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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第16話:幼い悪意





 アリアは、ベッドの上に飛び乗ったまま、白いうさぎのぬいぐるみに頬擦りする。


「……可愛い〜」


 次の瞬間。


「ねぇ、とぉる!!!

 アリィ、これほしい!!!」


 ぬいぐるみを抱きしめ、キラキラした眼差しで透を見つめるアリア。


 透の心臓が、どくんと跳ねた。


「あ……」


 思わず、声が詰まる。


「ご、ごめんね……アリア」


 透は、ゆっくり首を振った。


「それは……あげられない」


 アリアが、きょとんとする。


「……なんで?」


 透は、一瞬だけ視線を落としてから、まっすぐ見た。


「これはね

 大事な友達と、一緒に買ったものだから」


 今は亡き陽菜とのお揃いのぬいぐるみを手に持ち、懐かしそうに耳を撫でる。


 けれど、言葉にした瞬間、胸の奥がひりついた。


「ごめんね。

 本当に……ごめん」


 沈黙。


 次の瞬間。


「……やだ」


 小さな声。


「やだやだやだ!!!」


 アリアの表情が、ぐしゃりと崩れる。


「アリィ、ほしいの!!!

 それ、ほしいの!!!」


 ぬいぐるみを引き寄せようとして、届かない。


 ぎゅっと拳を握りしめ——


「……いいもん!!!」


 顔を上げ、叫ぶ。


「血、つかっちゃうもん!!!

 そうしたら、とぉる、くれるでしょ!!!」


 その言葉に。


「アリア!!!」


 透の声が、鋭く響いた。


 反射的に、アリアの手首を掴む。


「ダメっ!!!

 使っちゃ、ダメ!!!」


 必死だった。


「怒られるでしょ!!!

 それに……それに……それは......」


 それ以上、言えなかった。


 黒瀬と蒼真の視線が、一斉に透に集まる。


 だが、透は続けた。


「アリア……

 それは、アリアが苦しくなるから……」


 アリアの目が、揺れる。


「……ぐすっ……」


 唇が震え、涙が溜まる。


 その時。


「……これなら、どう?」


 透は、ポケットから小さなものを取り出した。


 掌に乗る、うさぎのキーホルダー。


 少し古びて、金具も擦れている。


「これ、代わりにあげる」


 そっと、アリアの手に握らせる。


「一緒だよ。

 うさぎさん」


 アリアは、涙目のまま、それを見つめ——


「……うさぎ……」


 ぎゅっと、握りしめた。


「……これ、アリィの?」


「うん」


 透は微笑んだ。


「大事にしてね」


 一拍。


「……えへ」


 涙が引っ込み、顔が緩む。


「アリィ、これでいい!!!」


 さっきまでの癇癪が嘘のように、にこにこ笑う。


 その光景を。


 蒼真と黒瀬は、黙って見ていた。


 ——おかしい。


 明らかに。


 黒瀬が、低く言う。


「……今の会話

 どういうことだ?」


 蒼真も眉を寄せる。


「血?

 怒られる?

 それって.........」


 透の喉が、きゅっと締まる。


「えっと……その……」


 言葉が出てこない。


何処から話せば良いか。どう話したら良いのか。


 誘拐犯。

 組織の人間。

 特別な血の保有者。


 全部、事実。


 全部、重すぎる。


「……アリアは……この前の……」


 その時。


「……思い出した」


 黒瀬が、ぽつりと呟いた。


 視線が、アリアを捉える。


「お前……」


 空気が、凍る。


「透が攫われた時……」


「あ!!!」


 アリアが、ぱっと顔を上げた。


「そうだ!!!

 黒瀬こういち!!!」


 指を差し、叫ぶ。


「このお兄ちゃん!!!

 アリアが眠らせた人!!!!」


「アリア!!!」


 透が、慌てて口を塞ごうとする。


 だが、遅かった。


 黒瀬が、ゆっくり透を見る。


 ——にこり。


 笑っているのに、背筋が冷える。


「透?」


 声は穏やか。


 けれど。


「説明しろ」


 黒瀬は、その場から動かなかった。

それでも、空気だけが重くなる。


「何でコイツを連れてきた?

 コイツが何をしたか、覚えてないのか?」


 滑舌が、異様に良い。


「お前を攫って

 俺にこの傷を付けた張本人だ」


 低く、続ける。


「俺を怒らせたいのか?

 透の危機管理能力は、どうなってる?」


 蒼真が噛みつく。


「説明も何も!!!

 透を攫ったって!!!この餓鬼!!!」


「黙れ」


 黒瀬が、即座に遮る。


「俺は、透に聞いてる」


 蒼真が舌打ちする。


「……チッ

 返答次第じゃ、女だろうと容赦しねぇ」


 その瞬間。


「透をいじめるなぁぁぁぁぁ!!!!」


 アリアが、蒼真に飛びかかった。


「バカバカ!!!

 とぉるが困ってる!!!」


 拳で叩く。


「パパに言って!!!

 お仕置きしてもらうんだから!!!」


「いって!!!

 おい!!! 何で俺なんだよ!!!」


「あ、アリアっ!!!」


「びぇぇぇん!!!

 アリアは、とぉるの味方だもん!!!」


 透の胸が、ざわつく。


 ——前より、幼い。


 明らかに。


 ぞっとした。


「大丈夫!!!

 虐められてないから!!!」


 透は、アリアを抱きしめ、引き離す。


「ったく!!! このゴリラ女!!!」


「ゴリラ!?

 と、とぉる!!!

 蒼真が!!!」


 泣き声が大きくなる。


「蒼真も落ち着いて!!!

 アリィ、大丈夫だから!!!」


 必死に宥め。


 撫で。


 抱きしめ。


 やがて。


 アリアは、泣き疲れて、眠った。



 静寂。


 透は、そっとベッドに寝かせる。


 だが——


 袖を、掴まれたまま。


 離れない。


 透は、そのまま腰を下ろし、息を吐いた。


「……隠し事なしで話すから」


 そして。


 出会い。


 誘拐。


 黒瀬への攻撃。


 一緒に行こう、と言われたこと。


 すべてを話した。


 沈黙。


「……ぶっ殺そう!!!」


「蒼真!!!」


「だってよ!!!

 このガキ!!!」


 眠るアリアを睨みつける。


「だから、もう交渉してるって!!!」


 蒼真は黙り込む。


 やがて。


「……俺、馬鹿だからよく分かんねぇけど」


 一拍。


「透が決めたんなら

 最後に一つだけ聞く」


 真剣な目。


「コイツは敵か?」


 透は、少し考えて。


「……今のアリアは

 敵じゃない」


「味方でもないだろ」


 黒瀬が言う。


「……うん」


 透は頷いた。


 黒瀬は、眠るアリアを見る。


 幼い。

 異常なほど。


 そして、透。


 ——お前は、まだ何か隠してる。


 その確信だけが、胸に残った。

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