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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第7話:前髪は命




 目覚ましが鳴った瞬間、透は飛び起きた。


「……やば」


 時計を見る。

 完全に、寝坊。


「お母さん!!!なんで起こしてくれなかったの!!!」


「起こしたわよ〜。三回」


「聞いてない!!!」


 布団を蹴飛ばして洗面所へ駆け込む。

 顔を洗って、鏡を見る。


「……前髪……」


 寝癖。

 最悪。


 濡らして、ドライヤー。

 櫛で整えて、もう一度確認。


「……違う」


 もう一回。

 少し右に流して、確認。


「……角度が決まんない〜!!」


「そんな前髪いじっても変わんないって!!!」


 背後から、母の容赦ない一言。


「全然違うもん!!!

 前髪は命なんだから!!!」


「はいはい。それより遅刻するわよ?

 蒼真君と待ち合わせしてるんじゃないの?」


 その瞬間。


 ピコン。


 スマートフォンが震えた。


《もう公園着いたけど〜》


「うわぁ!!!

 もう来てるって!!!」


 慌てて画面を叩く。


《今行く!!!》

《ちょっと待って!!!》


 鏡を睨みつける。

 前髪。

 どうしても、納得いかない。


「もぉ〜……」


 時間を見る。

 完全にアウト。


「……ええい!!!」


 ピンで前髪を留めて、洗面所を飛び出した。


「行ってくる!!!」


「ちょっと待ちなさい。

 せめて卵焼きだけでも食べていきなさい」


 母の声に、足が止まる。


 皿の上の卵焼き。

 ほんのり甘い匂い。


「……ん!!!もぉ〜

 本当に遅刻しそうなのに!!!」


 文句を言いながら、一口。


 もぐ。


「行ってきふぁ〜す!!!」


「食べながら言わないの!!!」


「ふぁ〜い!!!」


 玄関のドアが、勢いよく閉まった。



「……あれ?」


 母は、残った卵焼きを箸でつまんだ。


 一口。


「……酸っぱ」


 眉をひそめる。


「砂糖と塩、間違えたかしら……」


 首を傾げながらも、特に気にせず皿を片付けた。




 透が公園へ着くと公園の入り口で、蒼真が腕を組んで立っていた。


「おっせぇ〜!!!」


「ごめん!!!

 前髪が言うこと聞かなくて!!!」


「知らねぇよ!!!

 そんな前髪いじっても変わんねぇって!!!」


「変わるの!!!」


 言い返しながら、歩き出す。


「体調は?」


「もう大丈夫。熱も下がったし」


「ほんとかよ〜」


 蒼真は疑うように覗き込んできた。


「……なに」


「顔色、まだ赤い」


「朝バタバタしたから!!!」


 そう言い切って、前を向く。


 学校が見えてきた、その時。


 ピコン。


 ポケットの中で、スマートフォンが震えた。


 画面を見る。


 差出人――黒瀬秘書。


《体調は、もう大丈夫でしょうか?》


 朝の喧騒が、ふっと遠のく。


 透は、立ち止まった。


「……透?」


「……ううん。なんでもない」


 画面を伏せる。


 普通の朝。

 普通の登校。


 それなのに。


 胸の奥で、何かが静かに冷えていくのを、透は感じていた。

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