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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第6話:甘いはずだった





 朝、目を覚ました瞬間、頭が重かった。

 熱を持った身体が、布団に沈み込んでいる。


 喉が渇く。

 でも、起き上がる気力がない。


 今日は、学校を休んだ。


 スマートフォンの画面には、蒼真からのメッセージがいくつも並んでいる。


《お〜い大丈夫か?》

《黒瀬も休み〜知ってると思うけどw》

《朝から来てないって聞いた》

《後で行っていい?》


 透は少し迷ってから、短く返した。


《熱出ただけ》

《大丈夫だよ》


 送信してすぐ、天井を見る。


 本当は、大丈夫じゃない。

 でも、そう言うのは簡単だった。


 コンコン、と控えめなノックの音がしたのは、それから一時間ほど後だった。


「透? 入るぞー」


「……どうぞー」


 声を出しただけで、頭の奥がじんと痛む。


 蒼真は買い物袋を片手に、遠慮がちに部屋へ入ってきた。


「うわ……ほんとに顔赤いな」


「でしょ……」


 布団から少しだけ顔を出して、へらっと笑う。


「大丈夫。たぶん、知恵熱」


「滅多に使わねぇ頭使って?」


「酷っ〜!!!最近ちょっと、色々あったしさ〜」


 ケラケラ笑う蒼真に軽く言って、視線を逸らす。


 蒼真は何も言わず、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。


「無理しすぎ」


 ぽつりと落とされる、静かな声。


「……してない、とは言わないけど」


 透は天井を見たまま答える。


「でも、元気だよ。ほら」


 ムンッと力こぶをつくりアピールすると、蒼真は苦笑した。


「いやいや、顔赤くして言っても説得力ねぇ〜し!!!とりあえず、これ飲んで食っとけな〜?」


 買い物袋の中から、スポーツドリンクとゼリー、そして――

 小さなカップのプリンが出てきた。


「甘いの、好きだろ」


「……うん」


 差し出されたスプーンを受け取る。


「ほら。熱あるときは糖分って言うだろ?」


「ん……ありがと」


 上半身を少し起こし、プリンを一口すくった。

 口に運ぶ。


「あま……」


 言葉が、途中で止まる。


 確かに、甘い。

 確かに、美味しい。


 だけど――


 以前は、もっと甘かったような気がした。


 でも、今は熱もある。

 きっと、気のせいだ。


 蒼真が、不思議そうにこちらを見てくる。


「どした?」


 透はもう一口、ゆっくり味わう。


 確かに甘い。

 でも――


「プリンって……やっぱ最高〜だなって!!!」


「だろ?」


「流石、蒼真〜。私の好み分かってる〜……」


「ばぁか!!! 何年幼馴染してるって思ってるんだよ〜」


 ケラケラ笑いながら、蒼真が小さく息を吐いた。


「……そういえばさ」


「ん?」


「黒瀬のとこ、昨日面会行ったんだ」


 その名前を聞いた瞬間、胸が小さく跳ねる。


「……どうだった?」


「会えなかった。まだ安静だって」


 視線を落としたまま、蒼真は続けた。


「でもさ、今度一緒に行こうな」


 一瞬、言葉に詰まってから、ゆっくり頷く。


「……うん」


 プリンを、もう一口。


 甘い。

 ――はずなのに。


 胸の奥に、うっすらとした違和感が残る。


 熱のせいだ。

 きっと。


「ま、食欲はあるみたいだな? 薬も飲んで安静にしてれば大丈夫……」


 その言葉に、そっと視線を逸らす。


「ん? 透〜? なんで今、目ぇ逸らした?」


「逸らしてない。気のせい」


「……さては、飲んでねぇな!!!

 美奈子ママ〜!!! まーまー!!!」


「わぁー蒼真!!! 呼ばないでよぉ!!!」


 美奈子とは、私のお母さんだ。


 大声につられて飛んできた母に、案の定チクられる。


「美奈子ママ!!! 透のやつ、薬飲んでねぇ!!!」


「ちょ!!! なんでチクるの!?」


「絶対、そこの引き出しに隠してると思う!!!」


「わぁーー!!! なんで知ってるのよ!!!」


「やっぱかぁ!!

 昔から薬とか、嫌いな宿題とか、苦手な食べ物とか、そこに隠してたよな?」


 幼馴染とは、こういう時、不便である。


「そこは幼馴染のよしみで黙っててよ!!!」


「ばぁか!!! 治るもんも治んねぇで黙ってられるか!!!」


 案の定、隠していた薬は見つかり、母にこっ酷く叱られた。


「買い物行くけど、ちゃんと飲みなさいよ!!!」


「大丈夫! 俺がしっかり見張ってるから!!!」


 母の忠犬と化した蒼真に見張られながら、薬を飲む羽目になる。


「もぉ〜。

 本当に風邪でもなんでもないのに〜!!!

 最近、無理しすぎただけで、ただの知恵熱なのに〜」


 ぶーぶー文句を言いながら、薬の用意をする蒼真を、じとっと見つめる。


「えっと、薬は水がいいんだよな?

 種類はこれとこれで、食後?

 プリンもっと食え!! あとパンも食っとけ」


「む〜。お腹すいてな――」


「とか言いながら、飲まないつもりだろ〜」


「バレたか!!!」


 ふざけ合いながらの掛け合いは、楽しかった。


 ただ――


「…………にがぁ〜い」


 舌に残る苦味は、確かにある。


 それなのに。


 この苦味を、薄いと感じるなんて。


 きっと、気のせいだ。

 熱が高くて、感覚が麻痺してるだけ。


 そう言い聞かせながら、蒼真に口の中を見せる。


「ちゃんと飲んだよ!!! ほら〜」


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