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さらば静かな学園生活!?

 自室に帰ると私専属侍女であるケリーが出迎えた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「着替えるわ」

「準備できてございます」

 いつもの光景にいつもの対応。

 学園生活3年目にもなれば、色々と慣れたものだ。


 まず始めにケリーに連れられて湯浴みをする。

 そこで化粧を落とし、髪についた三つ編みグセを落とす。

 これだけでもだいぶスッキリだ。

 印象操作魔法も解除。

 印象操作と言っても弱いものなので、覚えようと思えば覚えられるし、見ようと思えば見える。ただ、気にしなければ目にはつかないし、覚えようと思わなければ記憶に残らない。言うなれば通りすがりの誰か、みたいな感じだ。

 ケリーが用意していた華美すぎない服一式を着込み、髪を整えれば侯爵令嬢の出来上がりだ。化粧は必要ない。


「・・・ふぅ」

 鏡の前に現れた本来の自分を見て小さく息をつく。

 どちらが変装なのかといえば、もちろん学院での姿だが、起きている時間の多くを学園で過ごしているため境が曖昧になってきそうだ。

 何故変装して学院に通っているのかといえば、一つは兄、レオンハルトによる強固な指示。

 危ないだの何だの言って変装させられた。

 私としても変装して、家名を明かさず入学したことにより、面倒で仕方が無いが必須とも言える貴族同士の付き合いに巻き込まれなくて済んだので、ここはレオンハルトに感謝しておく。

「お嬢様?」

 鏡の前でぼうっとしていたせいだろう、ケリーが声をかけてきた。

「何でもないわ」

 そう言いおいて、さっさと立ち上がる。

 あまり兄達を待たせるのも良くない。

 3人揃って話すなど、学院に編入する時以来だ。一体なんの話かはわからないが、いい予感はしない。

 リーリアはケリーをおいて部屋をあとにした。





 侯爵家の名に恥じぬ様に、品の良い高級アンティーク品で整えられている居間は母のお気に入りだ。若干可愛らしさが溢れているが、まぁ許容範囲内であろう。

「お兄様方、お待たせいたしました」

 室内に入れば、レオンハルトと長兄のエドワードがソファに座っていた。

 テーブルを挟み向かい合って座ってはいたが、それぞれ仕事をしていたようで、テーブルには書類の束が積まれていた。

「お待たせしてしまったようで、すみません」

 こんなことでいちいち目くじら立てる程兄達は心は狭くないはずだが、一応謝罪はしておく。


「あぁ、リーリア、気にしなくていいんだよ。やっぱり本来の君は数段可愛さが増すね」

 レオンハルトがソファから立ち上がり、両手を広げてよってくる。

「レオン、寄ってこなくてもいいから」

 寄ってくるレオンハルトにリーリアは両手を突き出して行動を制して、ジリジリと攻防戦を繰り広げる。

 ニコニコ笑顔から悲しそうな表情に変わったが、同情はしない。

 無視だ。

 ここで絆されれば後が大変なことになる。


「レオン、座りなさい。リーリア、こちらにおいで」

 攻防戦を繰り広げていると、見兼ねたのかエドワードが声をかけてきた。

 エドワードも王子様然とした美々しい容姿に金髪碧眼だが、髪の長さはレオンハルトと違って短い。

 もちろん所構わず妹愛を向けてくるような性格破綻者でもない。


 エドワードに諭されレオンハルトが大人しく座ると、リーリアも空いているソファに座る。

 右にレオンハルト、左にエドワードがいる状態だ。

「わざわざ帰ってきてもらったみたいで、すまなかったね」

 リーリアが座るのを確認すると、エドワードが口を開いた。

「いえ、何か大事なお話があるのでしょう? 授業は全て終わっていましたし、予定も特にありませんでしたから、気になさらないで下さい」

「ありがとう」

 エドワードが優しげに微笑めば、あたりが温かくなった様な気がした。


 この長兄は本当に良くできた人物で、まだ24という若さなのに騎士の中でも精鋭部隊から形成される近衛騎士の副団長を務めている。

 将来有望、家柄良し、顔良し、性格も良し、しかも腕も立つ、ときているのに何故か婚約者や浮いた話の一つもない。仕事が忙しいというのが1番の原因だろう。


「それで、お話とは?」

 リーリアが先を促すと、エドワードは少し言い淀んだ。

「うん・・・それがね・・・」

「?」

 エドワードは口を開くのをためらっているようだった。


 そんなに話しづらいことなのだろうか?

 まさか・・・まさかの婚約の話とか?

 とうとういい人を見つけた?

 もしくは私かレオンハルトの婚約話?

 レオンハルトはない。

 私か?

 私ならばレオンハルトが黙ってはいないだろう。


 つらつらと1人考えにふけっていると、エドワードが決心したように口を開いた。

「第三王子が、ラウール魔法学院高等部に編入されることになったんだ」

 決心して話してくれたのはいいが、リーリアには何のことだかピンとこなかった。

 第三王子の単語に当てはまる情報を引き出す。


 アレストリウス殿下?

 御歳16歳で同い年だったかしら?

 王族でありながら、あまり社交の場には出ていらっしゃらない上に、公の場にも姿をお見せにならないから人物像はさっぱりわからない。良い評判は聞かないが逆に特に問題となるような噂も聞かない。

 編入の何が問題なのかわからなくて首を傾げる。

 学院の方も特に問題ないはずだ。

 ラウール魔法学院は学びの真髄を極めるために創られた学院だ。学ぶ意思があるのなら、貴族はもちろん王族も平民も分け隔てなく受け入れる。

 学院内の警備はかなり厳重になっており、無関係のものが入り込むのはかなり難しいだろう。

 何せ『世界一の魔法学院』なのだ。

 そう易々と侵入はできない。


「兄上、それだけじゃリーリアには伝わらないですよ」

 レオンハルトがやや溜息交じりで話し出す。

「あれの情報は王宮の中でもかなり制限してあったはずです。社交界の噂にも登らない人物像をリーリアが知るはずないでしょう」

「それもそうだな・・・」

レオンのみならず、エドワードまでもため息をついた。


 あれ、とは第三王子の事だろうか。

 一応王子殿下なのにあれ呼ばわりはいいのだろうか。

 確かにリーリアはアレストリウス殿下の人物像なんて全く知らないが、情報制限がかかっていたとは、さらに知らなかった。

 いや、知りたくなかった。

 あえて知らされていないことを知らされるということは、何かに巻き込まれるということだ。


「・・・リーリア、本当に申し訳ない」

 申し訳なさそうにエドワードが眉根を寄せる。


 何で謝るのだろう。

 謝るような人物像なんて聞きたくない。


 もしかして、地味で平穏な学院生活終了の危機ですか?


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