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巻き込まれた人たち

 翌日の放課後・・・流石に昨日の今日(帰って即、手紙をしたためた)ではアレストリウスも都合が悪いのではないだろうか、と思ったのだが、彼は意外にもあっさりと了承してくれた。ウォンは、というと彼も文句を言いながらも了承してくれた。そして、レオンハルトはもちろん来るに決まっている。あの兄に限って妹の側に来ることを拒むなどあり得ないことだろう・・・。痛い兄だ。



 放課後、と言っても午後のティータイムくらいの時間に訓練棟最上階に実験に立ち会う人物たちが集まる。

 一見すると、何の集まりですか? といった集団だ。


 学長 人の良さそうな平々凡々なおじさん

 秘書殿 まるっきり執事のような人

 フェルダー 緑のボサボサ頭の白衣を着た怪しい人

 レオンハルト 金髪碧眼見た目だけなら立派な王子様

 アレストリウス 銀の髪のともすれば神秘的な美男子

 ジェイツ 野性味あふれる赤毛男子

 クルト 可愛らしさ満点くるくるお目々の男の子

 クリストファー インテリ系眼鏡美男子

 ウォン ちょっと生意気そうな美少年

 そして、リーリアだ。


(・・・何だこの集団)


 リーリアは思わず心の中で突っ込んでしまう。

「ねぇ、ちょっとリーリア・・・」

 リーリアが思わず入り口で立ち止まってしまっているとウォンに袖を引っ張られた。

 何、と顔を向けるとウォンが耳もとに口を寄せてきた。

「これ、もしかして全員事情知ってる人・・・?」

 そう問われリーリアは驚きと共にウォンを見る。

「・・・やっぱりね。どうも最近第三王子と、あの先生の様子が変だなぁとは思ってたんだよね。で、他にも何か隠してるでしょ?」

 ウォンがジッとこちらを見つめてくる。


 ウォンは最近身長がリーリアより高くなってしまったので、残念ながら必殺上目遣い! は使えなくなっていた。

 元よりリーリアには通用しないものだったが・・・。


 今回もジッと見つめられたところで、リーリアは痛くも痒くもない。

 が、多少は後ろめたさもあるので、先に教えておくことにする。

「今からその事も含めて学長が説明会するけど・・・端的に言うならジラルディアの事。噂は知ってるでしょ?」

 そう言えばウォンは、あぁ、と納得した。

 納得してくれたところで学長達の待つ場所へと移動する。


 集まった面々を確認すると、学長が口を開いた。

「集まったかな。では、実験を始める前に・・・そこの騎士君、君には報告の義務が課されてるとおもうが・・・報告は控えてもらいたい。強制ではないが、実験内容を洩らされては研究者としては困るのでね。どうしても報告しなければならないというのであれば、残念だが少しの間外してもらう」

 この中で騎士と呼べるのは1人しかいない。紛れもなくジェイツのことだろう。

 彼はあの飄々とした態度から忘れがちだが、騎士の中でも王族の護衛にあたれる近衛だ。もちろん今この場にいることは業務の一貫である。そのため、彼には報告の義務が生じてくる。

 クリストファーも同じだが、彼の上司が今この場にいる時点で報告も何もいらないだろう。

 クルトに至っては、アレストリウスの直属らしいのでこちらも問題ないらしい。

「・・・研究目的の実験内容、その結果については学術的に守られるべきものでしょう。この学院に来る時点でそれらの事は報告しない、他言しないお約束になっていたはずです」

 今更何を聞くんだ、と言った感じでジェイツが答える。学長相手だからかいつもより口調が丁寧だ。

「研究する目的、理由も他言しないと言えますか?」

 フェルダーが間を開けずにそう問えば、ジェイツは研究する目的、理由も研究の一貫として捉えると答えた。

「では、剣に誓ってこれより先のことを他言しないと約束してください」

「・・・はぁ、まぁいいですけど・・・」

 フェルダーの無言の圧力に押されるようにジェイツは自分の剣を鞘ごと腰から外し、目前に掲げる。

「私、ジェイツ・ウォーラムは剣に誓いこれより先のことを他言しないと誓う」

 騎士にとって剣に誓うことは、神聖視されるもにだ。破ることは剣を捨てると同義。騎士にとっては命をも捨てるも同然だ。

 そこまでする必要があるのか? という疑問が彼の顔にはありありと書いてあった。

 が、その必要があったのだと彼は後になって知る。


 リーリアはジェイツを見ながら、迂闊に剣に誓ってしまった自分を後に後悔するであろう事を予想した。

 彼が誓ったのは、これより先の事を他言しない、ということだ。

 つまり、研究に関わりがあろうがなかろうが、今これから話すこと、起きることは一切の多言を許されない。そういうことだ。

 上手く言葉を言い換えて誓わせたフェルダーの悪意が垣間見える。


 学長はそれではと事の次第を始めから説明し始めた。と言っても10年前のことから説明するわけではなく、最近のジラルディアの動き、おそらくと思われる目的、そして、そこから予想され驚異についてだ。

 語られていくにつれて表情の変わっていく者が出てくる。

 主にアレストリウス周辺だ。

 さすが宮廷魔術師長であるレオンハルトは知っていた事なのだろう、一切の表情の変化はない。むしろだから、とでも言いそうな雰囲気だ。

 1番悲惨な表情をしたのはクルトだった。顔面蒼白で、小さく震えてまでいる。


「それで、今日は何を?」

 レオンハルトの質問に答えるようにして秘書が何かをうやうやしく持ち出してきた。

 秘書の手の上に乗っていたのは先日見た聖遺物の1つ、レイア神の指輪だった。


(ほ、本当に借りてきたんだ)


 聞いていたものの半信半疑だったリーリアは実際に物を見て驚いた。

 大半は驚いた顔をしているのだが、アレストリウスにいたっては何だそれは? といった表情をしている。


(授業でやったよね?)


「・・・もしかしなくても、起動実験するんですか?」

 聖遺物を間近に見ようとウォンが秘書に近寄る。

「もしかしなくとも、そのつもりなのだろうな。だから私を呼んだか・・・。しかもフェルダーまでいるし・・・」

 珍しくもレオンハルトはフェルダーに苦手意識を抱いているようだ。

 妹、身内以外は皆同じとでも言わんばかりのレオンハルトにしてはかなり珍しいものだ。

「・・・レオン、何か文句でもあるようですね?」

「ない、ないから関わってくるな。リーリアにも近寄るな!」

 フェルダーのほど近くにいたリーリアをレオンハルトがぐっと引きよせた。そのまま誰にも触らせないとばかりに腕の中に抱き込んでしまう。

「・・・へぇ」

「ちょ、ちょっとレオン!」

 リーリアがレオンハルトの腕から抜け出ようともがくも、レオンハルトはフェルダーとバチバチと火花を散らしている。


(人のいないところで話を進めないでよ!)


「まぁ、あそこの3人は置いといて・・・と、アレストリウス殿下、貴方も外れて下さい」

 学長は何やらもめ始めた3人を置いて話を進める。

 アレストリウスはやや不満顔をしたものの言われた通り話の輪から外れる。


 輪から外れる、ということは必然的に揉めている3人に近づくことになり・・・そこでフェルダーにいきなり指を差された。

「だいたいレオン、貴方の失言のせいでリーリアの正体がそこの王子にもバレてしまったのですよ? 少しは自分の行動を顧みなさい」

 指を差されたアレストリウスはムッとしてフェルダーを睨みつけたが、それはすぐに恐怖へと変わった。

「・・・何?! ・・・殿下、リーリアの、何を知ったんですか? まさか・・・この前の夜会の時も知っていた、と言わないですよね? あれはクリストファーの策だって聞いたのですが?」

 突如吹き荒れる魔力の嵐の発生源はレオンハルトだった。

 アレストリウスはいつかの夜を思い出し、カタカタと震えだした。

「い、いや、あれはだな・・・」

「あれは? 何ですか? しかも、毎日毎日リーリアに実技授業をしてもらっていると聞きましたが? いったい・・・」

 無表情にアレストリウスを追い詰めていくレオンハルトだったが、言葉途中でふっとんだ。

 ボフンッと音を立ててレオンハルトが少し後方に尻もちをついた。

「リーリア、何をするんだい。痛いじゃないか」

「レオン、それは私のセリフよ。人をぎゅうぎゅう抱きしめて、苦しいじゃない! ・・・しばらく抱きつくの禁止」

 リーリアは怒りもあらわにレオンハルトを見おろす。

 レオンハルトはリーリアの禁止令に、えぇ~っと情けない声をあげているがリーリアは取り合うつもりはなかった。

「アレス様・・・すみません。兄が失礼しました」

 リーリアはアレストリウスに向きなおってペコっと小さく頭を下げる。

「い、いや、気にしてない。・・・それよりも・・・」

「リーリアさん、あちらの話が纏まったようですよ」

 アレストリウスを遮るようにしてフェルダーがリーリアに声をかけてきた。

「え、あ・・・」

 リーリアはアレストリウスを気にしつつ学長の方を見る。

 どうやら起動する役が決まったようだ。

「アレス様、すみませんがまた後で」

「・・・あ、あぁ」

 アレストリウスは若干残念そうに返事をしながらも、歩き去っていくリーリアを見送った。

 仕方なしにアレストリウスもリーリアの後ろをついていく。


 起動役はウォンになったようだ。

 はじめは1番魔力量の少ないジェイツに、となったのだが、魔力の扱いに不安があるというのでウォンになったらしい。

 確かにウォンであれば器用に魔力調整も行えるだろう。

 或る意味適任だ。

 サポート役にはクリストファーが付き、周囲への被害を防ぐためにフェルダーとレオンハルトそしてアレストリウスが当たり、リーリアは聖遺物を抑え込む役だ。

 一応空間魔法で外部とは切り離してから実験を開始することとなり、外部との切断を秘書殿が請け負ってくれるそうだ。

 残りは観察、検証役だ。しっかり見ていることがお仕事となる。

 


 大体の役割が決まり、ウォンを中心に作業の最終確認をしてく。

 発動させる人物が実験の1番の要となる事は間違いないだろう。危険な作業なので彼に対しての最終確認は綿密なものとなる。

「・・・ようは魔道具と同じような感じで発動、派生するんだね。まぁ、使ってみないと何とも言えないけど・・・何とかするよ。最初に何も考えずに発動させたときに大体の力の流れを把握しちゃうから。把握が終わったらその後に圧縮していく。圧縮する前に合図はするね。と、極限まで圧縮できたらまた合図する。もし途中で問題が発生したら取り合えず教えて。何とかしてみる。僕が何ともできなさそうだったり、周囲の状況が限界になった場合は強制的に止めて」

 そう言ってウォンはクリストファーを見た。

「・・・最悪の場合は、理解してますね?」

クリストファーは表情を変えることなく冷静な声で告げる。

彼の言う最悪の場合、の対処はもちろん命の略取だろう。

が、ウォンはその言葉の意味を分かっているはずなのに顔色一つ変えることはなかった。

「ま、君に任せるよ」

そうあっさりと承諾してしまった。

リーリアはあまりの会話に思わず割り込む。

「ウォン! ・・・私が止めるから、変なこと言わないで」

 最悪の場合を考えて行動する必要があることはリーリアにだってわかっていたが、そんな簡単に命を差し出すような会話はしてほしくはなかった。

「・・・まぁ、そうだよね。ごめん」

 ウォンはリーリアを振り返り、苦笑をこぼす。その後ろでクリストファーが若干苦い表情をしていた。

「でもあくまで最悪の場合だから・・・」

「それでも、やめて。最悪の場合? ウォンに何かするくらいなら聖遺物を破壊するから」

そう強く言ってのけるリーリアにはそれだけの力が確かにあった。

が、そう簡単に聖遺物を壊したりするわけにはいかない。そのことはリーリアはもちろんウォンも知っている。

「・・・」

「・・・」


「・・・わかった。何があっても失敗しないから。最悪の場合はナシにしようか」

 ウォンは何かを諦めたようにそう零すと、少し嬉しそうに笑った。そのままチラッと視線を外し、周りを見る。

 リーリアの一挙一動に1部の者が意識を向けているのが分かる。その中で特に隠すことなくリーリアを見ていたレオンハルトと目があった。

 視線で、ウォンに何かを訴えてきているが意味がさっぱり分からない。


(あの人の事だからリーリアのことだろうけど・・・。ま、おそらくこの状況が気にくわないんだろうな・・・。リーリアに気のある奴がいっぱい、しかも厄介者ばっか。・・・気にくわないよね)


自分の事が気に食わなくて見ているとはウォンは思わない。レオンハルトにとって、ウォンは身内の領域に入っている。リーリアに多少近づきすぎたところで怒ることもない。まず間違いなく周囲の厄介者が気にくわないのだ。


ウォンはそんな周囲の視線を感じながらリーリアを引き寄せる。

「ありがとう、心配してくれて。じゃぁ・・・無事に終わるようにおまじないをしてくれる?」

「・・・えぇ?」

「小さい頃はよくしてくれたじゃん」

リーリアは少し嫌そうに顔をしかめたが、仕方ないといった感じでウォンの頬にキスをした。

ウォンはそれに満足そうに笑い返すと、周囲に視線を向けた。

予想通り憎々しげな視線が突き刺さってくる。

もちろんウォンはそんな事は気にしないし、リーリアも気にしてはいなかった。


(これで少しはけん制できたかな?)


 

 そう思いながらウォンはチラッとレオンハルトに目をやる。見ると満足そうにしているレオンハルトと目があった。 



 レオンハルトがウォンによくやったとサインを送っていることに気付いた者はいなかった。

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