第三王子登場!
ーーー1週間後ーーー
兄達からことの次第を聞いてから1週間。
今日より第三王子アレストリウスが学院に編入してくることとなっている。
さて、ラウール魔法学院は少しばかり特殊環境にある。
どこの国にも属さず、どこの国にも肩入れせず、ただただ研究と勉学を身につけるための場として存在している、いわば独立機関だ。
そんな学院内は、本来の身分の上下にかかわらず、生徒は皆平等とされている。
これは権力者の子息、令嬢がその権力を使用して平民に無体な真似をさせないためでもある。
なので、この学院内にいる限り、王族といえど他者と同様に扱われることとなる。
といっても、明らかに貴族然としているものに対して無礼をわざわざ振る舞うような者はいない。
そして、その学則を知っているため貴族等も多少の無礼は見逃すようにしていた。
なのに、なのに・・・だ。
あの男は何をしているのかっ!
怒りに震えながらも、校舎3階の渡り廊下から門前の騒ぎを見守る。
リーリアが兄達から話を聞いた次の日から、学院内では第三王子の編入の話題で持ちきりだった。
王家も通うことができる厳重警備のなされた学院とはいえ、実際に通う者は少なく、いたとしても傍系の者ばかりだった。
アレストリウスは第三とはいえ、れっきとした直系男児だった。
注目されるのも仕方のない話だろう。
その注目の第三王子は、編入初日、初登校真っ最中、学院の門を潜ってすぐのところで騒ぎを起こしていた。
噂の第三王子だということで、多くの生徒が遠巻きに注視している。
裏門から通せば良かったのに・・・と思ったが時は巻き戻らない。
学園側の配慮不足を嘆きつつも、登校初日の初っぱなから問題をおこすとは想像もつかなかったのだろう、とため息をかみ殺す。
目線の先では未だに大声を張り上げて威張りくさっている第三王子の姿があった。
内容はとってもくだらないものだ。・・・彼の前を横切った生徒がいた、それだけだ。
横切った、ただそれだけ。
それを呼び止めて、不敬だのなんだの騒いでいるのだ。
どうしたものかと、思案する。
一応、長兄エドワードを通した王宮からの命令で、第三王子が馬鹿なことをしでかさないように見張っているように言われてはいた。何かあれば実力行使も許可されている。
ちなみに、当然断ったが、押し負けた。
基本的に第三王子の侍従、騎士が付き添っているらしいが、魔力を使った横暴は彼らでは手に負えないらしい。
その辺だけでもどうにかして欲しい、というお願いだ。
それでも、いつそんな暴挙に出るかわからないっていうことは基本見張っていなきゃいけないって事で、リーリアとしては面倒としかいえなかった。
とりあえず今のところは侍従&騎士が上手く宥めようとしている。
魔力を使わない限り手を出す気はないので、手すりに体をもたせかけながら様子を見守る。
「あぁ、面倒くさい」
「何がー?」
リーリアの背にずっしりと重みが乗っかってきた。
「ウォン、重い」
「何それ。ひっどいなぁ。君と僕じゃそんな体格かわんないでしょ。」
ブスッとした顔でむくれながらウォンが背から離れる。
そのまま同じように手すりに手をかけ、視線を門前の騒ぎへとやった。
「何、もう騒ぎ起こしてるの? 本当に馬鹿なんだね」
幼馴染の言葉に同意する。
通常ならば否定なりして嗜めるべきなのだが、そんな気もおこらない。
「アホくさ・・・。リーリアも大変だねー」
「思ってもないこと口にしないでくれる?」
ウォンは明らかに面白がっている、という顔をしていた。
人ごとだと思って、揶揄う気満々の顔だ。
「はは、そんな睨まないでよ。あ、・・・」
「え・・・?」
ウォンが口を開けたまま、某然といった表情になり、つられてそちらに視線を戻す。
と、ぶわっとした感覚と共に魔力の広がりを感じた。
「・・・馬鹿が、やりやがった」
「・・・やったわね」
2人揃って肩を落とす。
「・・・リーリア」
「わかってる」
ウォンが目だけ動かしてリーリアを見る。
リーリアは項垂れながらも、手に杖を呼び出した。
杖を両手で持ち、横に構えて第三王子の構築する魔術を解析して行く。
大魔法と言われる詠唱魔法を発動させようとしているようだ。
おそらく爆炎系。
そこまで解析して、広がって行く魔法効果範囲を限定させるために、第三王子の魔力を閉じ込めるための術式を構築する。
同時進行で周囲に被害が及ばないように防護壁を張り巡らせる。
第三王子の魔力を圧縮させることに成功すると、そのまま魔力を無効化してしまう。
リーリアがここまで終わらせた直後に第三王子の詠唱魔法が完成した。
この間約5秒。
が、詠唱によって練り上げられたはずの魔力はリーリアによって無効化されていたため、ポンっと可愛らしい音と共にもくもくと1本筋の煙が上がるだけだった。
「よっ、おみごと」
リーリアの隣でウォンが楽しげに拍手を送っている。
「・・・」
「怒ってる?」
リーリアがじとっとウォンを睨みつけると、ウォンは小首を傾げて上目遣いでリーリアを見た。
仕草は可愛らしいが、目が面白がっている。
「怒ってない」
人の不幸を喜んでいるウォンにリーリアは益々苛つきを膨らませたが、すべての原因があの王子にある、と思い改め、下にいる人物を睨みつける。
朝っぱらからこんな事をしでかすようでは先が思いやられるばかりだ。平穏な学院生活が崩れ去っていくのが目に見えるようではないか。
リーリアは深くため息をついた。
下では魔法が上手く発動しなかった第三王子が首をひねっていたが、周囲は安堵の息を漏らしていた。(主に従者&騎士)
騒ぎを野次馬していた生徒たちも、無闇矢鱈に大魔法を発動させた王子に警戒してか、はたまた興味が失せたのか、始業時間が近いためか、まばらに解散していった。
引きとめられ訳のわからないまま、怒鳴りつけられていた生徒もいつの間にかいなくなっている。
リーリアはもう一度ため息を漏らすと、残った第三王子一向を見た。
何でもいいからさっさと教員室へいけ。
遅刻だぞ?
それに講師陣は何をしている!
あの多大な魔力放出は感知できただろう!?
あぁ、前途多難だ。