被害者の手記
痛い。背後から殴るなんて卑怯だと思う。
俺を殴った奴は何処へ行ったのだろうか。まだ部屋の中に居るのか、それとももう逃げたのか。それを確認することもできない。身体がいうことを利かない。
「うぅ…」
大声を出そうとするが嗄れきった細い声しか出なかった。声を出すと頭がガンガンしたのでもう声を出そうと頑張るのはやめた。
頭を触ってみる。凹んでいた。みんなからは「綺麗な黒だね」と褒められていたが、今はそんな面影もなかった。
俺は部屋に居た所を襲われた。お菓子を食べている時に襲うなんて卑怯だと思う。
俺はおどろいた。振り向こうとした瞬間、スプレーを浴びさせられた。身体の動きが鈍くなった。相変わらず卑怯だ。
逃げようと走り出した瞬間、ベシッと鈍い音がして、背後から殴られたと気づいた。衝撃で俺は部屋の隅まで飛ばされた。
血を吐き出した。目は左目から血が出ていた。目が飛び出さなかっただけよかったと思うが、よく考えると全体的にはよくなかった。
「ぐっ…」
頭がガンガンした。脳の中で爆弾が弾けるような、そんな感じがした。もう俺は終わりか。親孝行はしていないなあ…。したかったな…。
そんな祈りは届く筈もなくて、確実にタイムリミットは近づいていた。
両腕の感触がなくなった。これが『死』かと思う。これが『死』といえものなのだ。暗闇に身を委ねる、これが死というものだ。
おれはまだしにたくない。おやじやおふくろはかなしむだろう。おとうとはないてしんでしまうかもしれない。だからおれはしんじゃいけない。いきてやる。いきてやるぞ!
*
「とどめはさしたよ、これで確実に死んだ」
彼はこっちをむいて微笑んだ。ありがとう、と私は返した。
「じゃ、こんどなんか奢ってもらうからね?」
そんな話は聞いていない。だめ、と返すと彼は、冗談だよと笑い、忌々しい害虫の死骸を袋の中に入れて、新聞紙と一緒にゴミ箱に放り込んだ。