第34話:バレなきゃいい
――蒼真視点
その話を聞いたのは、昼休みの終わりだった。
「今度の休みさ、陽菜の墓参り行くんだ」
透は、いつもと変わらない声でそう言った。
変わらない――はずだった。
「……え」
思わず声が出る。
「一人で?」
「ううん。澪も一緒」
ああ、やっぱり。
胸の奥に、小さく引っかかるものが落ちる。
嫌な予感ってほど大げさじゃない。
でも、無視するにはちょっとだけ重い。
「……そうか」
そう返したのは俺より先に、黒瀬だった。
それだけ。
それ以上、何も言わない。
透はそれで安心したみたいに笑って、
「じゃ、もう行くね。澪、待たせてるから」
そう言って、教室を出ていった。
残されたのは、俺と黒瀬。
しばらく無言。
教室のざわめきが、やけに遠く感じた。
「……なぁ」
俺が口を開く。
「あれ、ほっといて大丈夫か?」
黒瀬は机に寄りかかったまま、視線も寄こさない。
「何が」
「何がって……」
言葉に詰まる。
大丈夫な理由は、いくらでも思いつく。
澪は変なことしてない。
透も前よりずっと落ち着いてる。
俺だって、前に「白でいいんじゃね?」って言った。
――それでも。
「血のこともあるだろ」
ぽつりと出たその言葉に、
黒瀬の眉が、ほんの少しだけ動いた。
「……」
一拍置いて。
「俺は、口出ししない」
「それで終わりかよ」
「止める気はねぇ」
それだけ言って、黒瀬は窓の方へ視線を流した。
くそ。
胸の奥が、じわっと重くなる。
「俺、こっそりついて行こうかな」
「お前、それストーカーだろ」
即答。
低くて、淡々とした声。
「は!?」
「透に後でバレたら、面倒だぞ」
その一言が、妙に重く落ちた。
ぐっと歯を噛みしめる。
確かにそうだ。
透に知られたら、絶対怒る。
信用してたのに、って顔する。
でも。
「……お前は、心配じゃねぇのかよ!!!」
声が荒れる。
「心配だよ」
「だったら――」
「だからって、全部に割り込めばいいわけじゃねぇ」
黒瀬は、ようやく俺を見た。
「透は、自分で踏み込んだ」
それだけ言って、今度こそ視線を逸らす。
くそ。
苦虫を噛み潰したみたいな顔になるのが、自分でも分かった。
「……だったら」
俺は低く呟く。
「バレなきゃいいんだろ」
「は?」
「バレなきゃいい!!!」
勢いで言い切る。
「お前が止めても俺はストーカーするっ!!!」
「最低だな」
「うるせぇ!!!」
言い返しながら、心臓が早鐘を打つ。
やりすぎかもしれない。
考えすぎかもしれない。
でも――
(大丈夫だよな)
澪は、悪い奴じゃない。
透も、ちゃんと笑ってる。
それに。
(何かあったら、俺が止める)
そう思いながら、
俺はもう一度、教室の出口を見た。




