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第一章 6[アルバイト失格?×現実逃避 改]

 私は知らなかった。

 数年生きてきた中で、今日は最悪な年だと。

 真面目に生きている人は損をするんだろう。

 意地悪な、要領のいい人ばかりが得をする世界なのだろうか。



 ギシギシとなる音。

 床の木は光沢がなくなり、壁は黄ばみ、窓は割られている。 

 古びた校舎は五十年ほどの年月を経っていた。

 現在では格納庫として使われている。

 光が射さない、人気のなさはどこか不気味さを醸し出していた。

 以前に、上級生の間で幽霊をみたと小耳に挟んだことがある。ここではだいぶ昔、屋上から自殺した人がいるらしい。その幽霊が今でも彷徨っているのではないかと取り沙汰されていた。

 まさか、幽霊なんているはずがない。

 幽霊を見たことがないし、そもそも心霊現象などという非科学的なものは信じない。

 私はそこへ彼女たちに無理やり連れられてきた。手と椅子はロープで縛られ、固定されている。逃げ出そうとも思っても、できない。

「お金貸してくんない?貸してくれたらあの件、チャラにしてやるよ」

 彼女たちの要求は仲間に入れて欲しければお金を出せと交換条件であった。換言すれば、お金を渡さなければ、仲間に入れてやらないということである。

 ここで現金を渡せば相手の罠にかかるし、彼女たちがお金を返すとは到底思えない。

「お金は貸せない・・・よ」

 と私ははっきりと断った。

 私の拒否する態度に紗希は恐怖をあおる発言をした。

「ちぇっ、自殺に見せかけてこいつ殺すか」

「それ犯罪よ」

「そのやり方は賢くないですよ~。今は指紋鑑定でバレちゃいますよ」

 こ、殺す?!!

 私が一体何をしたって言うの?

 し・・・死にたくない・・・ 

「紗希、あと先考えずに行動するの改めた方がいいわよ」

「もっと頭を使わなきゃですよ」

 未樹は頭を指しながら言った。

「あんたらと違って頭を使うのは嫌いなんだよ。何でこいつのために頭使わなきゃならないんだよ」

「そうね・・・それも一理あるわ」

「えぇ、納得しちゃうんですかっ」

 何が何でも彼女たちの言うとおりしてはいけない。だが、ここから逃げる為の手段もない。私一人で、相手は三人どう考えても不利である。抵抗すれば、何をされるかわからない。

 そこで私が考えた手段は―――――和解。

「ごめん。いろいろ迷惑かけてごめん・・・、ごめん」

 苦い思いで言った。

 この場を逃れるためには謝るしかないのだ。

 本当は言いたいことが山ほどある。

 何で責められなきゃいけないのか。

 私が何をしたって言うの。

 そんなに気に食わないなら、無視すればいいじゃん。

 うざい、うざいっ

 心の中は不満の塊で溢れていた。

「もうおっせぇーんだよ」

「私たちの奴隷になってくれたら許してあげてもいいけど?」

「私、もう教室戻りますね。あ、これ拾ったので渡しておきますね」

 紙きれを亜季に預けて行ってしまった。

 未樹が行ってしまったところでこの最悪な状況には変わりがない。

 あぁ、こんなことなら武道でも習っておくべきだったかな。

 

 

「もう一発殴っておくか。気が治まらねぇ」

 殴る態勢をして私を睨んでいる。

「その必要はないわ」

「策でもあんのかよ」

 紙きれを見た瞬間、亜季の口元が余裕の笑いを見せた。  

 な、なにっ・・・何なの。


 数分後、財布から五千円を抜き取って去って行った。

 あれさえなければ・・・ 

 どっちにしても最悪な方向は免れなかったけど、こんな結果に終わるのは自分自身のせいだからである。あれは、私が授業中に書いた愚痴のようなもの。それを運悪く、未樹が拾い彼女らの手に渡ってしまったのだ。

 もし私たちの言うことが聞けなければ、学校中にチラシとしてばら撒くと脅した。恐怖のあまり何も言えなくなり、ただ彼女たちの指示に従うことしかできなかった。



 目から涙がこぼれ、嗚咽おえつする声がもれる。

 こんなことなら言いたいことをいって、殴られた方がマシだ。どうして私だけこんな目に遭わなきゃいけないの。神様は頑張っている人に手を差し伸べるというけど、そんなの嘘だ。

 私はこんな友達がほしかったんじゃない。

 一緒に笑える、本音を言えて、自然体でいられる、信頼し合える友達が欲しかっただけなのに。

 

  病院に行った時の彼の顔を思いだした。自然体に話せている彼の姿は眩しくて。笑顔で接しられる彼の表情が、羨ましかった。私にはないものを持っているような気がしたんだ。でも、病院きて分かった。私と彼は正反対の位置にいるってことが。


 

 その日の夜。

 散らかっている部屋の中、私はパソコンの画面を凝視していた。

 好物なさきいかをくわえて、お行儀悪そうにしている。更にパソコン以外の電気は消されている為、非常に目が悪くなりやすい環境。そんなことにも目もくれず、キーボードを打っている。

 私なんか生きている意味ない。

 ネットの世界なら楽なのに、どうしてこう現実は上手くいかないんだろう。

 いっそうのことネットが本当の世界だったらいいのになぁ。

 あ、誰か入室してきた。  

[現実逃避さん二人目  茜さんが入室しました]

 このゲームの製作者は自由すぎるくらい自由すぎる。

『また儲かっちゃいましたー、人が増えるたびに儲かるんですよね』と反感を食らうようなことを平気で言う。それでも人が絶えないのは、現実世界より居心地かいいか行くあてがないかである。

 入室してきたのは、うさぎの着ぐるみのかわいらしいアバターである。 

 うわぁぁ、かわいいな~

『こんばんは、初めまして^^』

 入室時と同時に、軽く挨拶をした。

『お初です~、茜です。よろしくね』

 名前や見た目の姿からどうやら女性のよう。

 いや、待って。女のふりをしている男の可能性だってある。アイテムがかわいらしくても、アバターが女であっても、ネットの世界はいくらでも偽造することはできる。

『キミ、男?』

 ぴょんぴょん動きながら質問してきた。

『そうですよ~^^』

 そう私のアバターは男。

 ネットはいい人ばかりじゃない。出会い目的や中には変態に分類される人もいる。顔が見えない分、危険要素が多くある。だから、あえて男にしたのだ。

『てっきり女かと思った!^^←真似してみた』

『どうしてですか?^^』

『え~何となくかなぁ?』

 どうせ別に深く関わるわけでもない。電源を切れば、そこで関係なんて終わり。たとえ仲良くなったとしても、長くは続かない。いつまで続く関係なんてない。

 現実だってうまくいかないのに、ネットの世界なら尚更うまくいくはずがない。

 こんな寂しい考え方しかできない。

 私はきっと淋しいんだ・・・

 人間は一人になっても、誰かを求めてしまうもの。

 自分らしくいられる場所がほしい。自然体で付き合える友達がほしい。


 いつの間にか部屋の中には光が射し込んでいた。

「あぁ、もう朝か」

 退屈や嫌なことは時間が長く感じるのに、好きなことは時間を忘れて流れていく。

「ハム起きろー、飯だ!」

 隣の部屋から聞こえてくる言葉を無視して、私は布団にもぐりこんだ。

 


 昼間の三時に起きてから、私はバイトに出かけた。 

「今日は随分と早いね~、気合い入ってるじゃないか。あとはよろしくね」

 だが、バイトだけは休むわけには行かなかった。代わりに入ったので、穴を空けることができない。店長というものは表には出ず、ほとんど事務処理をしている。

 パートのおばさんからは仕事をしていないと思われているのだが。

  

「ちょっとあんた、店長はいるかい?」

 商品の陳列をしていると、六十代くらいのおばあさんが機嫌が悪そうに話しかけてきた。

 私は言われた通り、彼を呼んだ。


「どうかされましたか?」 

 いつもの営業スマイルは絶やさず、にこやかに笑っている。

 だが、客の方は険しい顔をして、持っていたお弁当を指して言った。

「この弁当、賞味期限切れてるじゃないか。私らに切れてるもん食わせるのか。これだから若いもんは使えないんだ」

「申し訳ございません。今すぐ取り変えますんで」

 私も一緒に頭を下げて謝った。


 バイト終了後、店長に呼ばれてた。

「長谷川さんにしては珍しく、ミスが目立つね。いくつかバーコードに引っかかってる商品もあったし、何かあったのかい?」

「申し訳ありません・・・以後、気をつけます」

 昨日の今日ということもあり、調子が優れていなかった。しかし、そんなの言い訳にすぎない。完全に私自身の不注意だ。

「そういうの困るんだよね。うちはお客様を相手にしてる商売だから、無理して倒れたらこっちが迷惑するんだよね。要するにさ、足手まといになるんだよね」

 えっ・・・

 彼の言ったことに何も言うことができなかった。

 それは本当にその通りだから。

 でも今の自分にはどの言葉も悲観的にしか捉えることしかできなかった。

 

 私の代わりなんて幾らでもいる。具合が悪ければ、他の人に交代することもできる。友達も関係が崩れてしまったら、他の代わりの人を見つけていけばいい。

 私一人いなくなったらところで、何かが変わるわけでもないし、支障をきたすわけじゃない。

 

 この日から、引きこもりをするようになった。

 

 





音を文章にするのって難しいですね。

どう表現したらいいのかと・・・考えてしまいます。


轟音ごうおんと読みます。


自分にないものを相手が持っていたら、羨ましくなります。

落ち込んでいる時には一層輝いているような。

読んで下さった方々、ありがとうございます。


次で二章を終わりにしたいです。


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