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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第38話:知らなかったクリスマス





―――澪視点


 教室の窓から、冬の淡い光が差し込んでいた。


 そんな中、透が机の隣で小さく俯きながら口を開く。


「……澪、あの……24日だけど、なにか予定ある?」


 声はいつもより少し弱く、どこか緊張しているように聞こえた。


「え……予定?」


 澪は一瞬、何を問われているのか分からなかった。


 24日......そう言えばクリスマス――世間では特別な日。


 過去を思い返す。

 24日といえば任務か訓練。酷い時は血を流して倒れていた記憶しかない。

 誰かと祝うという発想自体が、澪の中にはなかった。

 ケーキを食べたいと思ったこともない。そもそも、必要だと思ったことすらない。


「……あ、そっか。もう、そんな時期か」


 透の視線に気付く。

 普段と変わらない、優しくて、少し気遣い屋な顔。

 ――だからこそ、予定を聞いてくれたのだと分かる。


「……その、予定がなければ……一緒に過ごさない?」


 透の声は慎重で、けれど真剣だった。

 自分のことを大切に扱ってくれているのが伝わってきて、澪の胸がわずかに温かくなる。


 その時、背後から唐突に声が飛んできた。


「おい、俺たちも参加だろ?」


 振り返ると、蒼真がいつものようにニヤニヤして立っている。

 その横で、黒瀬は蒼真に肩を組まれ、露骨に嫌そうな顔をしていた。


「えっ……!」


 透が慌てて、「ちょ、ちょっと待って! これは澪と――」と言いかける。


「俺に予定は聞かねぇのかよ、蒼真」


 黒瀬が半ば巻き込まれた形で、低く文句を言う。


「え? 俺らボッチクリスマスだろ?」


 蒼真は悪びれもせず、肩をすくめて笑った。


「お前と一緒にすんじゃねぇ……まぁ、予定無いけど」


 黒瀬はそっぽを向いてそう言うが、その口調ほど本気で嫌がっているようには見えなかった。


 澪はぽかんとしながら、そのやり取りを眺める。

 そして、胸の奥に小さな期待が芽生えていることに気付く。


 ――こんな風に、誰かと“普通のクリスマス”を過ごすなんて、初めてかもしれない。



 そして、クリスマス当日。


 休日の午後。

 澪は駅の改札前で立ち止まり、周囲を見渡していた。


「澪!」


 名前を呼ばれて振り向くと、少し早足で近付いてくる透の姿があった。


「ごめん、分かりにくかったよね。迎えに来た」


「……ありがとう」


 本当は、組織の資料で透の家の場所は把握していた。

 けれど、それを口に出す理由はない。


 ほどなくして蒼真と黒瀬も合流し、4人で並んで透の家へ向かう。

 住宅街は静かで、吐く息が白い。


 玄関の前に立つと、透がドアを開けながら声を上げた。


「ただいま〜。みんな連れてきたよ」


 すぐに、明るく朗らかな声が返ってくる。


「あらぁ〜、いらっしゃい! さぁ入って入って!」


 ドアの向こうに立っていたのは、透によく似た、陽気な笑顔のお母さんだった。


「ああ〜、おばさん久しぶり〜!」


 蒼真がまるで親戚の家に来たかのように手を振る。


「お久しぶりです。お元気でしたか? 突然お邪魔してご迷惑じゃないでしょうか?」


 黒瀬はきっちり背筋を伸ばして頭を下げる。


「猫被り気持ち悪っ!!!」


 即座に蒼真が突っ込み、場の空気が一気に和んだ。


 その様子を一通り眺めてから、透の母の視線が澪に向く。


「あら〜……あなたが澪ちゃんね?

 まぁ!!! まぁまぁ!!! 美人さんねぇ〜!

 お母さん、可愛い子と美人さん大好き!!!」


 澪は一瞬、言葉に詰まった。

 向けられる視線は、驚くほど無邪気で、温かい。


「も!!! もう!!! お母さん!!!

 澪、ごめんね!!! お母さんミーハーな所あるから」


 透が慌てて謝るのを見て、澪は小さく笑い、首を振った。


「……いえ」


 ――初めて感じる、無条件の歓迎。


「あらぁ〜、外は寒かったでしょう? さぁ上がって上がって」


 促されてリビングに入ると、テーブルの上にはケーキが三つも並んでいた。


「ケーキ、三つ用意しといたわよ!」


「お母さん多すぎ!!!

 もう!!! 料理もこんなに用意して!!!」


 透が抗議しながら振り返る。


「お父さんはなんで止めなかったの!?」


 問われた父は、無言で視線を逸らし、そっとその場を離れた。


 澪は思わず笑ってしまう。


 ――これが、家族の空気なんだ。


「うん、透はやっぱお母さん似だな」


 蒼真が小さく呟く。

 澪はその言葉を聞きながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


 クリスマスが、こんな風に始まるなんて――

 澪は、今まで知らなかった。




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