第37話:尾行中につき青春禁止
墓地を出た途端、空気が変わった。
さっきまでの静けさが嘘みたいに、駅前の通りは人の声で満ちている。
店先の呼び込み、踏切の音、遠くで鳴るクラクション。
……普通の休日だ。
少し前を歩く透と澪も、どこか肩の力が抜けたみたいで。
並んで歩く距離が、さっきより自然になっている。
「……切り替え早くね?」
思わず呟くと、
「何か言ったか」
すぐ横で、黒瀬が低く返した。
「いや……なんでも」
墓参りの後で、笑うのが悪いわけじゃない。
分かってる。
分かってるけど――
胸の奥が、少しだけざわつく。
そのまま二人は、駅前の雑貨屋に入った。
ガラス越しに見える店内。
キーホルダーやら、ストラップやら、よく分からない小物がぎっしり並んでいる。
「……何見てんだ?」
「さぁ?」
しばらくして、透が一つ手に取った。
澪に見せて、何か言う。
澪は少し考えてから、別のやつを指差した。
――会話、聞こえねぇ。
でも。
透が笑って。
澪も、ちょっと照れたみたいに笑って。
そのまま、二人ともレジに向かった。
「……なぁ」
嫌な予感しかしない。
「今の、見たか」
「ああ」
二人が店を出てきた時、透の鞄と澪の鞄に、
同じ形のキーホルダーが揺れているのが見えた。
「……お揃い、だよな」
「見ての通りだ」
くそ。
思ったより、ダメージがでかい。
俺は黒瀬を見て、真剣な顔で言った。
「……なぁ黒瀬」
「何だ」
「俺らも……お揃い、する?」
「しない」
即答。
一ミリの迷いもない。
「即答すんな!!」
「必要性がない」
「青春だろ!?」
「違う」
切り捨て方が雑すぎる。
そのまま二人は、向かいのゲームセンターに入った。
プリクラ機の前。
透と澪が中に入るのを確認して、俺は黒瀬の腕を引っ張る。
「来い」
「嫌だ」
「いいから!!」
隣のブースに無理やり押し込む。
画面が光って、カウントダウン。
「よっしゃ〜いぇーい!!」
俺はピースを決めて、ハートを作って、全力でノる。
「……」
黒瀬は微動だにしない。
腕組みしたまま、無表情。
「おい!! もっと寄れ!!」
「断る」
撮影終了。
画面に映った写真。
俺:女子高生みたいなテンション。
黒瀬:証明写真。
「お前、顔死んでるぞ!!」
「一生分ノった」
意味が分からない。
ゲーセンを出ると、透と澪はアイスを買っていた。
それぞれ違う味。
澪が透のアイスを一口食べて、透が澪のを食べ返す。
「……」
だめだ。
直視できねぇ。
俺は黒瀬にアイスを差し出した。
「……なぁ」
「嫌な予感がする」
「一口、食べる?」
次の瞬間。
腹に、鈍い衝撃。
「っぶ!!」
「気持ち悪い」
容赦なし。
「なんでだよ!!」
「距離感を考えろ」
前を見ると、透と澪は楽しそうに笑っている。
何も知らずに。
「……なぁ」
俺は、少しだけ声を落とした。
「何も起きなかったらさ」
「またそれか」
「俺ら、ほんとにただのバカだよな」
黒瀬は答えなかった。
ただ、透の背中を見て、
ほんの一瞬だけ、表情を硬くした。
その横顔を見て、俺は思う。
(この時間が)
笑って終わって。
ただの思い出になって。
(それで、いい)
透と澪は、並んで歩いている。
――普通の、休日みたいに。
俺はその背中を見ながら、
小さく息を吐いた。




