第77話:もう一度、聞かれる
もう、時間も時間ですし。
続きは明日――そう言って、彼女たちはそれぞれ自室へ戻っていった。
私も用意されていた部屋に入り、ベッドに腰を下ろす。
柔らかいはずの寝具は、ひどく落ち着かなかった。
横になっても、目を閉じても、眠気は一向に訪れない。
明日、どうなるのか分からない。
明日、何があるのかも分からない。
もしかしたら、
――まだ、私の知らないことがあるのかもしれない。
正直、知りたくない。
もう、これ以上、何も考えたくなかった。
黒瀬……大丈夫かな。
大丈夫だと、思いたい。
そう自分に言い聞かせながら、意識はゆっくりと沈んでいき、
私はそのまま眠りに落ちた。
*
――――――――――――
「やぁだ!!!! ヤダヤダやぁだ!!!」
甲高い叫び声に、私は飛び起きた。
何事!?
心臓が跳ね上がる。
慌てて部屋を見渡し、そこでようやく思い出す。
そうだ。昨日、私はこの高層マンションに連れてこられたんだった。
ベッドを飛び降り、部屋を出る。
壁一面が窓になっているホールへ足を踏み入れた瞬間、言葉を失った。
――惨状、という言葉以外、浮かばない。
「やだぁ!!! 絶対やだぁ!!! エリスの嘘つきっ!!!」
叫びながら暴れ回っているのは、アリアだった。
テーブルの上に置かれていたであろう料理は床に飛び散り、
その上を踏み荒らしたせいで、アリアの服は汚れだらけ。
大きなクッションはズタズタに裂かれ、
羽毛が広いホールいっぱいに舞っている。
パーティションは所々破れ、もはや使い物にならない。
一体、どうしたらここまで……。
エグエグと大きな瞳に涙を溜めるアリアは、
その姿だけ見れば、天使が泣いているようにも見えた。
――が。
彼女の手には、大きなハサミ。
きっと、それでクッションを切り裂いたのだろうと察した、その瞬間。
二人が、私に気付いた。
真っ先に飛んできたのはアリアだった。
「とぉるぅ!!! エリスがっ!! エリスがぁ!!!」
「う、うん……まず、ハサミ置こうか?」
そう言って、そっと手からハサミを受け取り、エリスへ渡す。
ガラスの破片を拾っていたエリスは、ひどく疲れた表情をしていた。
昨日の冷酷な彼女と、同一人物とは思えない。
「透も行きたいでしょ!!!」
突然そう言われ、私はきょとんとする。
話を聞けば、今日の夕方。
アリアの父親が、日本に到着するらしい。
――ああ、昨日、やたらと自慢していた、あの父親か。
正直、会いたいかと聞かれたら、答えはノーだ。
「パパを迎えに行くんだもん!!!
いくいくいく!!! 行くのぉ!!!」
「ダメです!!!」
「良いもん!! エリスに血使っちゃうもん!!!」
「許可なく使ったら、大好きなパパに叱られると知ってますよね?」
その一言に、アリアはぐっと口を閉ざした。
そして、再び私を振り向く。
「透っ!!!
エリスが意地悪言う〜!!!
アリィはパパを迎えに行きたいだけなのに!!!」
どうやら、さっきからこの件で押し問答をしていたらしい。
エリスはヨレヨレの表情で、どこかに連絡を入れる。
「申し訳ございません……
……はい。アリアお嬢様が……
……はい、はい……」
ちらりと私を見たあと、エリスはアリアに端末を渡した。
アリアはぱっと顔を輝かせる。
「パパっ!!! アリィだよ!!!
早くパパに会いたいっ!!!
……だから、お迎え行って良いでしょ?」
「……」
「うん、うん……うん!!!
わかった!!!
透? 透も居るよ!!!
……うん……うん、わかった!!!」
通話を終えたアリアは、見るからに機嫌が良くなっていた。
「お迎え来てもいいって!!!」
その前に――。
そう言いながら、アリアは私をじっと見つめる。
「透。
昨日、エリスから色々、聞いた?」
その上で、もう一度聞くね。
――そう前置きして。
「私たちと、一緒に行こう!!!」




