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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第55話:迷わせない手




放課後の通学路は、驚くほど静かだった。


部活帰りの生徒、買い物袋を提げた主婦。

夕方の光が、すべてを「普通」に見せている。


その中で、黒瀬は自然な動作で、透の手を取った。


指先に、少しだけ力を込める。

逃がさないためでも、引きずるためでもない。

ただ――迷わせないためだ。


透は、抵抗しなかった。

驚きも、照れもない。

されるがまま、少し遅れて歩調を合わせる。


「……どこ行くの?」


子供みたいな声だった。


「一度、診てもらうって言っただろ?」


黒瀬は前を向いたまま答える。

「念のためだ」


嘘ではない。

透は「そっか」と小さく頷いた。

それ以上、何も聞かない。

黒瀬がそう言うなら、それで終わり。


傍から見れば、仲のいいカップルだった。

夕方の街に溶け込む、ありふれた二人。


――ただ、透の表情だけが、どこにも向いていなかった。



病院は、思ったよりも静かだった。


夕方の外来が終わりかけた時間。

白い廊下に、足音がやけに響く。


受付で名前を告げると、看護師は一瞬も迷わず頷いた。


「夏川様ですね


……こちらへどうぞ」


“初めて”のはずなのに、通っているみたいな対応だった。

黒瀬は、その違和感にだけ気づいた。

透は、気づかない。


「大きい病院だね」


感心したみたいに言う透に、黒瀬は小さく「……ああ」と答えるだけ。


診察室は、無機質で清潔。

看護師の手つきは慣れていて、説明も簡潔。


「じゃあ、少し採血しますね」


透は素直に腕を出した。

量は普通。多くも、少なくもない。

だから――疑えない。


針が抜かれ、絆創膏が貼られる。


「終わりましたよ」


「ありがとうございます」

透は少しだけ腕を動かして、黒瀬を見た。


「これで、いいの?」


軽い調子。確認するみたいな声音。

黒瀬が頷くより先に、透は続けた。


「……治るならさ


もっと血.......取っても大丈夫だよ?


私、協力するよ?


それで、普通の人間に戻れる?」


目だけが真剣だった。


黒瀬の呼吸が、一瞬だけ止まる。

透を見ないまま、低くゆっくり呟く。


「……軽々しく言うな


今日は、一度ちゃんと診てもらっただけだ。


余計なことは考えなくていい」


嘘ではない。

でも、すべてではない。


透は、少し目を丸くしてから笑った。


「ごめん」


本気で謝っているわけではない。

ただ、怒らせたと思っただけ。


診察室を出て、廊下を歩きながら黒瀬は言った。


「……最近、体調も安定してないだろ」


「うん?」


「血のこともある」


一拍置いて、さらに続ける。


「だから、今後は定期的に診てもらおう」


透は立ち止まらなかった。


「わかった」


一つ返事。


疑問も、不安も、条件もない。


「黒瀬が言うなら、それがいい」


それで、決まってしまう。

黒瀬は歩きながら、考えないようにした。


澪のことは、思い出さない。

過去も、見ない。


浮かぶのは、ただ一つ。


――透が、壊れる未来。


それを避けるために、今を選んだ。

それだけだ。


それでいい。

……そう、信じるしかなかった。


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