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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第65話:逃走ごっこ




第1章 選ばされる真実



 コンビニの看板が見えた瞬間だった。


「アイスアイスアイスアイス!!アイスぅ!!」


 後部座席で、アリィが突然叫んだ。


「アイス食べたいのぉ!!!

ねぇねぇ!!黒瀬一族もう居ないんだからいいじゃん!!!」


 ばたん、ばたん、と足を激しく揺らし、シートを蹴る。


「エリスのケチ!!!ケチんぼ!!!アイスぅ!!!!!」


「……静かにしなさい、アリア」


 エリスの声は低く、苛立ちを隠そうともしない。


「さっきの追跡で無駄に注目を浴びたのよ、これ以上寄り道を——」


「えぇ〜〜!!」


 アリィは体を大きく反らし、わざとらしく叫ぶ。


「アリィ、ずっと我慢したのにぃ!?透の歓迎会なのに!?冷たいの食べたら元気出るのにぃ!!!」


 透は、二人のやり取りを黙って聞いていた。


 ——今だ。


 そう思った瞬間は、説明できないほど自然に訪れた。


「……はぁ」


 エリスが、深く息を吐いた。


「五分だけよ、買ったらすぐ戻る」


「やったぁぁぁ!!!」


 アリィが両手を上げて跳ねる。


「透もね!!好きなの選んでいいからね!!!」


 車が、コンビニの駐車場に滑り込む。


 エンジンが止まる。


 ドアロックが、解除された。


 ——その音。


 透の中で、何かが弾けた。


(……今しか、ない)


 考える前に、体が動いた。


 ドアを開け、夜の空気を蹴り、走る。


「透は何味食べるぅ?―――透?」


 背後で、アリィの楽しそうな声が弾んだ。


「透?」


 透は、振り返らない。


 駐車場を抜け、角を曲がる。


 細い道。


 街灯がまばらで、影が濃い。


 全力で、走る。


(逃げる……!)


 肺が焼ける。

 心臓が耳元で鳴る。


 路地裏に飛び込み、さらに走る。


 ゴミ箱に足が当たり、金属音が響いた。


 転がる。


 振り返らない。


 転びそうになりながら、曲がって、曲がって——


 ——その先。


 路地の出口に。


 いた。


 にっこりと笑う、アリィ。


 その隣で、腕を組み、呆れたようにため息をつくエリス。


「はい!しゅーりょー!!!」


 アリィが、ぱん、と手を叩く。


「逃走ごっこ、楽しかった?逃げられたって思った?

ねぇ!!!期待した!?」


 透の足が、止まる。


 息が、喉に詰まる。


「もぉ〜甘いよ?」


 アリィは首を傾げ、無邪気に微笑んだ。


「透?アリィ達が、逃すはずないでしょ?」


 青い瞳が、まっすぐ射抜く。


「そんなことしたら、パパに叱られちゃう〜」


 その声は、冗談めいているのに。


 ——背中が、冷え切った。


「……はぁ」


 エリスが、深く息を吐く。


「アリアがどうしてもと言うから、許可しましたが」


 一歩、前に出る。


「これで、理解したでしょ?」


 逃げ道はない。


 最初から、なかった。


「さぁ」


 エリスは、淡々と告げた。


「車に戻りますよ」


 透は、拳を強く握りしめた。


 ——逃げられたのは、わざと。


 逃げた“つもり”にさせられただけ。


 その事実が、胸を締めつける。


(……私は)


 完全に、捕まっている。




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