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地味で目立たない学園生活を望みます。

 冴えないビン底眼鏡。


 頬にはそばかす。


 長く伸ばした髪は2つに分けて三つ編みに。


 制服は学校の規定通り。


 どこからどう見ても、オシャレとは無縁の地味な姿。

 カビが生えてそうな姿は、人を少し遠ざける。


 だが、それでいい。


 私の願いはただ一つ。


 この世界屈指と言われるラウール魔法学院にてありとあらゆる魔法知識を身につけること!


 知識を求めることこそ人類の人類たる所以。

 知的好奇心に勝るものはない。




 この学院には上流階級の子息令嬢も多々いるが、はっきり言って関わりたくはない。

 彼等といると、勉学よりも金だの権力だの、オシャレだの恋だのと無駄な時間を過ごす羽目になる。


 …つまりどういうことか、というと今目の前にいる人物達が邪魔だということだ。



「ちょっと聞いていらっしゃるの?!」


 思考を遮るような金切り声に眉をしかめる。

 俯いていたから相手には表情の変化は読み取られなかっただろう。

「シュマリア様がお茶会にとわざわざお誘い下さっているのよ」

「もちろんいらっしゃるわよね」

 目の前に立ち塞がる女生徒が口々に声を発する。

 どうやら貴族の取り巻きの様だ。

 いきなり現れて人を取り囲むから何事かと思えば、全くもって理解できない言葉の数々だ。

 無視をして突き進むか、断りをいれるか、嫌味ったらしく金輪際参加する気がないことを匂わせるか、思案する。

 参加しないことは決定事項だ。

 口を開けば負けのような気もしたので無視をして突き進むことにしようとした時、立ち塞がる女生徒達のさらに後ろから声がかけられた。


「リーリア」


 目の前の女生徒達がきゃぁきゃぁと黄色い声援をあげて、声の主を振り返る。

 そんな女生徒達に生暖かい目を向けつつ、声の主を見やる。


「ウォン」


 顔をあげると見目麗しい幼馴染、もとい、悪友の姿が目に入った。

 ウォンが歩を進めれば人垣が割れた。

 ウォンに見惚れながらもこちらにチラチラと痛い視線を送ってくる女生徒達を哀れに思う。


 知らないとは、幸せなことだ。


 少し長めの薄茶の髪に、小動物を思わせるクリッとした大きな同色の瞳。背はまぁ高くはないが、それも含めて可愛らしい美少年っぷりだ。

 だが、母性本能をくすぐる見た目に反して、その中身がドス黒いなんて、彼女達には想像もつかないだろう。


「リーリア」

 視線をものともせずに、ウォンは私の手をとった。

 さらに痛い視線を受けることになった私はウォンに抗議の目をやる。

 視線が合うこと一瞬。愉快そうな感情を瞳の奥に見てイラっとする。

 ウォンは周りの女生徒達を見渡し、若干上目遣いで彼女たちを見た。

「ごめんね。リーリアを探してきてくれって魔法学の教授が言うから、彼女借りていくね」

 女生徒達は一斉に頬を染めて何度も頷いている。


 ・・・騙されている。


「それと、リーリアは色々と忙しい身なんだよね。わかる?」

「わ、わかります」

「優秀でいらっしゃるもの」

「先生方の研究に協力されているとか」

 口々に答える女生徒達にため息をつきたくなった。


 知っていたのに引き止めたのか。


「じゃぁ、お茶会だっけ? 参加できないってこともわかるよね?」

 ウォンは首を少し傾げてみせる。

 その姿は本当に小動物の様に可愛らしく、性格を知っている私でさえ可愛く見えてしまう。

「は、はい」

 そこでウォンはにっこりと笑った。

 一様に頬を染める女生徒達に反して、私は背筋に悪寒が走った。

「なら、もう彼女に声をかけたりしないでね」

「は、はい」

 ここまで言われても彼女達は頬を染めたまま、嬉しそうに頷いている。

 ウォンが言ったのでなければ、ただの侮辱、嫌味だというのに・・・洗脳されているのではないかと疑いたくなる。

 返事を聞くか聞かないかのうちにウォンは私の手を引っ張って女生徒達の間を抜けてスタスタとその場を歩き去った。





「まったく、何だってあんな馬鹿達に捕まってるかなぁ」


 人っ気の少ない教授等の研究室が立ち並ぶ研究棟まで来ると、ウォンのお小言が始まった。

 聞き慣れている私は左から右へとそれを聞き流す。

「だいたい、行動には気をつけるように前から言ってるでしょ? 油断しすぎなんじゃないの?」


 別に油断はしていない。

 が、校内で警戒しっぱなしというのもおかしな話だ。


「たしかに見た目は地味だし、印象魔法で印象操作してるから、目立つことは少ないよ? でもねぇ、この学院の者だったら君の名前は絶対知ってるってくらい君は有名なんだよ?」


 まぁ、当然だろう。

 超、がつくほど優秀な私だ。


 何せ14歳で学院に編入学し、他の人よりもやや遅れてスタートしたにもかかわらず、座学に関しては飛び級を重ねて2年で大学部だ。今現在は様々な研究論文に携わり、魔法に関する知識をより深めているところだ。

 実技面も充実の極みを見せており、はっきり言って飛び抜けていた。


「レオンハルト様も100年に1度の逸材ってことで有名だったけど君はさらに上をいっちゃったんだから。学院内でだって何があるか・・・っと」

 目的地を通り過ぎかけてウォンは慌てて足を止めた。

 立ち止まった扉には、不在の札がかかっていたが御構い無しに扉をあける。

 ウォンに引っ張られてリーリアも馴染みの部屋に入り、後ろ手で扉を閉めた。

「・・・ここに来るって事は何か用でもあった?」

 まさか本当に魔法学の教授が探していたとは思ってはいなかったが、引っ張ってきたからには用事があったのだろう。

 ウォンはリーリアを振り返るとくるくると指を回す。その先からポンッと現れた杖をキャッチすると、こちらを見た。

「レオンハルト様が帰って来いって」

「レオンが?」

 嫌そうに眉をしかめると、ウォンがクスクスと笑う。

「レオンハルト様も可哀想だよねぇ。愛しくて愛しくて仕方ない妹にここまで嫌われてるなんて」

 その言葉にリーリアはますます眉間にシワを寄せる。

 あの兄のいき過ぎた愛情には、はっきり言って辟易しているのだ。

 金も地位もあり、見た目も良しときた男。多少の性格難があっても婿にと普通なら誰もが思うはずだ。

 なのに、レオンハルトときたら何処へ行こうとも妹自慢。何かとする話は妹について。妹がいればベッタリひっつき、そのシスコンっぷりを遺憾無く発揮させ、今までに婚約の話がでることはおろか、恋人ができた試しもない。

 その妹に当てはまるリーリアからすればいい迷惑だった。

「今回はまともな要件だと思うよ。エドワード様もお話があるって言ってたし」

「エドワードお兄様も?」

 もう一人のまともな兄の名前を出されてリーリアはさらに首をかしげた。

 学院に行くこと自体反対していたレオンハルトは、入学当初から用もないのに何かと呼び出してイライラさせてくれたが、エドワードは学院に行くことを賛成してくれていたし、まして邪魔をするようなことはもちろんなかった。

「もう今日の授業は一通り終わったでしょう?お二人共もうお屋敷に帰ってるから、リーリアも今日は戻って」

 確かに今日の授業はすでに終了しているし、予定も特になかったので図書館にでも寄ろうかと思っていたくらいだ。早く帰っても問題はない。

「わかった。送ってくれるんでしょ?」

「・・・君の方が魔力量多いんだけど?」

「杖まで出したんだからやってよ」

 非難がましくみてくるウォンに取り合うことなくお願いする。

 長い付き合いであるリーリアには上目遣い作戦は通用しないのだ。

 ウォンは諦めたようにため息をつくと、杖で上空に円を描いた。描いた円が複雑な模様を伴って発光すると、次の瞬間に周囲の景色は変わった。





 見慣れた玄関ホールに出ると、執事長が出迎える。

「お帰りなさいませ」

 スッと頭を下げたままの老齢の執事に兄達の居場所を聞くと、2人ともそれぞれの居室にいるようだ。

「話があると聞いて帰ってきたのだけど・・・」

 と、そこまで言って、嫌な予感がして振り返った。

 玄関ホールの両脇に伸びる階段の一方から強い視線を感じ、それを追っていけばレオンハルトがいた。


「リーリア!!」


 長く腰まで伸びる金髪を首元で緩く結わえ、優雅に階段をおりる姿はとても美々しいが、その潤んだ熱い視線をやめてほしい。

 ついでにこれ以上口も開かないで欲しい。

「あぁ、リーリア! 今日も無事に帰ってきてくれて良かった。何もなかったかい? いじめられたりしなかった?」

 そんな心の願いが叶うことはなく、両手を広げて近づいてくるレオンハルトに、リーリアは1歩2歩と後退する。

 横で笑を堪えているウォンを殴り飛ばしたい。

「レオン、止まって」

 顔が引きつるのがわかる。

「抱きつかなくて結構」

 両手を前に突き出し接触を拒む。

 久々の再開や別れの抱擁、挨拶程度の軽い抱擁くらいだったらリーリアも付き合うし、理解を示そう。

 が、レオンハルトのそれはぎゅうぎゅうと抱き締めて離さず、終いにはキスの嵐までふってくる愛情表現過多なものだ。

 リーリアの態度に目に見えて落ち込むレオンハルトには悪いが、キッパリと拒否しておかないと大変な目に遭う。

「それで、話って何?」

 目の前で立ち止まったレオンハルトを見上げる。

「・・・あぁ」

 金髪碧眼、見るからに王子様な見た目の男はしばらく考えて相槌をうった。


 今の間はなんだろう。

 忘れていたのか?


「とりあえず着替えておいで。制服姿も好きだけど、いつもの可愛いリーリアに会いたい」

 そう言って油断していたリーリアの頬にレオンハルトは軽くキスをした。

「・・・っレオン!」

「抱きついてないよ」

 非難の声をあげれば、サラリとそんなことをのたまった。

「・・・っ」

 何か言ってやろうと、思ったが頬にキス一つだ。

 レオンハルトにしては大人しいほうだと思い直し、その横を通り過ぎる。

「着替えてきます」

「うん。支度ができたら居間においで。エドワードと一緒に待ってるから」

 その声を後ろに聞きながら、階段を登った。


 兄二人からわざわざ話など、やはり何か大事な用事なのだろうか。

 僅かに浮かぶ不安に首を傾げながらも自室へと急いだ。

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