後悔の道
今日は同窓会だ。
考えたら、高校を卒業してから、10年も経つ。
あっという間の10年間だった。
大学へ進学、法科大学院をへて就職。
結婚も、子供もいる。
それでも、あの時に、こうしておけば良かったって言う後悔は、残り続ける。
地元の高校のそばに新しくできた居酒屋に、同窓会として、ほとんど全員が揃っていた。
「では、'02年卒業の3年5組の、これからの健康を祝して、かんぱい!」
当時の学級委員長が、乾杯を言って、焼酎が入った杯を高々と掲げた。
「かんぱーい!」
それぞれが、ウーロン茶や清酒やどぶろくやカクテルなどが入ったコップを、近くの人たちとカチリと合わせた。
「しっかし、変わってないなー」
横で、清酒を一合ほど一気飲みした、俺の友人の川商が言った。
「どういうことさ」
俺が、川商に聞く。
「いや、そのままさ。卒業してからいろいろあっただろうけどさ、見た目が変わってないなーって」
「変わったさ、中も外もな」
「そうかなー」
「まあまあ、それぐらいにしときなって。また殴られるぞ」
笑いながら、川商をやさしく諭すのは、女子のだれかだった。
「あの時のやつは痛かったなぁ」
「いつのやつだ。俺が1年生の時の会ってすぐに俺をからかったお前を殴ったときか、それとも俺が2年生だった時の掃除中にラリアットかましてきたお前に反撃加えたときのことか、ああ、それか3年生の時の…」
「いや、もうやめてくれ。全部俺が悪かった。しかも、そのどれも本気でやってきやっがてさ。あれから1週間は痛みが引かなかったんだぞ」
「あーあ。そりゃわるうござんしたね」
そう、こんな感じでの後悔が、俺の中にあふれてくる。
その中には、当然恋の話もあるわけだ。
俺の初恋の子も、今日の同窓会に来ているはずなんだが、女子は女子の机、男子は男子の机と別れているため、俺からはよく見えなかった。
その子に、俺は1年生のころから3年生にかけて付き合っていた。
でも、3年生の中頃、大学の受験を言い訳にして、俺たちは別れた。
あの時も、俺は3日間は勉強も何もできない、無気力状態になった。
それでも立て直ったのは、彼女が言ってくれた言葉のおかげだ。
「そういや、あの彼女、今もいるんかな」
「お前が1年の時に付き合ってたやつか。いるよ、呼ぼっか」
川商は俺にあっさりというと、そいつをすぐに引っ張ってきた。
「ほら、いるだろ」
「ねえ、どうしたの…」
俺に気づき、彼女は、口を閉ざした。
「いや、来てるのかって川商に聞いたら、来てるっていうんで、勝手に呼んだんだ」
「同窓会だもの。10年に1回ぐらいなんだから、来ないと」
「…なあ、あの時の言葉、覚えてるか」
俺は川商を手で追い払ってから、彼女に聞いた。
「ええ、別れた時のことでしょ」
「やっぱ、覚えてたか」
「当然。10年間、私たちは会わないと思うけど、それぞれが幸せになる。ならないといけないって。だから、私あ地は大学にも進むし、自分たちの道を歩み続ける。この選択こそが、一番の、最良な選択だと信じて、ね」
あの時そのままに、俺に話した。
「だから、次会う時まで、バイバイ」
顔を伏せる動作一つ一つまで、高校生に戻ったような懐かしさを覚える。
あの別れを、まるで今、初めて体験しているかのような錯覚。
「…そうだったな」
「それで、今、あなたは幸せ?」
「ああ、幸せさ。後悔もしてきたけど、その時の一番いいと思った選択を続けてきた、続けてこれた。だからこそ、俺は今、こうしてここにいられるんだ」
彼女は笑っていった。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯」
二人だけの時間は、夢となり、そして、土岐の中で色あせることなく思い出として心に残り続けるだろう。
二人がどれだけ年を取ろうとも。