第一日〜第二日まで
1:6〈第1章:第6節〉
神はまた言われた、「水の間に大空があって、水と水とを分けよ」。
『ここで、水を分けるという表現が出てまいりましたが』
『もうお気づきの方も多いと思われますが、神様というのは、なんでも分けるのが好きなんですね』
『好きかどうかという決めつけはどうかと思いますが』
『さあ、ここでは水、すなわち世界を構成するエレメントに着手し始めたわけですね。最も大掛かりな土木工事の始まりと言えましょう』
『あの、水を分けるというのは』
『先に、次へ進みましょう』
『あ、はい……』
1:7
そのようになった。神は大空を造って、大空の下の水と、大空の上の水とを分けられた。
『はい、大空の上の水と、大空の下の水ですね。上は、空気中に含まれる水蒸気や雲、そして言わずもがなの下ですが、これは海や川などでしょう』
『すごく明瞭ですね』
『上水と下水、と受け取ってしまわないよう、気をつけたいところですね』
『最初の言葉、そのようになった、というのが非常に印象的ですが』
『ええ。神の凄味が良くにじみ出ている表現です。もう、すぐにそのようになるんですね。ちなみに、英語ですとand it was so.となります』
『何だか、あっさりとしていますね』
『英語は比較的あっさりとした聞き心地の言語ですから。言葉のもつ意味は、じわっと、後味のように遅れて認識されてくるんですね。対して日本語ですと、もっと即効性がありまして、パーンとすぐ意味がぶつかってくる感じなんです』
『なるほど。翻訳によってニュアンスが変わる事も多いでしょうし、英語版の文も合わせて読み解いてみるのも良さそうですね』
『あんまり、そういう提案はやめていただけませんか』
『え……なにか、お気に障りましたでしょうか』
『次、いきましょう』
1:8
神はその大空を天と名づけられた。夕となり、また朝となった。第二日である。
『ここから、第二日に入るわけですか』
『明らかにそうですよね』
『……あの、申し訳ありません、本当に、理由はわかりませんが反省いたしますので……』
『いえ、怒ってないんですよ。とりあえず、解説させてもらってもいいでしょうか』
『ええもう、それは是非』
『出しゃばるな、ということですよね。はい、大空を天と名づけたわけですが、ここで何かお気づきになるでしょう』
『出、え……いえなんだか、混乱してしまって……ちょっと気づきません』
『はあ? 天というのは、第一節から早くも登場していた言葉ですよね』
『……ああ、はい、そうですね。はい、そうでした』
『堂々再登場した天という言葉ですが、これは英語ですとHeavenなんですね』
『最初のと、今回のも、両方ヘブンだったのでしょうか』
『そのとおり。ちなみに地はEarthでした』
『ほうー、ニュアンスがだいぶ変わって聞こえますね。やはり英語は英語で、伝える意味が変わってしまうので比較検証を加えていくべきではない……いえ、すみませんなんでもありません』
1:9
神はまた言われた、「天の下の水は一つ所に集まり、乾いた地が現れよ」。そのようになった。
『はい、そのようになったんですね。大変順調です』
『これは、海と陸とをくっきり分けた、というところでしょうか』
『ええ、そうですね。これは全体に言えることですが、神様が声に出して指示を出している点に注目するのもまた一興でして、誰かが指示を受けて動いているようにも解釈できますよね』
『自然そのものに指示を出して、動かしている、とかですか』
『そのあたりはノータッチみたいですね。謎です。あるいはただの独り言なのかもしれません』
1:10
神はその乾いた地を陸と名づけ、水の集まった所を海と名づけられた。神は見て、良しとされた。
『あ……陸と、海、出てきましたね』
『ええ、出しゃばったものですよね』
『すみません……』
『まあここは神様も良しとされていますから良かったものの、でもそうですね、まさしく、もし神様が許したとしても、ってやつですよね』
『そこまで、ですか……』
『さあ、ここまでまいりましたところ、神様の趣向がじわじわ見えてきましたね。神様は何かを分けることと、名前をつけることが好きなんですね。あとは、現場監督的なポジションに就きたがる、と』
『あの、いささか、表面的な解釈に見えますが……』
『はあ? それくらい、良しとしておいてください』
そしてつづくようになった。