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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第45話:有効な結果





 薄暗い部屋だった。


 照明は必要最低限。

 影が整然と床に落ち、無駄なものは何一つ置かれていない。


 中央に置かれた椅子に、澪は座っていた。


 背筋は伸びている。

 視線はまっすぐ。

 感情の揺れは、表に出さない。


 向かい側に立つ男は、端末を一瞥し、淡々と口を開いた。


「それでは――報告を」


 声は穏やか。

 丁寧で、抑揚がない。


 澪は、一拍置いて答える。


「対象への接触は完了しています」


「継続的な接触も?」


「はい。日常圏内に入りました」


 男は頷いた。

 評価とも同意ともつかない、小さな動き。


「回収物については」


 澪の喉が、わずかに動く。


「……確保しました」


 その言葉は、感情を削ぎ落とした音で落ちた。


 男は、端末に視線を落としたまま、続ける。


「状態は」


「問題ありません」


「検査は」


「規定範囲内です」


 嘘は、混ぜない。

 必要なところだけ、抜く。


 男は端末を操作しながら、淡々と言った。


「結構です。手順としては十分でしょう」


 ――“十分”。


 それだけで、

 ここまでのすべてが評価された気がした。


「では、次の段階に移行します」


 澪は、わずかに指先を強張らせた。


「期限は、引き続き非公開とします」


「……承知しました」


 男は、初めて澪に視線を向けた。


 冷たい目だった。

 怒りも、期待も、失望もない。


 ただ、対象を“見る”目。


「一点だけ、確認を」


「はい」


「あなたは――躊躇していませんね」


 質問ではない。

 確認だった。


 澪は、即座に答える。


「任務を遂行しています」


 男は、微かに口角を上げた。

 笑みと呼ぶには、あまりに薄い。


「結構」


 それだけで、十分だというように。


端末をカチリと一押し。


「成果が得られなかった場合も」


 一拍。


「それはそれで、“有効な結果”です」


 澪の胸の奥で、何かが静かに軋んだ。


 男は気に留めない。


「途中で“機能しなくなった場合”も、同様に処理されます。」


 淡々と、丁寧に。

 人の命を、条件文で括る声。


「ご理解いただけますね」


「……はい」


 男は満足そうに頷いた。


「では――」


 端末を閉じる。


「次の接触まで、時間はあまり残っていません」


 澪は、ゆっくり息を吸った。


「承知しています」


 男は、ふと思い出したように付け足す。


「最後に」


 澪は顔を上げる。


「感情の処理は、各自にお任せしています」


 優しい口調だった。

 配慮しているようにすら聞こえる。


「不要な混乱を招かない範囲で、お願いします」


 澪は、ほんの一瞬だけ視線を落とした。


 そして。


「……透、ごめんね」


 小さく、誰にも向けない声。


 男は、それを聞き逃さなかったが、

 意味を問うことはしなかった。


「では、解散です」


 そう言って、男は背を向ける。


 最後に一言。


「結果を、お待ちしています」


 扉が閉まる。


 静寂。


 澪は、しばらくその場を動かなかった。


 報告は、終わった。

 でも――


 期限は、確実に近づいていた。


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