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研究棟ではご注意ください。

 研究棟―学院で講師を勤めるものたちが各自部屋を持ち、各々の研究を日々繰り広げている棟―は、時に爆発を起こし、時に暴風を巻き起こし、時に濁流に呑まれ、・・・日々破壊されては直されてを繰り返している。

 生徒等は基本的に授業や用事がない限りこの棟には近づかない。

 何故ならもちろん、命を無駄にしたくないからだ。


 リーリアはそんな生徒等の中にあって、よく研究棟に足繁く通う珍しい生徒だ。

 まぁ、研究棟の1室から登下校している身なので毎日行き来するのは必然だ。

 それ以外でも、各講師の研究に興味を示し、よく世話になっている。


 今日はそんなかの1人、古代魔法の探求に勤しんでいる老講師の元へと向かっていた。

 1月ほど前に新しい遺跡が発掘されたとかで旅立ち、今日ようやく帰ってきたのだ。

 遺跡の話はもちろん、新しい何かはあったか等聞きたいことは山ほどあった。

 そんなリーリアの心は浮かれていた。

 第三王子も大人しくしていたため、昨日のストレスもあり自由だという開放感もあった。

 そして、油断していた。


 それが、命取りなこの研究棟。


 ズドォォォォンッ!!!!!!!!!


 爆音が響くと共に扉が吹き飛び、運悪く扉横を歩いていたリーリアは見事吹き飛ばされた。

 打ちつけたであろう頭が痛い。

 背中も痛い。

 顔面は庇ったから大丈夫。

 手と足は、動く。

 爆風に煽られて吹き飛ばされただけの様だ。どこも焦げてはいない。

 リーリアは自分の体の状態を確認して、クラクラする頭を押さえる。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 悲壮な叫び声が室内から聞こえてきた。

「せ、せっかくの、せっかく・・・」

 もくもく上がる煙の向こうには打ちしだかれている人影が見える。

 困ったことに、爆発によって周囲は大丈夫か?と考える様子は微塵もない。

 そして、周囲の研究室から様子を見に出てくる者もいない。


 1人で立てそうもないリーリアは、どうしたものか、と悩んだ。

 少し休めば歩けるくらいになるだろう。

 仕方なしにそのままの体制で状態回復を待つことにした。

「リーリアさん?!」

 と、諦めかけていたら天の助け・・・もとい、ボサボサの助けがきた。

 横に目をやれば駆け寄ってくるボサボサ頭の姿が目に見えた。

「大丈夫ですか?! 怪我は?!」

 リーリアのすぐ横に膝をつき、ボサボサ頭は状態を確認してくる。

「頭と背中を打った程度です。しばらくすれば回復しますが、今は動けません」

 わたわたと慌てるボサボサ頭に対してリーリアは冷静だった。

「そんなっ、頭から血が出てますよ! しばらくすれば回復って、そんな事あるわけないでしょう!」


 いや、そんなわけがあるんですが・・・


 リーリアは内心ツッコミをいれる。

「とりあえず、移動しましょう。・・・ここは危険です」

 ボサボサ頭は研究室を横目で見ていた。

 リーリアもつられて室内を見る。

 小さな光が徐々に大きくなっていく様が見えた。

「げっ・・・」

 思わず上げた声は女子ならからぬもにだったが、かまうことはない。

 リーリアは防御壁で周囲を囲う。

 刹那、光が拡大し、辺りに再び爆風が駆け巡る。

 今度は防御壁を張っていたのでしっかりと回避できた。

「うわぁ・・・悲惨ですね。・・・間違いなく学長に叱られますよ」

 ボサボサ頭は中の惨状と、廊下の惨状を見て、顔をヒクつかせた。

「さ、今の内に逃げましょう!」

 そう言ってボサボサ頭はリーリアを抱え上げた。

 お姫様抱っこである。

 色々言いたかったが、リーリアは大人しく従い、体の安定を図るためボサボサ頭の首に手を回す。

 それに頬を赤らめたボサボサ頭に、お前が抱き上げたんだろ、とは言わないでおいた。

 そそくさとその場を退散するボサボサ頭は見た目細くてヒョロっとして見えたのだが、意外にも体力があるようだ。


 そのままその場を後にし、研究室の一室へ。

 連れてこられたのはボサボサ頭の研究室、に連なる仮眠室で、リーリアはそこのベッドに下ろされた。

「僕、では不安ですね・・・。治癒術師を呼んできます」

 言われて、リーリアは慌てて白衣の裾をつかんでそれを引き止める。

「大丈夫です。もう殆んど治りました」

「何を言ってるんですか?! そんな簡単に治るものじゃ・・・」

「先生」

 ボサボサ頭の言葉を切ってリーリアは体を起こしながら言う。

「私を誰だと思っているんです?」


 おそらくもう血は止まっている。

傷口も塞がっているかもしれない。

背中の痛みもひいた。

驚くべき回復力、リーリアはそれにもう慣れていた。


 ボサボサ頭は面喰らったように驚いていた。しばらく固まった後、やっと口を開いた。

「魔力量の多い者にみられる、自己治癒能力の向上によるもの・・・ですか?」

 リーリアは頷く。

「私の場合、魔力量がかなり多いためか自己治癒能力がかなり向上しています」

「それは・・・どれくらい?」

「かすり傷なんてついた事もわからない内に治り、深い傷もすぐに血が止まります。骨や内臓に直接異常があるとやや時間がかかりますが、それでも1日もしないうちに治るでしょう」

 ボサボサ頭は驚きに目を見開いた。

「・・・!!!!」


 普通の人はここで1歩引いてしまう様な事実だ。

化け物だと、そう言われたこともあるリーリアは次にかけられる言葉に覚悟した。


「す、素晴らしいっ!!!」


 覚悟した、が、こう返されるかも、とも思っていたが・・・ここはやはり、流石ラウール魔法学院講師というべきか・・・

 リーリアは興奮し切っているボサボサ頭を見て笑った。

「先生はやはり流石ラウール魔法学院の講師ですね。」

「それは・・・どういう意味でしょう?」

 喜びも束の間、ボサボサ頭は微妙な顔をした。


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