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民主主義が終わる時:タカダ総理の優しい独裁  作者: はまゆう


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第1話 変換機

タカダ総理は、最新型の「言葉のろ過装置」を内蔵していた。

ある時、政府の巨大な汚職が発覚した。誰の目にも明らかな不正だったが、タカダ総理が記者会見の演壇に立ち、マイクに向かって微笑むと、不思議なことが起こった。

彼が「組織的な隠蔽」と口にしようとすると、スピーカーからは「手続き上の些細な遅延」という甘い響きの言葉が流れ出た。

「明らかな矛盾」は「多角的な視点による誤解」へと変換され、市民の「正当な批判」は、なぜか「卑劣な個人攻撃」としてお茶の間に届けられた。

装置の性能は完璧だった。

「ひどい! 総理がかわいそうだわ」

テレビを見ていた主婦は涙を拭った。強大な権力を持つはずのタカダ総理は、画面の中では常に「不当な暴力に耐える悲劇の主人公」として映し出されていた。批判の声が上がれば上がるほど、彼の支持率は「純粋な応援」という名の燃料を得て、ロケットのように上昇していった。

反対派の若者が一人、広場で声を上げた。

「事実を曲げるな! これは民主主義の破壊だ!」

しかし、彼の声が通行人の耳に届く頃には、タカダ総理の「空気清浄機」によって、別の意味に書き換えられていた。

「ボクハ、ワガママナ、コドモデス」

通行人たちは冷ややかな視線を送った。

「やれやれ、また総理をいじめている。批判する方が悪いのよ。せっかく世の中が『正しい物語』でまとまっているのに」

若者は絶望した。暴力で黙らされるのではない。正義の顔をした「空気」によって、存在そのものを「悪」へと変換されてしまうのだ。

数年後、タカダ総理は満足げに執務室で椅子に深く腰掛けていた。

もはや「ろ過装置」は必要なかった。国民の耳そのものが、不都合な真実を自動で心地よい物語に変換するよう、すっかり「慣らされて」いたからだ。

「次はもっとうまくやれる」

タカダ総理は独りごちた。

民主主義は、大きな音を立てて崩れたのではない。

誰もが「自分が正義の味方である」と信じ込んだまま、静かに、そして再起不能なほど巧妙に、麻痺して消えていったのだ。

窓の外では、国民たちが晴れやかな顔で、新しい「物語」を消費するために列をなしていた。

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