天と地の創造〜第一日まで
1:1
はじめに、神は天と地とを創造された。
『さあ、始まりました創世記、第一章です。福音ならぬ副音声をお送りしてまいりたいと思います。さあ、ご紹介しましょう、解説の郷土学さんです。よろしくお願いします』
『あはい、よろしくお願いしまーす』
『早速ですが、もう始まっております、第一章の、ど頭ですね』
『そうですね、ちょっともう一回やってもらいましょうか』
『え、何をですか』
1:1
はじめに、神は天と地とを創造された。
『これですね』
『ああ、まさか神様にテイク2をやっていただくなんて、驚きの展開でした』
『序盤からどんどん飛ばしていきませんと、天地創造なんてできませんよ』
『そうですか。では解説をお願いします』
『はい、天と地とを造ったわけですよね』
『それ以前は、いわゆる無だったのでしょうか』
『たぶん。まあ神のみぞ知る部分でしょう』
『……天とは、どういったものでしょう』
『上にある感じのものですね』
『ではなぜ、天が造られたのでしょう』
『動機はわかりませんが、まあ、地があるから、天があると認識できるわけでね』
『どういうことでしょう』
『天があるところに地はない。また地があるところに天はない。とまあ、分割しちゃったんですよね』
『あるいは重力の誕生、というふうに、なんとなく現代科学的に解釈することは可能でしょうか』
『いいと思いますよ。神様はけっこう何でも許すタイプですし』
『なるほど、テイク2もありましたし』
『そういうことです。そんなノリで、天と、地と、ふたつにしてみたわけでしょうね。まあ、神のみぞ知るんでしょうが』
『その決め台詞は、身も蓋もなくなるので今後は控えていただけますでしょうか』
『わかりました』
1:2
地は形なく、むなしく、闇が淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてを覆っていた。
『抽象的になってまいりましたね』
『まず言葉どおりにいきましょうか』
『はい、解説お願いします』
『はーい。まあ暗かったという話に尽きますね。あと、このときには、地に形すらなかったと、なんとなくあることだけはわかる、その程度の存在感しかない地だったわけですね』
『なるほど。ここで最も不思議な部分と思われるのですが、神の霊、というのは?』
『神の肉体的な部分ではない部分、のことですよね。それが水のおもてを覆っていたわけですから、あるいは、大気のことと解釈することもできますね。水より上にあるもの、という意味で』
『ほうほう。神の霊は大きいのですね』
『まあ、それなりに地球規模ですよね』
1:3
神は「光あれ」と言われた。すると光があった。
『出ました! ここで早くも神様ベストワンの名台詞が炸裂しましたね』
『やっぱり序盤から飛ばしていきますよね』
『ここはどういった解釈が可能でしょうか』
『最初の天地を造ったときとは違い、光を造った、とはなっていないところがポイントでしょう』
『「光あれ」と言っていますね』
『そう、セリフが初登場したわけですね。つまり神の発声機能は光よりも以前にあったと』
『しかし、時間の流れというのは、もうあったのでしょうか』
『おお鋭いですね。時間というものは、まったく触れられてないのです。従って、あるかないかは貴方しだい、みたいな勢いです』
『まじですか』
『神様にとって、時間なんてあんまり関係ないんでしょう。生まれる瞬間もなく、死ぬ瞬間もないわけですから、全ての時間に等しく存在しているわけなんですね。もっと言うと本当は、もうなにもかも一切の変化がない、だからこそ、変化するものを神の外部っぽい部分に造ったわけです』
『興味深いですね』
『まあここはひとまず、光あれ、と聞いて光を用意した照明さんに感謝しましょう』
1:4
神はその光を見て、良しとされた。神はその光と闇とを分けられた。
『ここでまた、闇が言及されてますね。最初に地にあった闇とは、どう違うのでしょうか』
『いーい質問ですねー。アキラ、カンゲキ』
『学さん、解説お願いします』
『そうですね、マジレスすると、最初の闇は、無の象徴としての表現ですね。今現れた闇は、光の後の闇ですので、より存在がクッキリしてる感じですね。あと、光と闇を分けたってことは、まあ混ざらないようにしたわけですね。水と油というか。でももちろん、敵対させるニュアンスより、元々は引きたて合いを狙ったのでしょうね』
『コーヒーとミルク、みたいなことでしょうか』
『それは違います。私、紅茶派ですし』
『そうですか』
『ここでもっと重要なのは、良しとされた、の部分なんですよ。神様も案外に探り探りでやっていっているという、ライブ感、チャレンジ感、そしてエンジョイ感が伝わってきますよね』
『イマイチだな、で続けられても困ります』
1:5
神は光を昼と名づけ、闇を夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。
『昼、とは名前なんですね。名づけたと』
『ええそうです。その点、天と地についてはナアナアになっていますね、つまりそれほど光と闇は神様のお気に入りなわけです』
『そしてここで夕になり、朝になって、第一日である、となっていますが、ここはどうでしょう、時間の経過が生まれたと解釈してよろしいのでしょうか?』
『生まれちゃってますよね、ええ』
『これは、昼と夜の概念が造られて、それで、その移ろいによって時間を表していく、という流れでしょうか』
『ちょっと違いますね。この一日とか二日とかは、便宜上のものです。いわば映画などのシーン1、カット1、みたいな、わかりやすく説明するためのルールづけなんですね』
『あくまでルールでしかないと』
『ノートに罫線を引いておくようなものですね。最初はまっさらな自由帳だったわけです』
『なるほど。確かに自由帳って、あの真っ白いページを見ていると、逆に何も書けなくなっちゃうんですよね』
『自由を本当に使いこなせるのは神様くらいなもんなんですね。凡人のために罫線でルールを造ったんです』
『凡人ですか』
『見下す意味ではなく、大多数に向けて、という意味ですので』
『どう違うのでしょうか』
『結構違いますよ。コーヒーと紅茶くらい』
神は「つづく」と言われた。