かまいたちの薩摩
一陣の風が吹きすさぶ。
緑よりは茶色がかった原っぱに二つの足音が落ちる。
誰とも知れないその男二人は互いの矜持を持ってここに立っていた。
一人は愛する故郷を守る者、一人は大いなる意向を背負う者。
「よお、おめえか。幕府からの刺客っつうやつは。」
南から来た男は帽子の影から眼光を光らせる。手には刀を持ち、肩に担いでいた。
「そいつは聞き捨てならねえな。俺は俺の意志で動いている。あんなやつら(幕府)の犬じゃねえ。」
北から来た男は言って、両手で刀を構える。綺麗に結ったちょんまげが闘志を表していた。
「ふっ。そうかよ。まあ、俺には関係ねえ話がよ。おめえが敵に代わりはねえ。」
言って、南の男は帽子を取った。短く切りそろえられた髪が故郷への仁愛を表している。
「まあ、そりゃあそうか。大人しく薩摩の端くれを寄こしてくれればいいものよぉ。……まあしかし、お前と気持ちはおんなじだ。」
北の男が言った瞬間、刀の音が響き渡った。
両者の戦いはつばぜり合いから始まった。ぎしぎしと音をたてながら、どちらも刀を押し込むが、力は全くの互角だった。
「意外とやるな、お前。」
「ああ、ワイは村一番の武士だがよ。おめえこそ、なかなかつよいな。」
「まあ、こんな大役を独りで任せられるくらいだからな。幕府の人手が足りないっていうのもあるがな!」
キーンと刀と刀が響き渡り、両者後ろに後退する。どちらの額にも冷や汗が流れていた。
「まあ、俺も時間がねえ。一気に勝たせてもらうぞ。」
「そりゃあ、こっちのセリフがよ!」
刀と刀が激しくぶつかり合う。甲高い音が鳴り響き、一里先でも聞こえそうなくらい音に熱が帯びていた。
北の男が胴を狙おうとすれば、南の男はすぐさまはじき、逆に首を狙う。北の男もすぐさま反応し、はじき返す。
胸を狙っても、小手や腕を狙っても同じことが起こるだけだった。
戦いを評するには全くの互角。両者、一歩も譲らずただ時間だけが過ぎていく。
「はぁはぁ……。やるな、お前。」
「そっちもがよ……。全く幕府にはおめえみたいなやつがごろごろいるんけ。」
「……だったら良かったがな。」
両者飛びつき、刀を交える。
幾度となく行われる刀のやり合いで両者疲労の色が見え始める。
――――一瞬の油断が命取りになる両者がそう認識したときだった。
突然木々が揺れ始め、地面に落ちていた木の葉が舞い上がった。
「……来たがよ。」
南の男はそう言って、木へと向かって走り出した。
「……おい!突然どうした!……まさか、逃げるのか!」
「……悪く思うがや。」
南の男がそう呟いたと同時、北の男の腕の皮膚が切り裂かれた。
「……は?……え。」
北の男は状況を認識できず、腕を抑える。
それと同時、今度はふくらはぎも切り裂かれた。
男はうずくまることしかできなかった。至る所の皮膚が次々と切り裂かれ、成すすべがなかった。
やがて風がやみ、木陰でしゃがみながら事態を静観していた南の男が北の男のもとに近づいた。
「悪く思うがや。ここはかまいたちの住処がよ。」
「……くそ。」
南の男は立ち去っていく。
北の男の目には南の男の背中に白いオーラが出ているように見えていた。




