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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第48話:守ると決めた夜




 夜の街は、思っていたよりも穏やかだった。


 仕事帰りの人の流れ。

 点き始めた街灯。

 コンビニの前で立ち話をする学生たち。


 澪は、その中を歩いていた。


 手には、白いビニール袋。

 中身は、透が好きだと言っていたコンビニのスイーツ。


 ——買いすぎたかもしれない。


 そう思って、くすりと笑う。

 きっと「またこんなに」って言われる。

 少し呆れた顔で、でも最後には一緒に食べてくれる。


 そんな光景が、やけに鮮明に浮かんだ。


 お泊まり。

 友人の家。

 約束の時間は、十九時。


 ……考えてみれば。

 友人の家に泊まるなんて、初めてだった。


 その事実に気づいて、澪はまた小さく笑う。


 浮かれすぎだな、と自分で思う。

 何も知らない人が見たら、変人だと思うだろう。


 時間は、もうあまり残っていないのに。


 胸の奥が、妙に静かだった。

 不安も、恐怖も、ない。


 ただ、どこかで——

 この夜が、透と過ごす最後になるかもしれない

 そんな予感だけが、薄く張り付いていた。


 約束の時間まで、あと五分。


 澪は立ち止まり、携帯電話を取り出す。

 遅れる、と。

 それだけを伝えるつもりだった。


 画面が点いた、その瞬間。


 背後から、声がした。


「――澪様」


 驚きは、なかった。


 振り返らずに、澪は小さく息を吐く。

 ああ、やっぱり。


 そういうことか、と。


「ナンバーエイトです」


 淡々とした声。

 感情の揺れは、どこにもない。


 説明はなかった。

 理由も、命令も。


 それで十分だった。


 澪は、ゆっくりと振り返る。

 街灯の下、スーツ姿の男が立っている。


 この世界は、相変わらず綺麗だな。

 そんなことを、場違いにも思った。


 澪の視線は、ふと遠くへ向く。

 通りの向こう。

 曲がり角の先。


 ——透。


 あぁ、迎えに来ていたのか。

 嫌な所を見せてしまうかも。

 トラウマにならなければ良い。


これが最後、か...なんて考える。



 澪は、ビニール袋を握り直した。


 約束なんて……

 するもんじゃない。


 それでも。


 守りたいものが、できてしまった。


 澪は、何も言わなかった。

 男に向かって、一言も。


 ただ、ほんの少しだけ微笑んで。


 次の瞬間。


 世界が、歪んだ。


 ——叫び声。

 ——ブレーキ音。

 ——何かが、崩れる感覚。


「澪――ッ!!」


 遠くで、透の声がした。


 近い。

 でも、届かない。


 澪は最後に、その声を聞いた。

 それで十分だった。


 約束の時間は、

 もうすぐだった。


 それでも——

 澪は、守る方を選んだ。


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