授業に励みます。
朝の騒ぎが学院内に広がりきったのは、あと1つ授業を受けたら昼休みといった頃合いだった。
昼休みになれば高等部校舎は野次馬で溢れかえるだろう。
あれから今の時間帯までは特に問題は起きてないらしい。
お貴族様の多いクラスに編入したらしく、第三王子に対して無礼を働いたり、礼を欠いた行動をする者もいなかったらしい。
問題が勃発するなら昼休みであろう。
お貴族様達が取り巻きよろしく周りを固めてくれてればいいのだが・・・
リーリアは溜息を付きながら次の講義が行われる教室へと移動する。
次の授業は大学部になって取り始めた薬学の講義だった。
講師となる男はいつ見ても髪がボサボサで、目が隠れるほど前髪も長く、・・・はっきり言えば不衛生に見えた。
ガラガラと扉を開け、卓の一つに腰を下ろす。
最前列、左端、窓際だ。
程なくして件の講師が現れた。
相も変わらずのボサボサ頭だ。
せっかくの綺麗な緑の髪色もあれでは台無しだった。
チラリと目線がリーリアの方に向いた気がしたが、その後はいつものように眈々と授業が進められた。
あの後第三王子を回収に来たのはこの講師だったか、とリーリアは今更ながらに思った。
先程の視線は朝の色々のせいか。
リーリアがやったとよく気づいたものだ。
さすがはラウール魔法学院講師。
そう納得する。
そうでなければリーリアに気を止める理由がないからだ。
確かに成績は優秀だが、特に手もかからず、世話も焼かせず、勝手に優秀な成績を叩き出す生徒など理由もなければ基本放置だ。
これは他の講師陣も同じで基本的に放置されている。
研究に関わっていたりすれば話は別だが、それでも研究内容で語り合う程度。
個人的人付き合いはほぼ無い。
地味に過ごしているだけある。
思考に耽りかけた頭を左右にふり、授業に集中し直す。
薬学は興味深く、魔法と密接している点が多い。
知っていれば治癒魔法と連携させて、より高い治療を施せたり、毒薬を作ったり、呪いをかけたり、・・・ま、まぁ色々とできる。
去年までは必須科目を中心にとって飛び級をメインにこなしてきたため、雑学範囲に入ってくるものはあまりとっていなかったのだ。
「・・・分量を間違えると、毒薬に変わり、魔法をかけ間違えると媚薬となりますので、取り扱いには注意してください」
拡声魔法を使って広がる講師の声に、生徒が笑い声をあげた。
「こわっ」
「媚薬ってなんすかー?」
「媚薬のが作りたいですっ」
「はい、静かに。次の授業は実験室で今言った薬を作ります。次の授業は第3実験室にきてください」
講師がそう言うと終業の鐘が響いた。
「本日はここまでです。お疲れ様でした」
その言葉を合図にバラバラと生徒達が立ち上がり、教室を出て行く。
リーリアもそれに習い、立ち上がった。
(・・・一応見にいくか・・・)
リーリアは面倒だと思いつつも、高等部校舎に意識を向ける。
第三王子のクラスは午後に実技が控えてたはずだ。
午後の講義は受けられないだろうことを嘆きつつ、教室を出ようとした。
「リーリアさん。待ってください」
かけられた声にリーリアは足を止める。
振り返ると、ボサボサ頭の講師が立っていた。
「先程はありがとうございました」
その御礼の言葉がどこに該当するかを思いたり、リーリアは自分の推測が正しかったことに頷く。
「いえ。・・・仕事ですので」
短く答え る。
「優秀な人だとは聞いてましたが、あれ程だとは知りませんでした」
仕事だというところにツッコミはないらしい。
これはどうやら、講師陣にもリーリアの役割が知れ渡っているようだ。
「ありがとうございます」
リーリアは無難に短く答える。
「前から気になっていたのですが、何故印象魔法をかけてるのですか?」
その言葉にリーリアは一瞬驚きの表情を見せたが、内心納得した。
やはりさすがはラウール魔法学院講師。
何の魔法をかけているかまで気づくとは・・・
「目立ちたくないからです」
その言葉に今度は講師が驚く。
「それでは、失礼します」
リーリアはそう言って、さっさと踵を返して教室を出た。
・・・あの講師、何て名前だっけ?
教室を出た後、ふと湧いた疑問にリーリアは内心首を傾げる。
姿形は覚えているが、名前が思い出せない。
いや、姿形といっても、思い出せるのはボサボサの緑の頭と白衣。
ついさっきまで話していたのに声も思い出せなかった。
引っかかるものを覚えながらも、問題児の方が優先か、と意識を切り替えて、野次馬達で一杯であろう高等部へ足を進める。
何もしてくれるなよ。
大人しくお貴族様に囲まれて優雅なランチタイムでもしてろ。
・・・あぁ面倒くさ。