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夢の続きを、現実で

掲載日:2026/08/16

食事を終えた直後だった。

突然、世界が回り始めた。

ぐるぐる、ぐるぐる。

まるで身体ごとジェットコースターに乗せられたようだった。

立ち上がろうとしても、足に力が入らない。

「……何、これ……」

身体を支えようとしても、うまく動かない。

次第に、身体の感覚まで薄れていった。

手も、足も、自分の身体じゃないみたいだった。

そして――

自分自身が、少しずつ小さくなっていく。

そんな奇妙な感覚に襲われた。

怖かった。

このまま動かなくなったら、死んでしまう。

そう思った。

だから、必死だった。

少しでも身体を動かす。

声を出す。

瞼を開ける。

何でもいい。

動いていなければいけない。

「動かなきゃ……」

そう思いながら、残っている力をかき集めた。

そのうち、家族が集まってきた。

「救急車、呼ばなくていい……」

私はそう訴えた。

けれど、母は私の言葉を聞かなかった。

救急車を呼んだ。

父は私のそばにいて、

「何で自分を傷つけるんだ?」

そう言いながら、何度も私の身体をさすっていた。

姉が来た。

姪も、甥も来た。

気がつけば、家の中には家族が集まっていた。

やがて、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

救急隊の人が到着する。

「何を飲みましたか?」

「何錠ですか?」

「何時頃ですか?」

「今日の日付は分かりますか?」

「生年月日は?」

次々に投げかけられる質問に、必死に答えた。

めまいは続いていた。

感覚も薄れていた。

それでも、声だけを頼りに答え続けた。

救急隊の人に支えてもらいながら、外へ向かう。

ストレッチャーまでの距離が、ひどく遠く感じた。

それでも、なんとか辿り着いた。

そして私は、病院へ運ばれた。


病院に着いてからも、現実感はなかった。

「ここがどこか分かりますか?」

「今日の日付は?」

「生年月日は?」

医師の声が聞こえる。

けれど、視点が合わない。

ずっと世界が揺れている。

ここが病院なのか。

今、自分が生きているのか。

夢なのか、現実なのか。

何も分からなかった。

ただ、不思議なことに、頭の中ではずっとSEKAI NO OWARIの音楽が流れていた。

最近、YouTubeでよく観ていたからだろうか。

こんな状況なのに、頭の中だけはいつもの日常の続きだった。

点滴が始まった。

時間が経つにつれて、少しずつ意識が戻ってくる。

ぼんやりしていた世界に、輪郭が戻っていく。

そして、気づいた。

――ここは現実なんだ。

私は、本当に病院にいる。

母がいた。

顔を見た瞬間、言葉が出てきた。

「ごめんなさい……」

それしか言えなかった。

何度も、何度も謝った。


医師から、

「もう遅い時間だし、まだめまいが残っているなら、一泊していきますか?」

と言われた。

私はすぐに帰れると思っていた。

「嫌だ。帰る」

子どものように駄々をこねた。

帰りたかった。

というより、これ以上迷惑をかけたくなかった。

入院すれば、お金もかかる。

また家族に負担をかける。

それが嫌だった。

けれど、医師と母に説得され、その夜は病院に泊まることになった。

病室のベッドに横になった。

けれど、なかなか眠れなかった。

長い夜だった。


朝。

目を覚ますと、昨日まであれほど激しかっためまいが落ち着いていた。

身体も、少し軽くなっている。

ああ、生きている。

そんなことを、改めて感じた。

昼食を食べ、そのまま退院することになった。

帰り道、家族に何か買って帰ろうと思った。

迷惑をかけたから。

せめてもの気持ちだった。

デザートを買った。

家に帰ると、家族に頭を下げた。

「すみませんでした」

けれど、返ってくる言葉はどこか冷たかった。

怒っているのだろうか。

当然だと思った。

家族のグループLINEにも謝った。

けれど、既読はつかなかった。

……いや。

正確には、既読になっても返事はなかった。

仕方がない。

私が悪い。

そう思った。


家族の空気や雰囲気が苦しくて。

その苦しさから逃げたくて。

私はODをした。

けれど、結果的に――

自分が、さらに家族の空気を悪くしてしまった。

逃げたかったはずなのに。

苦しさを終わらせたかったはずなのに。

大切な人たちを、もっと苦しませてしまった。

そのことが、胸に残った。

でも。

今回のことで、初めて分かったこともあった。

救急隊の人たちは、薄れていく私の意識を何度も呼び戻してくれた。

医師は、私が何度「帰る」と言っても、安全のために泊まるよう説得してくれた。

看護師さんたちは、何も分からなくなっていた私を支えてくれた。

あの夜。

私はたくさんの人に助けてもらった。

命を救う仕事をしている人たちの優しさに救われた。

そして――

救急車を呼んでくれた母。

そばで身体をさすってくれた父。

集まってくれた姉や姪、甥。

あのときは「迷惑をかけた」としか思えなかった。

けれど、今になって思う。

私は、ひとりじゃなかった。

「救急車を呼ばなくていい」と言った私の代わりに、母が呼んでくれた。

生きることを諦めかけていた私の代わりに、家族が生きる方向へ動いてくれた。

あの日、私は死に近づいた。

それなのに――

たくさんの人の手によって、現実へ引き戻された。

だから今は、ただ思う。

ありがとう。

救急隊の人たちへ。

医師へ。

看護師さんへ。

そして、家族へ。

あの夜、私をひとりにしなかったこと。

私の「大丈夫」を信じなかったこと。

怒っていても、悲しんでいても、そこにいてくれたこと。

私はきっと、あの日初めて知った。

自分では見えなくなっていた「生きてほしい」という気持ちを、誰かが代わりに持っていてくれることがあるのだと。


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