表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/67

ジラルディアに向けて

 学院に戻り、即座に学長に事の次第を報告するとリーリア達はいったん帰宅した。

 屋敷に戻ると心配顔なレオンハルトがリーリアを出迎えた。

 エドワードは今日は帰ってこないようだ。

 レオンハルトも明日以降は暫く帰ってこれない日が出てくるかもしれない、とのことだ。


「私達がいないからって、無茶なことはしてはいけないよ?」


 レオンはそう言い置いて次の日王宮へ出仕していった。

 リーリアは、というと、はっきり言って兄2人がいないこの機をしっかりと利用する気満々である。

 本日をもって臨時講師も終了予定だ。

 この際埒の明かないジラルディアに直接乗り込んでしまうのもありかと考えていたりもする。



 学院に行き午前中をいつものように過ごす。

 そして午後のアレストリウスとの実技訓練中の時であった。

 リーリアはアレストリウスから妙な話題を振られた。


「ジラルディアの皇帝即位10周年記念式典・・・ですか?」


 思わず聞き返してしまったが、これは仕方のない事だろう。

 確かにジラルディア現皇帝は今年で即位10周年だ。

 その記念式典を行ったところでおかしな話はない。が、それは平時の話だ。

 今ジラルディア付近の各国はジラルディアの妙な動きにピリピリしている。

 そんな中で記念式典など開催して、いったい何処の国が参加するというのか。


 リーリアの疑問はアレストリウスとクリストファーの疑問でもあった。

 もっとも、国の上層部もこの事には疑問を抱いているらしい。

 はっきりと何かの罠に違いない、といいきる者もいるくらいだ。


「その式典、何か起こると見て間違いなさそうですね」

「まず間違いなく、何か仕掛けてくる気でしょう」

 リーリアとクリストファーは顔を見合わせる。

 アレストリウスはそこへおずおずと口を挟んできた。

 どうにもあの伯爵家の夜会以来アレストリウスはクリストファーに対して強く出られなくなっていた。

「・・・何かって何だ?」

「それがわかれば苦労はしませんよ」

 答えるクリストファーの声は冷淡なものだった。

「だ、だよな・・・」

「それよりも、貴方はもっと考えるべき事があるでしょう! 裏工作は私がしますから、表舞台は1人で乗り切って下さいね」

「う、わかっている」

「本当にわかっているんですか?! 各国の事も覚えました? 我が国との関係はもちろん、特産品、主要人物、歴史なんかももちろん覚えて下さいね。言語も! 最低後3カ国語は覚えてもらいますから」

「・・・そんなに」

 ものすごい剣幕のクリストファーと対照的にアレストリウスはどんどんと意気消沈していった。

 その話の内容にリーリアは疑問を覚え、口をはさむ。

「何かあるのですか?」

 そう聞くと、クリストファーがため息とともに状況を教えてくれた。


 どうにも昨日、急遽届いたジラルディアの皇帝即位10周年記念の式典の知らせなのだが、その親善大使にとアレストリウスが任命されたらしい。

 もちろん彼1人では心配だという事で、クリストファーはじめ、何人かの文官も付いていくそうだが・・・。


「何・・・それ。まるで人身御供・・・」

 リーリアはあまりのことに思わず心のまま声をあげていた。


 罠だと分かっている場所にわざわざ送りこむなんて、人身御供以外の何物でもない。

 まさか国王や皇太子だってアレストリウスが何かできるなんて期待はしていないはずだ。

 何かあった時、失っても惜しくない者。加えて各国に対する事のできるある程度の地位がある者。それを選んだにすぎないだろう・・・。


 リーリアの色を失った表情にクリストファーが沈痛な面持ちで声をかける。

「貴女がそのような顔をする必要はありません。・・・私もできる限りの事は致しますし、この王子は一応魔力も多いですからね。いざとなれば単身移動魔法で国へ帰ることもできるでしょう」

「そうだ、リーリア。お前がそんな顔をする必要はない。それに、俺は生まれて初めて国外へ出れるんだ。今まではなかった王子としての仕事でもある。・・・たとえどのような状況であったとしても、しっかりと勤めを果たしたい・・・と思う」

 クリストファーの言葉を継ぐようにして言葉を発したアレストリウスは清々しい表情をしており、以前の彼とはもうまるで違う人物のようだった。

 リーリアはアレストリウスのその表情を嬉しく思い目を細める。


 きっと、この第三王子はこれから育っていく。

 色々なものを見、知り、学び、成長していくだろう。

 この年まで下手な権力争いに巻き込まれず、ひねくれた性格にならなかった事が一番の救いだろう。


 そんな彼だからこそ、簡単には死んでほしくなかった。

 リーリアは大きく深呼吸をすると、アレストリウスに向きなおりニッコリと笑顔を作った。


「今日から、実技訓練に加えて、術式、詠唱の基礎もお教えすることにします」


 本来なら、高等部の授業に含まれているこれらだが、アレストリウスの今までの実技訓練を見ていても分かるように全くもって身に着いていない。

 どちらも基礎を身に着けるだけで使用できる魔術に幅を持たせられる。

 大きな実力アップに繋がるであろう。


 もしもジラルディアで何かあった時の為に・・・彼が自分を自分で守れるように。

 リーリアのできる助力はこれくらいしかないだろう。


「しっかりと、覚えて頂きますから」

 そうリーリアが微笑めば、アレストリウスは顔をひきつらせた。

「・・・いくら俺でも、そんな1度に覚えられん・・・」

 焦燥感含むその言葉の内容はクリストファーの授業も含まれているのだろう。

 確かに彼がこれから1ヶ月の間で覚えなければならない事はかなりの量であろう。

 この前の夜会前の事など可愛らしいものに違いない。

 けれども、そんな弱音が許される状況ではない。


「「何か?」」


 リーリアとクリストファーが声をそろえて笑顔でそう聞けば、アレストリウスは「ナンデモアリマセン」と棒読みで返し、今日からのハードな日程を心の中で嘆くしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ