side*王子&従者達
第三王子、アレストリウスは現在の自分の状況を把握できずにいた。
詠唱魔法は大魔法の部類に入り、魔力量の少ない者にはまず発動ができない代物だが、アレストリウスの魔力量は宮廷魔術師等と何ら代わりなくあり、今までも問題なく発動できていた。
意味もなく手を握ったり開いたりしてみる。
詠唱中、練り上げられていく魔力は確かに感じていた。
が、詠唱を終了させ、いざ発動! という時に練り上げていた魔力が消え去ったのだ。
暴発でもなく、魔力が消えさった事実に首を捻る。いったい何が起こったのか、さっぱりわからない。
それは側にいた従者2名も同じで、何が起こったのかと周囲を見渡していた。
この2人、第三王子の暴走を止めるために付けられたお目付役なのだが、上手く暴走を止められた試しがない。
なので、今回の学院に編入にあたって、第三王子に着いていくように、との御達しを受けた時は断固として拒否した。自分達で御せる自身はない、と。
だが、他に適当な人物もなく、結局無理矢理に近い形で付き添わされてしまった。
「あぁ、え・・・っと殿下?」
淡い髪色の少年がアレストリウスに恐る恐る声をかける。
考え事に集中しているのか、アレストリウスからは反応がかえってこない。
気付けば周りは閑散としており、恐らく生徒達は授業開始前のHRのために、各々の教室へと入っていったのだろう。
彼等3人は今日が初登校なので、教室に行くのではなく、先ず教員室にいかねばならない。
そのためにある程度余裕を持って登校して来たのだが、先程の騒ぎのせいで時間を喰ってしまい、結局はギリギリの時間となってしまった。
これ以上遅くなれば遅刻となってしまうだろう。
「あのっ、殿下、そ、そろそろ・・・?」
少年がもう一度勇気を振り絞って声を掛ける。
が、やはり反応は返ってこない。
「俺たちだけでも先に行くかー?」
呆れたような声をあげたのは赤毛の男だった。
「え、でも・・・」
「初っ端から遅刻なんて良くないだろ?」
「それはそうだけど・・・でも、殿下も・・・」
「でもも何も、反応がないなら置いて行ってもいいだろ」
もぞもぞと答える少年と赤毛の男は、アレストリウスを横目に立ち話をはじめる。
少年はアレストリウスが気になるようでチラチラ伺う様に見ているが、赤毛の方は面倒くさそうに見ている。
「いや、よくないよね!? 君、一応護衛役でしょ!?」
第三者のツッコミが入り、2人は揃って目をやる。
立っていたのは医者のような白衣を身につけたボサボサ頭の男だった。
「誰?」
至極まっとうな疑問が赤毛から出た。
「いやいや、制服を着てなくて、白衣を着ていたら、ここの講師の誰かだってわかるでしょ?」
「そうか?」
「そうです」
赤毛はそういうものか、と納得し、もう一度ボサボサ頭を見た。
「えーと、なんですか? 何か用?」
赤毛の言葉にボサボサ頭は脱力した。
何か用って、そりゃぁそこの王子様に用があってきたに決まっている。
先程の魔力の急激な増幅は何だったのか、一体何があったのか、何してくれてんだ、とか色々聞きに来たのだ。
先程は、すわ、侵入者か! と講師陣も焦ったが、現場付近を確認すれば・・・
例の第三王子御一行。
何しているんだ、と呆然となり対処が遅れたが、彼女が上手く魔力を無効化させてくれたので、まぁ良しとした。
「先程のことを聞きに来ましたが、もうすぐHRも始まります。初日から遅刻はいけないでしょう。
・・・案内しますので、着いて来てください」
脱力感に襲われながらボサボサ頭は3人を促す。
が、アレストリウスが相も変わらず、無反応だ。
アレストリウスはぐぐぐっと手を握りしめて下を向いていた。
ここで上を見上げて辺りを見渡したりでもしていればリーリアと目があったかもしれない。
今、彼の頭の中は何故術が発動しなかったか、ということより、発動しなかった事により恥をかいたことに対する怒りが募っていた。
詠唱は確かで、問題などなかったはずだ。
つまり、誰かが邪魔をしたのだ。
自分に恥をかかせるために。
アレストリウスの結論は、短絡的かつ自己中心的すぎて若干ずれていたが、それによって彼の怒りは頂点まで達していた。
・・・残念ながら、彼の怒りの頂点はすぐに達することができる程低いのだが・・・。
そんな怒りを感じて少年はフルフルと震えながら第三王子を伺う。
「で、殿下。き、教室へと、参りましょう」
アレストリウスはそれを睨みつけて黙らせる。
「殿下ぁ、何怒ってるんっすか?」
赤毛の軽い口調に、やはり睨みつける。
「・・・殿下、王族のしかも直系筋ともあろう方が遅刻は良くないと思うのですが?」
見兼ねたボサボサ頭が溜息交じりにアレストリウスを諭す。
これにはアレストリウスもハッとなり、顔をあげた。
ボサボサ頭はもう一度深く溜息をつくと、アレストリウスを促して歩き出した。
前途多難ですね。