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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第39話:甘くないクリスマス






 テーブルの中央に置かれたケーキを見て、蒼真が声を上げた。


「いや改めて見てもさ、やっぱ量おかしくない?」


「クリスマスだもの。足りないよりいいでしょう?」


 透の母は当然と言わんばかりに胸を張る。


「いちご、チョコ、チーズ……」

「ほんと選び放題じゃん!」


 蒼真は迷いなくいちごのショートケーキを取り、黒瀬は一言もなくチーズケーキを皿に乗せた。


 ――澪は、その様子を一歩引いた位置から見ていた。


 甘い匂い。

 クリームの白。

 フォークが触れる音。


 どれも、自分の知っている「食事」とは少し違う。


「澪?」


 小さく名前を呼ばれて、視線を上げる。


 透が、さりげなく別の皿を差し出していた。


「こっちは甘さ控えめって言ってたけど……無理しなくていいよ」


 そこに乗っていたのは、ガトーショコラ。

 艶のある表面に、粉砂糖はほとんど振られていない。


「……苦い?」


「うん。結構」


 澪は一瞬だけ迷ってから、頷いた。


「……それでいい」


 フォークを入れる。

 しっとりと沈む感触。


 口に運ぶと、確かに甘くはない。

 ほろ苦くて、少し重たい。


 ――でも。


「……美味しい」


 思わず零れたその一言に、透はほっとしたように小さく笑った。


「よかった」


「なにそれ、澪だけフォロー手厚くね!?」


 蒼真がすかさず突っ込む。


「え? そう?」


「そうだろ! 俺なんか『好きなの取ってね』で終了だったぞ!」


「自業自得」


 黒瀬が淡々と返す。


「うっわ冷てぇ!」


 わちゃわちゃと騒ぐ二人を横目に、澪はコーヒーに口を付けた。

 苦い。

 けれど、不思議と落ち着く。



以前も、今回もだが、自分が甘さを避けていることに、言葉で触れたことはなかった。

 それでも、透は気付いた。


 その事実が、胸の奥に静かに沈んでいく。



 しばらくして、澪のポケットの中で、微かに振動があった。


 画面を見て、澪は立ち上がる。


「……ちょっと、家族から」


「寒いから上着持ってきなさいよ〜」


 透の母の声に軽く会釈し、澪は玄関を出た。


 ほぼ同時に、黒瀬も立ち上がる。


「俺も電話。すぐ戻る」


 誰にともなくそう言って、外へ出た。



 冷たい夜気。

 吐く息が白くなる。


「……はい」


 澪の耳元で、低い声が響く。


《対象・夏川透の本人自発的提供を誘導

進捗は》


 澪は、家の灯りから少し離れた位置で、ゆっくりと視線を上げる。


 少し向こうで、黒瀬が背を向けたまま立っていた。

 耳元にスマートフォンを当て、通話している――ように見える。


 こちらを一瞬だけ振り返り、目が合う。


 澪は、にこりと笑った。

 聞こえるように、あえて明るい声で言う。


「あぁ、お父さん?

その件なら……順調」


 一瞬の間。


《ナンバーエイト。期日は残り一週間だ》


「ええ、わかってる。

大丈夫だから……お父さん、また後で」


 通話を切る。


 澪が携帯をしまうと、黒瀬が近付いてきた。


「……なぁ」


 低い声。


「俺、めちゃくちゃ耳いいんだ」


 澪は一瞬だけ瞬きをする。


「……だから?」


「いや。独り言」


 それだけ言って、黒瀬は先に玄関へ戻っていった。


 澪は何事もなかったように後を追う。


 ――甘くないケーキ。

 苦いコーヒー。

 そして、残り一週間。


 クリスマスの夜は、静かに終わりへ向かっていた。

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