞こえませんでした? じゃあ呼びますか、耳鼻咽喉科医志望の中学生あたりを』
『よっしゃおい、カタつけるか、そろそろよ』
『あ、こわい。これベテランだ』
神はまた言われた、「つづく」。