第47話:判断保留
端末の画面には、複数のウィンドウが並んでいた。
黒瀬功一は何かを探すように、画面に目を通す。
流れる文字を目で追う。それの繰り返し。
時刻、位置情報、通話記録。
医療機関の受診履歴。
救急搬送の有無。
警察の速報。
一般回線と、表には絶対出ない回線。
黒瀬は椅子に深く腰掛けたまま、淡々と指を動かす。
ひとつ、ひとつ。
確認する。
照合する。
重ねる。
感情を挟む余地はない。
透の名前を開く。
直近の行動履歴に、不自然な空白はない。
位置情報も、時間のズレも、記録上は問題なし。
次に、朝霧澪。
一瞬、画面が切り替わるのが遅れた。
黒瀬は何も言わず、ただ待つ。
焦らない。
端末は、嘘をつかない。
表示されたのは、最低限の情報だけだった。
家族構成。
居住歴。
学校記録。
——あまりにも、在り来りだ。
「……面白いくらいに普通だな」
黒瀬は、小さく息を吐いた。
「サラリーマンの父親。
専業主婦の母親。
一人娘の朝霧……澪」
どこにでもある家庭。
どこにでもいる、女子高校生。
不自然なのは、
“そう見えるように整えられている”点だけだった。
「……なるほど」
声は低く、抑揚がない。
彼女の周囲に関する記録を広げる。
交友関係。
接触時間。
監視カメラの死角。
透との接点が、いくつも浮かび上がる。
偶然にしては、配置が整いすぎている。
黒瀬は、別の回線を開いた。
一族の病院。
研究施設。
――そして、表に出ない情報整理班。
「外部で進行中の“回収”は?」
短い指示。
敬語も感情もない。
返答は早かった。
《外部組織による回収行動が一件》
《対象:未確定》
《提出物の真偽、精査中》
黒瀬は、それ以上を聞かなかった。
結果待ち。
それだけで十分だ。
端末を切り替え、別のデータに目を通す。
最近、妙に動きの多い組織。
資金の流れ。
人の配置。
すべてが、同じ一点を避けるように動いている。
黒瀬は、画面を閉じた。
机の上に置かれたメモ帳に、短く書き込む。
——接触済み
——回収(外部)未確認
——結果待ち
ペン先が止まる。
そのまま、もう一行。
——透(未把握)
黒瀬は、ゆっくりとペンを置いた。
結論は、まだ出ない。
だが、必要な情報は揃いつつある。
動くには、早すぎる。
見送るには、遅すぎる。
黒瀬は立ち上がり、カーテン越しに夜の街を見た。
静かだ。
何も起きていないように見える。
だからこそ、目を逸らさない。
「……記録は、嘘をつかない」
独り言のように呟き、再び端末に手を伸ばす。
まだ、判断は下さない。
下す必要があるとしたら――
それは、結果が出てからだ。
その判断が、
間違いだったのかどうか――
黒瀬は、この時点ではまだ知らなかった。
ただ。
事態が動いたのは、ここからだった。
それも、
考える暇も、
止める猶予もないほど早くに。




