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ボサボサ頭の正体に迫れ!

 リーリアは廊下を無心の境地で歩く、・・・様に努力していた。

 朝からの第三王子の馬鹿っぷりにイラつきを覚えすぎていたため、無心になって怒りをやり過ごそうという試みだ。

 上手くいっているかどうかは疑問だが・・・。


 高等部校舎から、訓練塔への渡り廊下に差し掛かった時、後ろから呼び止められた。

「リーリアさん」

 リーリアは足を止める。

 精一杯怒りを鎮めるために深呼吸をしてから後ろを振り返った。

「何でしょう?」

 振り返った先にいたのはボサボサ緑頭だった。

 ボサボサ頭は片手を白衣のポケットに突っ込みながら、頭をかいた。

「先程の・・・アレ、また、対処して頂いたようで・・・すみません」

 何故謝るのかわからなかったが、リーリアは抑えた怒りが表面に出てきそうになるのを堪える。

「いえ」

 思わず出そうになる悪態を口の中に閉じ込め、短く返事をする。

「朝の手際も素晴らしかったですが、先程の対処も素晴らしかったですよ。まさに千年に1人の才能! あの場にいたウォン君以外の誰もが、何が起こったのかわからなかったはずです」

 ややも興奮気味にボサボサ頭が語る。

「・・・そうですか」

 それに対するリーリアの反応は冷静だ。

 その温度差に気付かぬはテンションの高めな本人だけ。

「朝のアレも凄かったですね! あの短時間で防護壁、魔力圧縮、魔力無効化・・・真似できる人はいないでしょう」

 悦に浸った声でボサボサ頭はなおも続ける。

「貴女が僕の講義をとっているのは知っていましたが、改めて貴女の才能を見て感動しました。何故今まで気づかなかったのでしょう」


 リーリアは1歩下がる。


 ボサボサ頭のテンションがおかしい。

 こんな壊れキャラだったか?


 ボサボサ頭はずいずいっと2歩詰め寄る。

「貴女を知っていたはずなのに認識できなかった、その事実に気付いて初めて貴女の印象魔法にも気づきました!」

 リーリアは近づかれた分だけ離れる。


 でもなるほど。印象魔法に気づいたのは今日なんだね。ここの講師の目を誤魔化せていたのなら、印象魔法の効果は確かなものだといえよう。


「貴女程の才があれば、思うがままに振る舞うことができるというのに、目立ちたくないという謙虚っぷり! 僕は、僕はもう本当に感動しました!」

 ボサボサ頭はリーリアとの距離を再び縮め、感動を体一杯表現しようと、抱きつこうと両腕を広げた。


 その腕はなんだ!?


 身の危険を感じたリーリアは、無言のまま防護壁をはる。

「先生、お褒めいただきありがとうございます。ですが、過剰なスキンシップは好みませんので、遠慮させていただきます。」

 リーリアが早口で言うとほぼ同時にボサボサ頭は防護壁に見事ぶつかり、鼻頭を押さえた。

「いたっ!ひどっ・・・」

「先生、セクハラって言葉は知ってますよね?」

「・・・」

 ボサボサ頭は少し考えて、手をポンっと打つ。


 忘れていたのか・・・


 リーリアは呆れた様にため息をつく。

 確かに今のリーリアの姿は女子力にかける。

 そういった対象に見られないかもしれないが、きちんとした女子だ。

 忘れるのはどうかと思う。


 リーリアは、ふと講義の終わりに思った疑問を聞いてみた。

「そういえば先生、先生のお名前は何ていいましたっけ?」

 ボサボサ頭は首を傾げる。

「・・・言ってなかったっけ?」

「聞いた気はするんですが、覚えてないんですよ。何ででしょう?」

 リーリアもボサボサ頭の真似をして首を傾げてみせる。

「何でだろうね」

 ボサボサ頭が1歩下がる。

 挙動が怪しくなってきた。

「今度はきちんと覚えますから、教えていただけますか?」

 リーリアが1歩詰め寄る。

 お互い表面上は笑顔だが、あたりは張り詰めた空気に包めれている。

「・・・えーと、えー・・・」

 ボサボサ頭はさらに2歩下がる。

 頭を両手で抱えて掻き毟り、必死に言葉を探しているようだ。

「先生、名乗りたくないなら、そこは適当に偽名を名乗ればいいんですよ・・・」

 リーリアは呆れて助言をしてしまった。

 それ以上ボサボサ頭に詰め寄るつもりもなく、これ見よがしにため息をついて見せた。

「あ、あぁ、そうでした。そうなんですけど、偽りの名など名乗りたくはないので・・・」

 ボサボサ頭が少し項垂れたようにうつむく。


 リーリアは虐めすぎたか、と少し反省する。

「すみません。誰にでも知られたくないことはありますよね。これ以上はお聞きしませんので」

 リーリアは言葉を切って、では、と踵を返すと、次の目的地へと足を向けた。

「あ、待ってください」

 後ろから声が追いかけてきた。

 リーリアは律儀に足を止め振り返る。

「何ですか?」

「僕も一緒に行きますよ 」

 振り返った先にはやけに近い距離でボサボサ頭がいた。

「・・・何故?」

 思わず疑問が口をついて出た。

「それはもう、僕が講師陣から選ばれた王子監視役だからですよ。・・・くじ運がなかっただけですが・・・」

「・・・」

 リーリアは無言になった。

 色々言いたいことはあったが、耐えた。

「・・・ひしひしと何が言いたいか目線で伝わって来るので・・・あまり見ないでください・・・」

 ボサボサ頭は先程の勢いは何処へやら、目線をそらした。

 リーリアも自分の感情が表に出過ぎていたことを理解し、顔を鬱向ける。

 深呼吸を繰り返してボサボサ頭の顔を見ずに、再び踵を返す。



 無心で歩こう。


 考えれば負けだ・・・考えたら負け考えたら負け考えたら負け。


 くじで決めたってなんだ?


 いやいや、考えたら負け。


 監視役って?


 もしかして、このボサボサ頭以外の講師はノータッチ!?


 いやいやいやいや、考えたら負けだ。


 今はひたすら歩くのみ!



 リーリアは足を早めて、予定通り訓練塔へと向かった。

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